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新型コロナウイルスを中和するアルパカ抗体 —マウス実験で有効性を確認—

2023.02.17
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新型コロナウイルスを中和するアルパカ抗体

—マウス実験で有効性を確認—

京都大学大学院医科学研究科  高折晃史教授、医薬基盤・健康・栄養研究所霊長類医科学研究センター  保富 康宏センター長、株式会社COGNANO(コグナノ)らの研究グループは横浜市立大学微生物学  梁明秀教授(現: 連携大学院客員教授)、東京大学の研究グループとの共同研究により、新型コロナウイルスの「懸念される変異株(VOC:variant of concern)」である「オミクロン株(B.1.1.529, BA系統)」※1を含む変異株に対して高い中和活性を示すナノボディ抗体※2であるP17およびP86を三量体化することでその中和活性を向上したTP17およびTP86抗体を創出しました(図1)。さらに、新型コロナウイルスの受容体であるACE2を発現する遺伝子改変マウス※3を用いた動物実験を行い、致死量の新型コロナウイルスを感染させた遺伝子改変マウスにこれらの二種類のナノボディ抗体カクテルを経気道的に一回投与することでその体重減少を抑制し、その生存期間を延長することを確認しました(図2)。以上の成果は新型コロナウイルス感染後に三量体化ナノボディ抗体カクテルの経気道投与により治療効果が得られたり、さらにウイルス曝露後に重症化予防として投与することができる可能性を示しています。

本研究成果は2022年11月26日に英国科学雑誌「Communications Medicine」にオンライン掲載されました。


図1. 三量体ナノボディ抗体(TP17およびTP86)の新型コロナウイルスへの中和活性
二量体化ナノボディ抗体(DP17およびDP86)と三量体化ナノボディ抗体(TP17およびTP86)の新型コロナウイルス株に対する中和活性の比較(上図)、TP86とソトロビマブの中和活性の比較(下図)
図2. ヒトACE2発現遺伝子改変マウスを用いた動物実験結果
致死量の新型コロナウイルス従来株、デルタ株、オミクロンBA.1株を感染させたACE2発現遺伝子改変マウスに三量体化ナノボディ抗体カクテルを経気道投与することで感染マウスの体重減少を抑制し生存期間を延長できた。

 

背景

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2年半以上経った2022年11月現在においてなお完全な収束には至らず、これまでに世界でおよそ7億人が感染し、700万人が亡くなりました。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、変異を繰り返して広まり、現在主流である「オミクロン株」は、それまでのVOC(アルファ株、ベータ株、ガンマ株、デルタ株)と比べて、スパイク蛋白の変異箇所が圧倒的に多く、以前感染した人やワクチン接種者にも感染します。また、オミクロン株による新型コロナウイルス感染症には、その出現前に開発された治療用抗体のほとんどが効かなくなることが明らかになっています。

研究手法・成果

我々は、これまでに樹立した新型コロナウイルスに対して有効なナノボディ抗体P17およびP86を二量体化、三量体化することでその中和活性を上昇させることに成功しました。三量体化ナノボディ抗体であるTP17およびTP86を同時に経気道的に投与することにより、致死量の新型コロナウイルスの従来株、デルタ株、オミクロンBA.1株を感染させたヒトACE2発現遺伝子改変マウスの体重減少を抑制し、生存期間を延長することが確認できました。
 
 研究成果のポイント

樹立した「オミクロン株」を中和するナノボディ抗体を改変し二量体化よりも三量体化することでその中和活性を向上させることに成功しました。

・ ヒトACE2発現遺伝子改変マウスに致死量の新型コロナウイルスを感染させることで動物モデルを作製し、感染後一回の経気道投与を行うことで野生型およびデルタ株、オミクロンBA.1株による体重減少を抑制し、生存期間を延長することができることを示しました。

波及効果、今後の予定

これまでに樹立したナノボディ抗体を短期間で二量体化、三量体化し改変しより有効な抗体を作成することができています。動物実験により致死量の新型コロナウイルスを感染させたマウスの病状の悪化を遅らせることに成功しており、ウイルス曝露後の重症化予防に有効であることが期待されます。すでに大阪大学の研究グループとの共同研究でスパイクとの結合様式を特定しており更なる改良を進めたいと考えています。

また、ナノボディ抗体は遺伝子工学による改変がしやすく、ヒト抗体よりも数千倍安価に生産できます。京都大学医学研究科高折晃史教授の研究グループは、本研究で得られた知見に基づき、より中和活性の高い改変ナノボディ抗体を作成し、臨床応用を目指しています。

現在、京都大学、大阪大学、COGNANO社では、さまざまな感染症について、ウイルス学的な解析や、中和抗体やナノボディ抗体の構造解析についての研究に取り組んでおり、新型コロナウイルスのみならず、エイズウイルス(HIV)、ネコエイズウイルス、サル痘、その他、がん免疫を明らかにするための研究を推進しています。

研究プロジェクトについて

本研究は、高折晃史教授らに対する日本医療研究開発機構(AMED)新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(JP20fk0108268, JP20fk0108517)、保富 康宏センター長らに対する日本医療研究開発機構(AMED)新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(JP20fk0108414, JP20pc0101047 )、株式会社COGNANOに対する京都府助成金・京都産業21(産学公の森)、神奈川県衛生研究所などの支援の下で実施されました。
 

用語解説

※1 オミクロン株(B.1.1.529, BA系統): 世界保健機構により、2021年11月に5つ目のVOCに認定され、世界各国で大流行しており、現在パンデミックの主たる原因となる変異株となっている。

※2 ナノボディ抗体: 別名VHH抗体。ラクダ科の動物(アルパカなど)とサメ科の動物が持つ重鎖のみからなる特殊な抗体。ヒトや他の動物の抗体は、重鎖と軽鎖からなるより複雑で大きな分子となっている。

※3 ヒトACE2発現遺伝子改変マウス: ヒトACE2発現遺伝子改変マウスは新型コロナウイルスウイルス受容体であるACE2をその体細胞に発現しており、新型コロナウイルスを生体内で感染、増殖させることができる動物実験モデルとして使用されている。

研究者のコメント

ナノボディ技術を使用することで、従来のヒト抗体では成し得なかった広い中和活性をもつ抗体を開発し、そのエピトープを同定した。今後、新たなCOVID-19治療薬の開発につなげると同時に、本技術を新たな感染症治療に対応可能なパイプラインにしたい。(高折晃史) 

論文情報

タイトル: Intratracheal trimerized nanobody cocktail administration suppresses weight loss and prolongs survival of SARS-CoV-2 infected mice(三量体化ナノボディ抗体カクテルの経気道投与は新型コロナウイルスを感染させたマウスの体重減少を抑制し、生存期間を延長する)

著者: 永田 佳代子#, 内海 大知#, 浅賀 正充#, 前田 良太#, 白川 康太郎, 数馬 安浩, 野村 亮介, 堀澤 欣史,柳田 洋平, 河合 悠吾, 佐藤 佳, 山岡 悠太郎, 宮川 敬, 梁 明秀, 保富 康宏*, 伊村 明浩*,高折 晃史* (#Equal contribution; *Corresponding authors)

掲 載 誌: Communications Medicine, Vol. 2, Article number: 152 (2022)
DOI:10.1038/s43856-022-00213-5
 

お問合わせ先

横浜市立大学  広報課
E-mail:koho@yokohama-cu.ac.jp





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