先端医科学研究センター先端医科学研究センター
search

【開催概要】市民講座「がん転移抑制法~タンパク質分解酵素の抑制が突破口になり得るか~」

2017.11.15
  • TOPICS
  • 講座・セミナー

「がん転移抑制法~タンパク質分解酵素の抑制が突破口になり得るか~」

平成29年8月25日(月)開催概要

講師 :東 昌市(横浜市立大学国際総合科学群生命環境コース教授)

先端医科学研究センターでは最先端の研究活動を市民の皆さまに広く知って頂くことを目的として、2カ月に一度市民講座を開催しています。今回は、「がん転移抑制法~タンパク質分解酵素の抑制が突破口になり得るか~」と題して、横浜市立大学国際総合科学群生命環境コース 東 昌市教授が講演を行いました。
講演では、最初にタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)の説明を行いました。タンパク質とは遺伝情報に基づいた配列をもつ、アミノ酸の重合体です。プロテアーゼとはこのタンパク質分子の中のペプチド結合を切断する酵素であり、プロテアーゼ自体もタンパク質ですが、特定のペプチド結合が切断を受けて活性化するという性質を持っています。プロテアーゼには様々な種類があり、例えばトロンビンというプロテアーゼは、血中タンパク質であるフィブリノーゲンを切断し、フィブリンに変化させます。このフィブリンがゼリー状になることで血液凝集塊(血栓)となり傷口を塞ぐことから、血中のプロテアーゼは血液凝固(止血)の役割を果たしており、その調節の乱れが脳血栓や肺閉塞といった疾患に繋がります。近年、血液凝固に関わるプロテアーゼの阻害剤が有効な血栓予防薬として臨床応用されています。
一方、がん転移においてもプロテアーゼが重要であることが分かっています。悪性がんの細胞はプロテアーゼを分泌し、周囲組織のタンパク質を分解しながら、移動(浸潤)した後、組織内部にある血管やリンパ管に入り込み他の臓器へ流れ着いて増殖します。これががん転移とよばれる現象です。がん転移に関わるプロテアーゼは血液凝固に関わるものとは異なるマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)とよばれる種類の酵素です。過去にがん治療薬開発を目的として多くのMMP阻害剤が作製されました。しかし、ヒトの体内には形の似たMMPが20種類以上あり、従来のMMP阻害剤はこれらを区別できず、標的ではないMMPも阻害してしまうため、重篤な副作用を引き起こしてしまいました。そこで標的となるMMPだけを選択的に阻害する薬が求められています。
東教授は、プロテオミクスの解析技術を用いてMMP-2(ゼラチナーゼA)のみに特異的に作用するタンパク質を発見し、その応用による高特異性MMP阻害薬の開発を目指しています。また、MMP-7(マトリライシン)のユニークながん転移促進機構にも着目し、その機構を応用した転移抑制法の開発研究を進めています。マトリライシンは、がん細胞膜上のコレステロール硫酸に結合しながら細胞表面のタンパク質を切断し、細胞の凝集を引き起こすことで、転移する先の臓器等の毛細血管にがん細胞を留まりやすくします。この効果により、がんの転移が促進されることから、細胞凝集形成を阻害するような薬が、マトリライシンが関わるがん転移の抑制剤として有望です。
このようにがん転移に関わるMMPの働きを選択的に阻害する治療薬を開発し、効果的かつ副作用の少ないがん治療薬として臨床の場に届けるため、研究を進めたいと締めくくりました。
質疑応答では多くの質問が寄せられました。受講者の方からは「副作用の少ない薬の研究に期待しています」「難しい内容を可能な限り分かりやすく説明いただき感謝申し上げます」と感想をいただきました。
今後も当センターの研究成果情報を講座やWEBサイト、広報物等を通じて皆さまに公表していきますので
何卒よろしくお願いいたします。
  • このエントリーをはてなブックマークに追加