診療科・部門案内

生殖医療センター

女性不妊

不妊症の原因を調べる検査

不妊の原因を調べるために、内診・経膣超音波検査や子宮卵管造影検査、ホルモン検査、性交後試験(Huhnerテスト)などを行います。

不妊症とは、“子どもを授かりたい健康な男女が、ある一定期間避妊をしないで夫婦生活をしても、妊娠しない”状態を指します。ここでいう“一定期間”を、日本産科婦人科学会では1年が一般的であると定義しています。不妊症の原因は、男性にも女性にもありますし、両方に原因があることもあります。性別ごとに見る不妊の原因になりうるものとして考えられるものには、以下のようなものがあります。

女性に起こりうる不妊症の原因の一例

  • 排卵因子(排卵障害)
  • 卵管因子(卵管の閉塞や狭窄、癒着)
  • 子宮因子(子宮筋腫、子宮内膜ポリープ、子宮奇形)
  • 頸管因子(子宮頸管炎、子宮頸管からの粘液分泌異常など)
  • 免疫因子(抗精子抗体など)
  • 加齢に伴う影響

男性に起こりうる不妊症の原因の一例

  • 造精機能障害(非閉塞性無精子症など)
  • 輸精機能障害(閉塞性無精子症など)
  • 性機能障害(射精・勃起障害など)
  • 加齢に伴う影響

おおまかには、女性側に原因がある場合には“排卵が適切に行われない”“卵管が詰まっている”“子宮内膜になかなか受精卵が着床しない”、男性側に原因がある場合には“妊娠に必要な精子を届けられない”ことが、不妊の原因の大部分を占めています。
このように、不妊症の原因には、“男性側と女性側のどちらかに原因があるケース”と“男性と女性の両方に原因があるケース”があります。しかし、不妊症の原因は一概に特定できるわけではなく、原因が不明であることも少なくありません。

主な検査・設備機器(女性不妊に対する検査)

女性不妊に対する検査女性不妊に対する検査

不妊の原因を調べるために、内診・経腟超音波や子宮卵管造影検査、ホルモン検査、性交後試験(Huhnerテスト)などを行います。

内診・経膣超音波検査

子宮内膜症や子宮筋腫などの病気がないかを調べるために行われる検査です。超音波プローブと呼ばれる超音波検査機器を膣の中に挿入し、子宮や卵巣の状態を検査します。刻一刻と変わる女性の性周期を正確に把握することが可能です。簡便に行える検査であり、治療中も頻回に行います。

子宮卵管造影検査

子宮卵管造影:正常所見 両側卵管から造影剤が流出している

卵管の詰まりや子宮に異常がないかを調べることを目的としており、子宮の形や卵管の閉塞、卵管留水症、卵管や子宮周辺の癒着の有無を確認する検査です。やや痛みを伴う検査ですが、受精の場である卵管を評価しますので、重要な検査のひとつです。卵管に問題のある場合には体外受精などをお勧めすることになります。

ホルモン検査

血液検査を通じて女性ホルモンの分泌、甲状腺機能に異常がないかを調べるとともに、妊娠が成立しやすい時期に必要な分の女性ホルモンが分泌されているかを確認する検査です。月経周期に合わせて通常2-3回採血(低温期-排卵期-高温期)を行い、妊娠に求められるホルモンの状態を把握していきます。

性交後試験(フーナー検査)

妊娠が成立しやすい日に夫婦生活(性交)を行い、翌日に女性の子宮頸管粘液を採取します。その採取した粘液の中に、直進運動精子が認められるかを調べる検査です。認められない場合には、抗精子抗体について調べていきます。

反復着床不全検査

当院または他院にて体外受精胚移植治療が3-5回(年齢により)以上、不成功となった患者さんには、状況に応じて主治医より、ビタミンやミネラルの血中濃度検査、Th1/2比(免疫寛容の検査)、子宮内膜の検査等が勧められます。保険検査のもの、先進医療扱いのもの、自費検査のものがあります。

子宮鏡検査

子宮内膜ポリープを認めた患者さんや、反復不成功の患者さんには子宮鏡検査で精査を行います。

当院での女性不妊の治療の種類

当生殖医療センターでは、不妊治療において、タイミング療法や人工授精などの一般不妊治療に加え、生殖補助医療ARTも行っています。また、大学病院に併設された生殖医療センターなので、“内科と連携して高度な内分泌管理を要する症例”、“外科治療を必要とする症例”、“若年がん患者さんのための妊孕性温存治療”、“遺伝学的な問題と向き合う症例”なども近隣の施設よりご紹介して頂き診療しております。

