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生殖医療センター

男性不妊

特発性不妊症

男性不妊症の原因の約8割が、精液所見に何らかの異常を認める「造精機能障害」と考えられています。そのうち約半数が原因をひとつに特定できない、「特発性」の男性不妊症です。特発性男性不妊症のなかには、ストレスや生活習慣、環境因子などさまざまな要因が複合的に関与しているものがあります。
まずは原因となりそうな生活習慣を診察時に聴取させていただき、生活習慣の見直しや、サプリメントの摂取、薬物治療などを行うことによって精液所見や精子の質の改善を目指します。また精液所見によっては、人工授精・体外受精・顕微授精など、パートナーの早めの治療介入が必要となることもあり、適正な不妊治療のアドバイスもさせていただきます。

精索静脈瘤

精索静脈瘤は一般男性の約15%にみられる疾患で、精巣から心臓に戻る精巣静脈が、解剖学的な理由によって逆流を起こし、精巣の上に瘤(こぶ)状に拡張する状態を指します。ほとんどの方が左側に発生しますが、まれに両側に発生することもあります。触診やエコー検査によって診断可能です。熱のストレスや酸化ストレス(さび)によって精子の濃度や運動率、質の低下がみられるだけでなく、陰のうの痛みが生じる可能性があります。また、精子のDNAが損傷を受けることによって、生殖補助医療における妊娠率も低下することが知られています。さらに、時間の経過とともに精液所見が悪化することが知られており、二人目不妊の大きな原因とも考えられています。

精索静脈瘤は症状や静脈の拡張の程度によって治療の適応が決まります。現時点でもっと有効と考えられる治療は、そけい部(足の付け根)を2cmほど切開し、逆流している精巣静脈や外精静脈を結紮し、動脈やリンパ管を温存する顕微鏡下精索静脈瘤手術となります。当院では本術式を保険で、全身麻酔または脊椎麻酔下に入院で行っています。手術によって、精液所見の改善だけでなく、精子の質の改善が期待できるため、生殖補助医療に進まれているカップルの男性パートナーに対しても積極的に行います。

痛みを伴う精索静脈瘤

精索静脈瘤精索静脈瘤

精索静脈瘤はまた、拡張した静脈が精索の神経を圧迫することにより精巣に鈍い痛みが周期的に起こることがあります。漢方製剤でうっ血を改善させることにより痛みが和らぐこともありますが、改善が見られない場合は手術療法の適応となります。精巣静脈の結紮だけでなく精巣の神経を切断する、顕微鏡下精索除神経を行うことで、約9割の方が痛みの改善がみられます。
痛みの改善がみられない方に対しては、ペインクリニックへのご紹介も行います。

無精子症(閉塞性・非閉塞性)

無精子症無精子症

射出精液中に精子を認めない状態を無精子症といい、一般男性の約100人にひとりがこの状態に該当すると言われています。原因として、精子の通り道(精巣上体や精管、射精管)に問題があり、精液中に精子がみられない「閉塞性無精子症」と、精巣内で精子を形成する機能が低下し、精子がまったく造られない、またはほとんど造られない「非閉塞性無精子症」に分類されます。
鑑別方法として、精巣の触診やエコー検査、採血(ホルモン検査、染色体・遺伝子検査)などがあります。非閉塞性無精子症に対しては、精巣を大きく切開し、手術用顕微鏡下に拡張した精細管を採取する「顕微鏡下精巣内精子採取術(Micro-TESE)」(図)を、閉塞性無精子症に対しては、精巣に1cm程度の小切開を加え、精細管を採取する「精巣内精子採取術(conventional TESE)」を行います。精子回収率は、前者は30〜40%、後者は約90〜100%となります。いずれの方法で採取した精子も、顕微授精を行うことで挙児が可能となります。
また、閉塞性無精子症患者さんに対しては精巣内精子採取術のほか、精路再建術も行っています(同時施行は不可)。これらの治療は原則保険診療でおこなっております。

