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新型コロナウイルス感染から1年後における抗ウイルス抗体および中和抗体の持続性に関する調査結果

2021.12.27
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新型コロナウイルス感染から1年後における抗ウイルス抗体および中和抗体の持続性に関する調査結果

横浜市立大学大学院医学研究科 微生物学 梁 明秀教授、宮川 敬准教授、同大学院データサイエンス研究科 後藤 温教授、東ソー株式会社などの共同研究グループは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染し回復した方の、6ヶ月後および1年後における血清の解析を行い、感染から1年後でも多くの方が検出可能な量の抗ウイルス抗体※1と中和抗体※2を有していることを報告しました。しかしながら、軽症例の一部(約20〜30%)では、感染6ヶ月後には既に変異株に対する中和活性が失われており、一方で、重症例では、感染1年後でも全ての変異体に対する中和抗体を維持していることもわかりました。

本研究は、横浜市立大学が主導した「新型コロナウイルス感染症回復者専用抗体検査PROJECT」※3の一貫として行われ、本年5月に中間報告※4をした研究成果の最終報告となります。

本研究成果は、Open Forum Infectious Diseasesに掲載されました。


研究の概要

本研究では、2020年1月から8月の間に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と診断された、日本国内の497例を対象に、感染6ヶ月と1年後に採血を行い、ウイルスに対する抗体価と中和活性を調べました。20代から70代までの幅広い年齢の方が研究に参加し、発症時の重症度は、無症状・軽症が391例(79%)、中等症が80例(16%)、重症が26例(5%)でした。

AIA-CL用 SARS-CoV-2-NP-IgG抗体試薬/SARS-CoV-2-SP-IgG抗体試薬(東ソー株式会社)、およびシュードウイルスによる中和活性測定系を用いて、血清中のSARS-CoV-2に対する抗体価(NP-IgG、SP-IgG)と中和抗体価をそれぞれ定量的に測定しました。その結果、NP-IgG抗体価は、感染6ヶ月後から1年後にかけて、2.9から1.1へと減少しました。一方、SP-IgG抗体価は13.0から9.4へ、中和抗体価は297から222へと推移し、減少傾向にはあるものの、感染1年後も維持されることが分かりました(図1)。

図1 COVID-19の重症度と抗体の持続性
いずれの検査時期においても、重症例や中等症例の方が、軽症例よりも中和抗体価は高値でした。年代別では、50歳以上の方では重症例や中等症例の方が多く、これに伴って中和抗体価が1年後でも高い傾向にありました(図2)。
図2 年代別の中和活性の経時変化 
次に、本学が独自に開発した「hiVNT新型コロナ変異株パネル」※5を用いて、変異株に対する中和抗体の保有率を定性的に調べました。その結果、軽症例の一部(約20〜30%)では、感染6ヶ月後には既に変異株に対する中和抗体の消失が起こっていることがわかりました。一方、重症例では、感染1年後でも全ての変異体に対する中和抗体を保有していることが分かりました(図3)。
図3 hiVNT新型コロナ変異株パネルによる中和抗体保有率調査 
また本研究では、変異株に対するSP-IgG抗体価を自動測定する系を東ソー株式会社と共同開発しました。その結果、hiVNTの結果を裏付けるように、重症例では感染1年後でも変異株に対するSP-IgG抗体価が高く維持されていました。さらに国立感染症研究所で分離された変異株ウイルスを用い、BSL3実験室で中和活性を評価したところ、重症例では感染1年後でも変異株ウイルスを中和する活性が実際に維持されていることを確認しました(図4)
図4  変異株に対する抗体価と中和活性

今後の展開

本研究は、COVID-19から回復された日本在住の方の6ヶ月後および1年後における免疫状況について経時的かつ包括的に調査しました。今回は液性免疫の持続性の観点から評価を行いましたが、細胞性免疫の持続性についても今後検討していく予定です。また、本研究において開発された全自動抗体検出技術を装置と共に社会実装し、今後、新たな変異株に対する抗体保有状況を集団レベルで速やかに調べ、検証を進める予定です。

謝辞

本研究は、COVID-19から回復された研究参加者の皆様、多くの医療従事者、医療機関の方々のご協力のもと行われました。この場を借りて心より感謝申し上げます。

論文情報

Persistence of robust humoral immune response in COVID-19 convalescent individuals over twelve months after infection
Kei Miyakawa, Sousuke Kubo, Sundararaj Stanleyraj Jeremiah, Hirofumi Go, Yutaro Yamaoka, Norihisa Ohtake, Hideaki Kato, Satoshi Ikeda, Takahiro Mihara, Ikuro Matsuba, Naoko Sanno, Masaaki Miyakawa, Masaharu Shinkai, Tomoyuki Miyazaki, Takashi Ogura, Shuichi Ito, Takeshi Kaneko, Kouji Yamamoto, Atsushi Goto, Akihide Ryo
Open Forum Infectious Diseases, ofab626, https://doi.org/10.1093/ofid/ofab626
Published: 10 December 2021


用語説明

1 抗ウイルス抗体 : ウイルスタンパク質に対する抗体のうち、本研究ではヌクレオカプシドタンパク質(NP)とスパイクタンパク質(SP)に結合するIgG抗体量を定量的に調べている。

2 中和抗体 : ウイルス感染阻害能を有する抗体。本研究では血清を段階的に希釈してウイルス感染を50%阻害する血清希釈倍率をNT50値としてその活性の強さを定量的に算出している。

3 回復者専用抗体検査PROJECT : 横浜市立大学が主導した、新型コロナウイルス感染症から回復した患者を対象に行われた抗体検査プロジェクト。
参考URL:https://www.yokohama-cu.ac.jp/news/2020/covid19_antibody.html
(新型コロナウイルス感染症回復者専用抗体検査PROJECT開始のお知らせ)
https://www.yokohama-cu.ac.jp/news/2020/20201202yamanaka.html
(新型コロナウイルス感染6か月後における抗ウイルス抗体保有および中和抗体保有調査に関する中間報告)

4 本研究に関する中間報告:
参考URL:https://www.yokohama-cu.ac.jp/news/2021/20210520yamanaka.html
(新型コロナウイルス感染から約1年後における 抗ウイルス抗体および中和抗体の保有状況に関する調査)

5 本学研究チームが開発した、様々なSARS-CoV-2変異株に対する中和抗体を簡便かつ迅速に測定できる手法。感染性を有する生ウイルスやゲノムを含んだ擬似ウイルスを使用しないため、危険な操作が不要で、3時間以内に中和抗体の量を測定することが可能(J Mol Cell Biol. mjab050, 2021)。


研究費

本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の令和2年度ウイルス等感染症対策技術開発事業(実証・改良研究支援)「新型コロナウイルス抗体検出を目的としたハイスループットな全自動免疫測定方法の開発及び同測定方法の社会実装に向けた研究(研究代表者:横浜市立大学 梁 明秀)」および、新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の診断法開発に資する研究(研究代表者:国立感染症研究所 鈴木忠樹、分担研究者:横浜市立大学 梁明秀)」の支援を受けて行われました。
※記事訂正について
本研究成果情報について誤りがありましたので訂正いたしました。(2022.1.11)

研究の概要部分
(誤)「日本人497例を対象に」
(正)「日本国内の497例を対象に」

今後の展開部分
(誤)「COVID-19から回復された日本人の」
(正)「COVID-19から回復された日本在住の方の」

お問合わせ先

広報課
E-mail: koho@yokohama-cu.ac.jp








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