妊娠するまでの過程には、排卵・射精・受精・着床などの複数のステップがあります。このステップがスムーズに進むようお手伝いすることが不妊治療です。そしてこの不妊治療は、医療介入の違いにより「一般不妊治療」、「生殖補助医療」の大きく二つに分けられます。

検査が一通り終わって、不妊原因が判明したらそれに対しての治療を行います。通常はより自然妊娠に近く、負担の少ないタイミング療法から開始して段階的に体外受精へと治療のステップアップを行います。同じ治療を5-6回繰り返しても妊娠に至らない場合、次の治療のステップにすすむのが一般的ですが、不妊原因・年齢・個人的背景により治療の内容を相談しながらすすめていきます。

治療方法の種類

治療方法名称 排卵 射精 受精 着床
一般不妊治療 タイミング療法 体内での排卵
(排卵日予測)
腟内射精 体内 体内
シリンジ法 体内 体内
人工授精 精液を洗浄濃縮し子宮内へ注入 体内 体内
生殖補助医療ART 排卵前に卵子回収(採卵) 精液を洗浄濃縮し体外受精用に調整 体外受精
顕微授精
胚移植後に体内で起きる

一般不妊治療

一般不妊治療は「タイミング療法」、「人工授精(IUI)」に細分化され、ともに介入が比較的少ない治療方法です。
タイミング療法では腟内に射精された精子が子宮内に入り受精に至りますが、人工授精では精子を子宮内に直接注入することで精子が卵子に達しやすい状態とすることを目指した方法です。いずれも排卵が必須であるため、排卵障害がある場合には排卵誘発剤を使用することがあります。
さらに、排卵日を予測して受精が起きやすいタイミングを見つけることが必要です。そして予測した排卵日を基準として、タイミング療法では通常は性交渉を持っていただきます。腟内射精ができない場合には、マスターベーションで回収した精液をシリンジで吸引して腟内へ注入するというシリンジ法を行います。対して人工授精は、カテーテルを用いて精子を子宮内へ直接注入します。この際には回収した精液に対して洗浄濃縮処理を行うことが一般的で、軽度の精液所見不良であればこの方法で解決することが可能です。人工授精における副作用には、出血や感染などがあります。
また、タイミング療法、人工授精共に適応を満たせば保険適用となります。

一般不妊治療一般不妊治療

生殖補助医療

生殖補助医療生殖補助医療

「生殖補助医療」はART(Assisted Reproductive Technology)とも呼ばれる治療方法で、受精のさせ方によって体外受精・顕微授精と分かれますが、すべてまとめて体外受精と呼ばれる場合もあります。以下の一連の流れで治療を行っていきます。

  1. 卵巣刺激:排卵誘発により複数の卵胞を育てる
  2. 採卵:超音波下に卵巣内の卵胞を穿刺し卵子を体外に取り出す
  3. 受精:体外受精または顕微授精
  4. 受精卵、胚培養:原則としてタイムラプスインキュベータ*を使用します。
  5. (胚凍結保存)
  6. 胚移植

前述の一般不妊治療では妊娠の可能性がないか極めて低いと判断されたご夫婦を対象に体外受精-胚移植を行います。当院では、患者さんの内分泌学的な状況に応じて、最適な体外受精の方法をカンファレンスで検討してから決定しております。排卵誘発は、予定した日程で採卵・胚移植できるように調節卵巣刺激を原則としていますが、症例により排卵誘発剤をほとんど使用せず採卵を行う方法(低刺激)も行っています。採卵の際の麻酔は、静脈麻酔としていますが、低刺激の場合は痛み止めの座薬を使用することもあります。
 
*タイムラプスインキュベータ:個々の胚の発生過程を数分毎に内蔵カメラで撮影した動画を用い観察することにより、胚の状態を詳細に評価できる。また培養器から取り出すことなく胚を観察できるメリットがある。

体外受精

麻酔をかけた女性より卵子を外科的に体外に取り出し(採卵)、調整した精子と一緒に培養することで受精を成立させる方法です。その後、数日間受精卵を培養し、適切なタイミングで子宮内に移植します。