勃起・射精障害

不妊を主訴とした勃起・射精障害を有する患者さんに対して薬物治療なども行っています。薬物治療で効果が期待できない射精障害の患者さんに対しては、精巣から精子を回収する「精巣内精子採取術(conventional TESE)」を行う場合があります。

男性更年期

40-50代の男性は、年齢とともに男性ホルモンである血液中のテストステロン濃度が徐々に低下することによって、気力や集中力の低下やイライラ、筋力の低下や性欲・勃起機能の低下など更年期症状がみられることがあります。この状態をLOH症候群と呼びます。
診断には男性更年期の問診票(AMSスコア)と血液中のテストステロン(総テストステロンまたは遊離型テストステロン)測定を行います。治療の適応がある方は、テストステロン製剤の注射(筋肉注射)を2〜4週ごとに行います。症状安定した方は、お近くのクリニックにご紹介させていただくこともございます。

そのほか男性の性に関するお悩みについても診察いたします。

主な検査・設備機器(男性不妊に対する検査)

精液検査

男性の妊孕性を評価するもっとも基本となる検査です。精液量や精子濃度(1mlあたりの精子数)、運動率(全精子に占める運動精子の割合)を測定します。SMASと呼ばれる自動測定器を用いて評価します。WHO(2021年度版)の基準下限値は下記のようになります(※SMASでは正常形態率は測定できません)。

 
精液量 1.4ml
精子濃度 16×106個/ml
総精子数 39×106個
運動率 42%
前進運動率 30%
正常形態率 4%

身体診察

おもに陰のうの診察を行います。立った状態で精巣の触診を行い、精巣が陰のう内に触れるか、精巣に硬い腫瘤を触れないか確認し精巣の大きさを測定します。また精子の通り道(精巣上体・精管)の触診を行い、異常がないか確認を行います。
そして立った状態で精索静脈瘤の診察を行います。下の分類に従って、視診・触診を行ったのち、お腹に力をかけてもらい、拡張した静脈を触れるか確認します。

Grade3 立位腹圧負荷なしで視診で診断可能
Grade2 立位腹圧負荷なしで触診で診断可能
Grade1 立位腹圧負荷(Valsalva法)で触診で診断可能
サブクリニカル 触診で触知できず、超音波でのみ診断可能

陰のう超音波検査

精巣の大きさや、精巣内に腫瘍がないかを調べます。また立った状態で、精巣の付け根にある血管が拡張していないかを観察します。ドップラー法でも観察し、拡張した血管内にうっ血所見を認める場合、上の触診所見と合わせて精索静脈瘤と診断します。

陰のう超音波検査陰のう超音波検査

ホルモン検査

精子は精巣内で産生される男性ホルモン(テストステロン)と脳の下垂体というところから産生される卵胞刺激ホルモン(FSH)によって形成されます。これらのホルモンを測定することにより、造精機能障害の原因や、障害されている部位を特定することが可能です。
また、下垂体からのゴナドトロピン(卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH))の分泌低下により精巣内のテストステロン分泌が低下し、第二次性徴の遅れや精子形成障害をきたす「低ゴナドトロピン性男子性腺機能低下症」の診断にも有用です。

染色体検査

染色体異常は男性不妊患者の2〜10%に認められます。その中で最も多いのがX染色体の過剰であるクラインフェルター症候群であり、無精子症をきたすことが多いため、無精子症の原因検索の目的で行います。原則的に保険で、採血で行います。結果が出るまで3週間程度要します。

Y染色体微小欠失検査(AZF欠失検査)

Y染色体上に、精子を造るのに関連した遺伝子群である、AZF遺伝子が存在します。その遺伝子に欠失がないかを調べる検査です。欠失のサブタイプによっては全く精子形成が行われていない可能性があり、精巣内精子採取術の前に必ず行っておくべき検査といえます。原則的に保険で、採血で行います。