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大学院生命ナノシステム科学研究科/データサイエンス学部 立川教授、日本コンピュータ化学会学会賞受賞

2018.07.03
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立川教授、日本コンピュータ化学会学会賞受賞

2018 年6月7日(木)、8日(金)に東京工業大学大岡山キャンパスで開催された、日本コンピュータ化学会2018春季年会において国際総合科学群大学院生命ナノシステム科学研究科・データサイエンス学部 立川仁典教授が日本コンピュータ化学会「学会賞」(課題名:量子多成分系分子理論の開発と応用)を受賞しました。
この学会賞は、「コンピュータ化学の発展に関する多岐にわたる業績が、我が国のコンピュータ化学分野の学術ならびに技術水準の向上に多大な貢献をしたと認められたもの」に授与されるもので、今回の受賞は13人目となります。また本学会賞の評価基準として、学術研究だけでなく、「コンピュータ化学の多様な産業技術への実践的応用と産学連携によるコンピュータ化学の発展への貢献」についても明記されている点は、一つの特徴でもあります。

このたび、立川先生に研究活動と受賞の感想をインタビューしました。

図1 コンピュータ化学会会長・細矢治夫氏から学会賞を授与される立川仁典教授

1. 日本コンピュータ化学会 学会賞を受賞されましたが、先生のどのような研究活動が評価されたことによるのでしょうか。

私はこの15年間にわたり、本学にて「量子物理化学研究室」を主宰してきました。生命科学・化学・物理学、そしてそれら各分野の境界領域には、とてつもなく広大な「未開の知」が拡がっています。私の研究室では、本学会名にもなっている「コンピュータ」を用いたシミュレーションやデータサイエンス的手法を駆使して、様々な自然科学現象の理解、そして予測に挑み、この「未開の知」を開拓しています。その中でも私の研究の基軸は、従来手法や既存のプログラム(アプリ)だけでは達成できないような、より精緻なシミュレーションの実現にあります。すなわち、①新しい理論手法・計算手法・統計手法の開発とプログラム(アプリ)への実装、そして②本手法を駆使した現実系(実社会)への応用展開です。今回の受賞では、「横浜市立大学量子物理化学研究室」での、このような私の研究の基軸を評価いただけたものと考えております。以下、本学会賞で評価いただいた当研究室の研究活動を、具体的に紹介させていただきます。
 
まず「我が国のコンピュータ化学分野の技術水準の向上への貢献」としては、①の新しい手法の開発が挙げられます。精緻なシミュレーションを実現するために、粒子をビーズで繋げてネックレスのように表現する手法(経路積分法[1])、またサイコロを振って(乱数を用いて)物質の状態をシミュレーションする手法(量子モンテカルロ法[2])を開発してきました(詳しくは量子物理化学研究室のWebサイトへ)。これらの手法の特徴は、いずれも複数台のコンピュータを効率的に使用できるアルゴリズム(=並列化)を内包している、という点にあります。実際に我々の課題は、文部科学省のHPCI戦略プロジェクト(京コンピュータ)や、東京工業大学TSUBAMEグランドチャレンジにも採択されており、数千台の計算機を用いた実装実験で100%近い並列化効率を達成し、かつ世界最高精度の計算を実現することに成功しました[1,2]。今後の超並列計算機環境においても、我々の手法は大きく貢献できるものと期待されています。
 
次に「我が国のコンピュータ化学分野の学術水準の向上への貢献」としては、②開発した手法を駆使して「未開の知」を果敢に開拓している点が挙げられます。当研究室を立ち上げた際、実験的にも理論的にも未踏な問題を解決するために、新たな「水素系量子シミュレーション技術」を構築しました。水素は森羅万象の科学現象を引き起こす中心的な役割を果たします。本研究により、例えば、水素結合型強誘電体やたんぱく質中における特殊な水素結合等に見られる、水素原子の量子揺らぎ(量子水素)が関与する現象や、H/D同位体効果に伴う物理量の変化を理論的に再現し、それらのメカニズムを明らかにすることができました[1,3] (図2)。このような「量子水素の科学」の研究は、物理化学的な基礎研究に新しい局面を開くだけでなく、材料科学から生命科学といった多岐にわたる研究分野、とりわけ水素エネルギー関連技術といった応用分野への新展開にも繋がるものと考えています。
 
一方、我々の手法は、従来の計算化学の方法では扱うことができなかった、陽電子(電子の反物質)やミューオンを含む化合物にも適用可能であることも見出しました[2,4](図2)。陽電子は対消滅による非破壊測定という特性から、工学や医療(例えばPET)等の幅広い応用分野で既に実用化されてはいますが、分子レベルでの詳細は十分に解明されていませんでした。我々の開発した手法を応用することで、分子レベルで実験結果を再現するだけでなく、陽電子付着のメカニズムを説明することにも成功し、その結果を多くの実験研究者にフィードバックしてきました。
 