顕微授精

体外受精を行っても受精が成立しない場合や高度の乏精子症・受精障害に対し、顕微鏡下でマニピュレーターを用いて1つの精子を卵子に直接注入することで受精を成立させる方法です。無精子症には、精巣内精子回収術にて採取された精子を用います。

受精卵の凍結と融解胚移植

1回の採卵で採取した複数の卵子を精子と受精させて発育したいくつかの受精卵を凍結して保存しておくことが可能です。移植する胚以外に質の良い胚がある場合、または卵巣過剰刺激症候群により採卵周期で妊娠が成立すると危険と判断された場合などに行います。凍結して保存した受精卵は、状態を変化させることなく何十年間にもわたり保存することが可能で、次のお子さんの妊娠を希望された際にも、凍結しておいた受精卵を用いることができます。

令和4年4月より、生殖補助医療は、年齢・回数の制限の範囲内で健康保険が適用となりました。
しかし、保険適用の条件を満たしている方でも、一部の治療については保険適用外となります。
国から先進医療として承認されている治療(タイムラプスインキュベータによる胚培養、反復着床不全に対する子宮内膜スクラッチ、子宮内膜フローラ検査など)については保険適用の診療と先進医療の併用は可能ですが、それ以外の保険適用外の治療(不動精子に対するペントキシフィリンなど※)を含む場合には、一連の生殖補助医療のすべてが保険適用外の自費診療となります。
また、着床前診断に関しても同様で※、これらを目的とした生殖補助医療はすべてが保険適用外の自費診療となります。
ただし、今後国から先進医療として承認されれば、保険診療と先進医療の併用が可能となります。
(注:※2023.9.28現在)

ART説明動画(日本語)

  • (英語、中国語版をご希望の方は、外来受診時にお尋ねください。)
    ART説明外来においでになる前に必ず、パンフレットをお読みいただき、動画をご覧になってからおいてください。

不妊治療の効果

妊娠には様々な要素が関連しているため、各治療方法による詳細な妊娠率は一概には示すことができません。一般的に子宮や卵管・卵巣に明らかな器質的な異常がなく、男性因子を除外したカップルでの人工授精の妊娠率は1周期当たり10.1% (25周期/246周期)と報告があります。体外受精など高度生殖補助医療ARTに関しては、2021年度の全国統計によると(下図)、1周期の胚移植当たりの妊娠率は35.0% (94164周期/269170周期)と報告されていますが、その内24.9%が流産に至っています。そしてこれらの数値は年齢によって大きく異なります。

ART妊娠率・出生率・流産率2021ART妊娠率・出生率・流産率2021

外科手術を伴う治療

生殖医療センターでは、おもに県内の婦人科開業医の先生からご紹介いただき、婦人科系疾患や男性不妊を対象とした外科手術を必要とする治療にも取り組んでいます。

腹腔鏡手術

  •  子宮内膜症(婦人科ページへ)
  • 骨盤内癒着が疑われる症例

  • 多嚢胞性卵巣症候群

鏡下手術

先進医療

  • タイムラプス(タイムラプス撮像法による受精卵・胚培養)
  • 子宮内膜スクラッチ(子宮内膜擦過術)
  • 子宮内フローラ検査(子宮内細菌叢検査2)

申請準備中

  • 二段階胚移植法(二段階胚移植術)
  • SEET法(子宮内膜刺激術)
  • ERA(子宮内膜受容能検査1)
  • EMMA・ALICE(子宮内細菌叢検査1)

Turner症候群に対する妊孕性温存治療

当院ではTurner症候群の包括的な健康管理・妊娠管理・分娩管理を行っております。
Turner症候群の患者さんは重度の早発閉経を伴うことが多く、挙児をあきらめざるを得なかったり、妊娠するのに国内では限定的にしか行われていない卵子提供に頼らざるをえなかったりしております。
当生殖医療センターでは、自己卵子を用いた妊娠率の向上を目指し、妊孕性温存療法(“卵子凍結”“受精卵凍結”“卵巣組織凍結”)を積極的に行っております。(日本産科婦人科学会および横浜市立大学倫理委員会承認済み)

妊孕性温存治療(にんようせいおんぞんちりょう)

