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国際総合科学群及川教授が中枢神経系シナプス受容体と選択的アンタゴニストIKM-159の分子相互作用を解明!

2013.03.22
  • プレスリリース
  • 研究

概要

 学術院国際総合科学群及川 雅人教授は中枢神経系シナプス受容体のひとつ、AMPA型受容体に対する選択的アンタゴニスト*1)として開発したIKM-159の作用機構を解明しました。 それは、天然アミノ酸とは逆の立体化学の(2R)-IKM-159がAMPA型受容体のサブユニットタンパク質二量体に対して1分子だけ結合するという、従来にない形式でした。IKM-159は人工合成リガンド*2)で、その類縁体の中には全く異なる作用をAMPA受容体に対して示す化合物もあります。
 今回の研究成果は、解明が待たれているiGluRのチャネル活性の分子機構を明らかにし、さらにiGluRが関与するさまざまな脳疾患に対する治療薬の開発につながるものです。この研究成果はアメリカ化学会の医薬品化学に関する学会誌Journal of Medicinal Chemistry誌に掲載されました。
 なお、本研究は本学の戦略的研究推進費の助成を受けて行われました。

研究内容

 イオンチャネル型グルタミン酸受容体 (iGluR) は、ヒトなどほ乳類の中枢神経系の興奮性神経伝達に関与し、記憶や学習など脳の高次機能を担います。iGluRはまた痛みの伝達や、てんかんなどの脳障害、アルツハイマー病などにも関係があると言われています。
 このようにiGluRは多様な機能を有しますが、その構造も極めて多様で、18種類にも及ぶサブユニットタンパク質がホモ、あるいはヘテロメリックに四量体化して形成されています。構造、機能ともに多様なiGluRによりもたられる脳の高次機能を分子レベルで理解し、さらに脳疾患に対する治療薬を開発するために、iGluRに選択的・特異的に作用する化合物の開発が求められています。
 こうした背景にあって、及川教授らはiGluRの一種であるAMPA型受容体に関心を持って研究を進めてきました。AMPA型受容体は上述したような脳の高次機能や疾患に極めて密接に関与するタンパク質です。そして2010年、及川教授らはAMPA型受容体選択的なアンタゴニストとしてIKM-159を合成化学的に開発することに成功しました。
 しかし、ラセミ体で合成を行っていたIKM-159のどちらの鏡像体がAMPA型受容体の阻害活性を担っているかはこれまでわかっていませんでした。本研究では、IKM-159の両鏡像体をそれぞれ選択的に合成することに成功しました。化学合成によって得た光学活性体を用いて生物活性を評価したところ、in vitroおよびin vivoの両方において、(2R)-体が、それまでラセミ体で観察されていたAMPA型受容体に対する阻害活性を再現することを見いだしました。天然アミノ酸と同じ立体配置である(2S)-体は活性を有しないことも判明しました。
 また、ラセミ体IKM-159を、AMPA型受容体のサブユニットタンパク質GluA2のリガンド結合ドメイン二量体に作用させて得た複合体のX線結晶構造解析を行いました。その結果、やはり(2R)-体がGluA2と結合することや、その結合部位はグルタミン酸結合部位と同じであることが明らかになりました。さらに、(2R)-IKM-159と結合したGluA2はopen formコンホメーションになることも判明しました。これはAMPA受容体に競争的アンタゴニストが作用したときと同様のコンホメーションです。

中央の黒線:IKM-159
中央の緑線:カイニン酸(アゴニスト)

今後の期待

 GluA2(dimer)/IKM-159複合体において両者の相対比率は2:1であり、その相互作用形式は多くの新規性を含むものでした。及川教授らはすでにIKM-159関連化合物の中から、アゴニスト様の化合物の開発にも成功しており、こうした化合物を用いる研究展開は、分子レベルでの解明が遅れているiGluRのチャネル活性機構を研究するうえで有用です。
 本研究はiGluRに対して様々な機能を引き出す合成化合物の有用性を示すものです。将来的には脳疾患に対する治療薬の開発が可能になります。

用語説明

*1)選択的アンタゴニスト
アンタゴニスト (antagonist、拮抗薬)
は、受容体分子(多くの場合、タンパク質など生体高分子)に作用する有機小分子化合物で、本来のリガンドの働きを阻害する。アンタゴニストには、特定の受容体分子にのみ作用することが求められる。そうした化合物を選択的アンタゴニストと呼ぶ。

*2)人工合成リガンド
リガンドは受容体分子に特異的に結合する有機小分子のこと。多くの生体高分子には内在性のリガンドが存在する(たとえばグルタミン酸受容体に対するグルタミン酸など)。人工合成リガンドは本来のリガンドとは異なる効果をもたらすことを期待して開発される。アンタゴニスト(拮抗薬)やアゴニスト(作動薬)、あるいはパーシャルアゴニストとして作用し多様な効果をもたらす。目的によっては作用を発揮しないリガンドも、基礎研究の分野では重要である。
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