もう一点、本学会賞の受賞理由に欠かせないのが、「コンピュータ化学の多様な産業技術への実践的応用と産学連携によるコンピュータ化学の発展への貢献」です。我々は、産業界での積極的な計算科学支援を目的に、産業界の視点に立った産学連携によるアプリの開発・実装を行っています。具体的には、化学・材料系製造業との連携として、計算科学の基礎から応用までの支援だけでなく、産業界との共同研究の推進や、さらには社会人学生の受入れも、積極的に実施しています。なお産学連携に関しては、本学第1期学術的研究推進事業「産学連携等支援プロジェクト」(平成28年度~30年度)にてご支援いただいていることを付記しておきます。
               図2 量子多成分系分子理論の概念図

2.受賞された感想と今後の研究活動について

このたび、日本コンピュータ化学会にて学会賞を受賞できましたことは、身に余る光栄と心より感謝申し上げます。歴代受賞者12名の大先輩方に引けを取らぬよう、今後もより一層研究に励む所存です。我々の開発してきた理論手法・計算手法・統計手法は、確かに従来手法では解釈が困難であった多くの実験事実に対して、明確な解釈を与えることに成功してきました。しかしながら「実在系」また「予測という逆問題」を対象とすると、解決すべき課題は依然として数多く残されています。より実構造に近い高精度・大規模計算をどのように実現していくのか、またどのように計算機を駆使して予測していくのか、、、データサイエンスへの展開や産学連携がキーワードとなるでしょう。
 
横浜市立大学にて量子物理化学研究室を主宰し、お陰様で15周年を迎えることができました(図3、図4)。普段あまり過去を振り返る余裕も無く、この15年間は、猪突猛進、とにかくがむしゃらに突き進んできた(進んでいる)というのが正直なところです。これまで11名のスタッフおよび50名の学生に恵まれ、34名の修士と5名の博士を産官学に輩出してきました。研究室運営では横浜市大らしさを活かし、特に研究室全体のチーム力を重視して研究に切磋琢磨してきました。このような当研究室学生との共同研究こそが、本受賞の契機となったことは言うまでもありません。本学会賞の受賞者は立川となってはいるものの、心強いサポートをしてくれたスタッフや学生諸君による寄与が大きく、むしろ研究室チーム全体としての受賞であったことを改めて強調しておきたいと思います。
 
最後になりましたが、未だ発展途上ではあるものの研究室がここまで成長できたのは、ひとえに横浜市大の教員・職員の皆様、国内外の先生方のご指導、研究室スタッフによるサポート、家族の理解、そして何よりも研究室を盛り上げてくれた学生諸君の頑張りとそのチーム力のお陰であります。この場をお借りして、改めて感謝の気持ちをお伝え申し上げます。さらなる研究・教育に邁進していく所存でありますので、今後とも我々横浜市立大学量子物理化学研究室への、引き続き変わらぬご指導を賜りますよう宜しくお願い申し上げます。
図3 量子物理化学研究室15周年記念会
図4 2018年度量子物理化学研究室
 [1] MT and M. Shiga, J. Am. Chem. Soc. (Communication), 127, 11908-11909 (2005). A. Hayashi, M. Shiga, and MT, J. Chem. Phys., 125, 204309 (9 pages) (2006). K. Suzuki, M. Shiga, and MT, J. Chem. Phys., 129, 144310 (8pages) (2008). K. Suzuki, MT, and M. Shiga, J. Chem. Phys., 132, 144108 (7pages) (2010). Y. Kawashima and MT, J. Chem. Theor. Comput., 10, 153-163 (2014). T. Kawatsu and MT, Phys. Chem. Chem. Phys., 20, 1673-1684 (2018).
 
[2] T. Saito, MT, C. Ohe, K. Iguchi, and K. Suzuki, J. Phys. Chem., 100, 6057-6060 (1996). Y. Kita, R. Maezono, MT, M. Towler, and R. J. Needs, J. Chem. Phys., 131, 134310 (6pages) (2009), 135, 054108 (5pages) (2011). Y. Yamada, Y. Kita, and MT, Phys. Rev. A, 89, 062711 (5pages) (2014). 
 
[3] MT. Chem. Phys. Lett., 350, 269-276 (2001), 360, 494-500 (2002). T. Udagawa and MT, J. Chem. Phys., 125, 244105 (9pages) (2006). T. Udagawa, T. Tsuneda, and MT, Phys. Rev. A, 89, 052519 (5pages) (2014). Y. Kanematsu and MT, J. Chem. Phys., 140, 164111 (7pages) (2014), 141, 185101 (8pages) (2014). Y. Kanematsu, Y. Kamiya, K. Matsuo, K. Gekko, K. Kato, and MT, Scientific Report, 5, 17900 (5pages) (2015). K. Yamamoto, Y. Kanematsu, U. Nagashima, A. Ueda, H. Mori, and MT, Phys. Chem. Chem. Phys. (Communication), 18, 29673-29680 (2016). Y.-Y. Zhan, T. Koide, T. Mashiko, MT, S. Hiraoka, et al, Communications Chemistry, 1, 14 (2018).
 
[4] MT, Y. Kita, R. J. Buenker, Phys. Chem. Chem. Phys., 13, 2701-2705 (2011), New J. Phys., 14, 035004 (10pages) (2012). K. Yamada, Y. Kawashima, and MT, J. Chem. Theor. Comput., 10, 2005-2015 (2014). Y. Oba, T. Kawatsu, and MT, J. Chem. Phys., 145, 064301 (15pages) (2016). 
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