がん等の疾患に対する抗がん剤等の治療、もしくは疾患自体の特性(Turner症候群など)によって、卵巣機能が本来よりも著しく早く低下・喪失し、一般的には生殖年齢であるにもかかわらず妊娠することが難しくなってしまう場合があります。このような医学的な理由によって、妊娠する可能性(妊孕性)が低下・喪失してしまうことが予測される場合には妊孕性温存治療(“卵子凍結”“受精卵凍結”“卵巣組織凍結”)を行っております。
妊孕性温存外来では、妊孕性温存についてご説明し、患者さんの意思決定がスムーズになるようサポートをしています。お話を聞いていただいた上で、温存治療を受けないという選択をされても全く問題ありません。実際の治療方法は、患者さんのがんの種類や進行具合、状況を踏まえて決めていきます。

妊孕性温存治療妊孕性温存治療

卵子凍結(未受精卵子凍結)

患者さんから採取した卵子を凍結する方法です。この方法によって卵子を凍結した場合、卵子1個あたりの妊娠率は4.5-12%程度とされています。
また、凍結しておいた卵子を融解して顕微授精を行った後に、状態の良い受精卵を胚移植します。生まれた児に染色体異常や先天異常・発育障害が増大することはないという報告もあり、現在は有効かつ安全な臨床技術であるとされています。

胚凍結

この技術は患者さんから採取した卵子とパートナーの精子を受精させ、数日間培養して細胞分裂が進んだ胚という状態にした後に凍結する方法です。
本方法は不妊治療として行われる体外受精の手法で広く実施されており、有効性・安全性がほぼ確立した技術であるため、パートナーがいらっしゃる方には第一選択となる方法です。(当院ではパートナーは婚姻関係のある方に限ります。)
原疾患治療終了後、主治医より妊娠の許可がある場合、胚移植を行います。凍結胚1個あたりの妊娠率は患者さんの年齢により大きく異なりますが、約2-3割と言われています。

卵巣凍結

腹腔鏡手術によって片方の卵巣を摘出し、その組織を凍結、妊娠希望となった時に融解して体内へ戻す(移植する)技術です。
1997年に海外で初めて卵巣組織凍結が行われ2004年に最初の出産例が報告されており、その有効性に注目が集まっていますが、移植した症例数は多くありません。生まれた児の染色体異常や先天異常は増えないとの報告もありますが、長期の成長報告はまだありません。一度にたくさんの卵子の元となる細胞を保存できる、治療期間が短くて済む、思春期前の女児においても施行できる等メリットがありますが、手術によるトラブルの可能性もあります。
また悪性腫瘍の治療のために本治療を受けられた場合、卵巣組織を体内に移植する時に卵巣内のがん細胞が再移植されてしまう可能性、さらには移植卵巣が生着する保障がない等のデメリットもあります。

妊孕性温存治療説明動画

  • 妊孕性温存外来においでになる前に必ず、説明文書をお読みいただき、動画をご覧になってからおいてください。

助成金の詳細(神奈川県内に住所を有する方)に関しては下記をご参照ください。

着床前診断(PGT)

着床前診断(PGT) 着床前診断(PGT)

体外受精や顕微授精によって得られた受精卵が、染色異常や、ご両親いずれかが保有している重篤な遺伝性疾患の遺伝子を有していないかを、子宮へ移植する前に調べる検査です。当生殖医療センターは日本産科婦人科学会から着床前診断を許可された施設です。
不妊症(反復不成功、反復流産)の染色体異常に関する着床前診断(PGT-A、PGT-SR)は2022年までは日本産科婦人科学会主導の多施設共同研究の一環として行っていました。現在では高度な倫理的対応が必要な臨床として自費で行っております。
遺伝性疾患に対する着床前診断(PGT-M)は患者さんごとに日本産科婦人科学会の審査を受け、承認されたのちに行うことが可能となります。審査結果を得るまでに数か月(6-9か月程度)は必要とされ、疾患によっては承認されない場合もあります。妊娠してから行う出生前検査(絨毛検査・羊水検査)と異なり、着床前診断では妊娠する前に診断が可能なため、検査による母体への負担が減ると考えられます。
2023年9月現在、着床前診断はいずれも保険適用がなく、まだ広く先進医療として承認されていないため(大阪大学が承認され開始準備中)、採卵を目的とした調節卵巣刺激からの一連の診療がすべて自費診療となります。