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オオムギ染色体導入コムギにより機能性ステロールを増量することに成功

2011.11.29
  • プレスリリース
  • 研究
木原生物学研究所荻原保成教授、唐建偉特任助教、川浦香奈子助教、村中俊哉客員教授(現大阪大学教授)のグループは、理化学研究所植物科学研究センター大山清研究員らとの共同研究により、オオムギに多量に含まれているスティグマステロールに注目してムギ類でスティグマステロールの産生を制御する遺伝子を突き止め、コムギで機能性ステロールを増量する技術を開発した。スティグマステロールとは、ヒト血漿中のコレステロール量を下げる機能性ステロールである。

概要

オオムギは機能性物質が多く含まれていることが特長である。しかし、加工適性が悪く、十分利用されていない。一方、コムギは加工適性には優れており、いろいろな食品として利用されているが、機能性成分はオオムギに比べると劣る。一般に広く利用されているパンコムギには、オオムギの7対の染色体を1対ずつ導入した系統が存在する。これは、従来の交雑育種で作成されたDNA組換えによらない系統である。私たちの研究グループは、オオムギ染色体導入コムギをもちいて、オオムギのもつ機能性物質をコムギで利用する技術を開発してきた。

この成果は権威ある米国科学雑誌Plant Physiology(2011年9月27日)に掲載された。なお、本研究は、生研センター「生物系産業創出のための異分野融合研究支援事業」の助成により行われた。

研究内容

植物ステロールは、メバロン酸経路を経て生合成される。モデル植物であるシロイヌナズナでは、この経路の大要が最近明らかにされた。機能性ステロールであるスティグマステロールは、シトステロールからCYP710Aのはたらきにより生合成される。ムギ類の実生で植物ステロール分子をGC-MSで測定してみると、オオムギでは、乾重量あたりコムギの約2倍のスティグマステロールが含まれていた。オオムギ染色体導入コムギにおいて、スティグマステロール量を比較解析するとオオムギ3番染色体(3H)を導入した系統でのみコムギ親系統の約1.3倍の増加がみられた。このことは、スティグマステロール生合成に関連する遺伝子がオオムギ3H染色体に座乗することを示唆する。シロイヌナズナの植物ステロール生合成経路に関連する遺伝子の発現量をDNAマイクロアレイをもちいて網羅的に解析してみると、スティグマステロールの産生を触媒するCYP710A遺伝子の発現が3H導入コムギ系統で上昇していた。また、ステロール生合成経路の途中にあるDWF5遺伝子の発現も上昇していた。コムギは異なるゲノムを組み合わせた異質倍数体で進化してきたことを特徴とする(パンコムギは、異質6倍体であり、ゲノム式としてAABBDDと表記する)。A, B, Dゲノムおよびオオムギ3H由来のDHF5, CYP710A遺伝子をクローニングし、3A, 3B, 3D, 3H染色体に座乗することを確認した。これらの遺伝子をそれぞれシロイヌナズナに導入して、ステロール量を測定した。その結果、CYP710A遺伝子を導入した場合にのみスティグマステロール量が増加していることを確認した。パンコムギにおけるCYP710A遺伝子を増加させると機能性ステロールであるスティグマステロールを増量できることを明らかにした。

今後の期待

今回、オオムギ染色体導入コムギをもちいて、オオムギのもつ機能性物質をパンコムギに取り込むことが可能となった。オオムギ染色体導入コムギ系統の解析により、機能性物質生合成関連遺伝子を効率的に解明することが期待される。コムギには、関連遺伝子の異種染色体座乗領域を従来の交雑育種法により、ゲノム内に取り込むシステムがある。異種ゲノムがもつ、GABA等のアミノ酸関連物質、抗酸化物質、神経性物質関連遺伝子をコムギに導入し、日常的に食べる健康食品としてのコムギの活用が期待できる。
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