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新型コロナウイルスワクチン接種後6か月時点の抗体価に関する調査結果報告

2021.11.05
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新型コロナウイルスワクチン接種後6か月時点の 抗体価に関する調査結果報告

横浜市立大学附属病院 感染制御部 加藤英明部長、同大学大学院医学研究科 微生物学 梁 明秀教授、宮川 敬准教授、同大学院データサイエンス研究科 後藤 温教授、同大学院医学研究科 血液・免疫・感染症内科学 中島秀明教授、東ソー株式会社などの共同研究グループは、ファイザー社の新型コロナウイルスのワクチンを接種した医療従事者98名の血液を採取し、ワクチン接種6か月後の抗体価*1と細胞性免疫*2を調べました。

その結果、6ヶ月の時点で、抗体は98名全員から検出されたものの、ほとんどのワクチン接種者において、ピーク時(接種1〜3週後)と比べ、抗体価は顕著に(約90%)減少し、ウイルスの感染阻害能を示す中和抗体価*3も約80%減少し、その陽性率は85.7%でした。また、細胞性免疫については、ワクチン接種6ヶ月時点で、多くの人で細胞性免疫反応が認められ、経時的な評価は行えていませんが、新型コロナウイルスに対するワクチン接種後の免疫応答における細胞性免疫の役割の重要性も示唆される結果でした。

本研究成果は現在プレプリントサーバーMedRxiv*4にて公開されています。

※本研究成果は、現在に「Vaccine」誌に掲載されています。https://doi.org/10.1016/j.vaccine.2022.03.057(2022.3.29)


 研究成果のポイント

  • ファイザー社製ワクチンを2回接種後6か月経過した医療従事者98名の血液中の、抗体価、中和抗体価、および抗原特異的な細胞性免疫応答を測定。
  • 接種1〜3週後(抗体ピーク時)と比べ、6か月後の抗体価は約90%減少、中和抗体価は約80%減少し、その陽性率は85.7%であった。飲酒習慣がある人や年齢が高い人ほど、6ヶ月後時点の抗体価が低い傾向にあった。
  • ワクチン接種6か月後時点で、多くの人で細胞性免疫反応が認められ、細胞性免疫と抗体価とは弱い相関が認められた。

研究の背景と意義

新型コロナウイルス感染症の世界的流行に対する打開策として、全国的にワクチン接種が進められています。ファイザー社やモデルナ社製のワクチンを接種すると、ウイルスのスパイクタンパク質に対する抗体が産生されるほか(液性免疫)、抗ウイルス活性をもつ免疫細胞が誘導され(細胞性免疫)、これらの相乗効果によってウイルス感染そのものや重症化が顕著に抑制されることが知られています。しかしこれらの免疫の長期持続性について、日本人ワクチン接種者における報告は限られていました。

研究の成果

研究参加に同意を得た医療従事者から、2回目のワクチン接種1週間後、3週間後、6ヶ月後に採血を行い、それぞれ86、87、98名のサンプルを解析しました。ウイルスに対する抗体価(SP IgG)は、AIA-CL用 SARS-CoV-2-SP-IgG抗体試薬(東ソー株式会社)を、中和抗体価(NT50)は、ウイルスのスパイクをもつシュードウイルスを用いてそれぞれ定量的に測定しました。

SP IgGは接種3週間後の平均値97.0に対して、6か月後には6.8となり、約90%減少していました。また、飲酒習慣がある人や年齢が高い人ほど、6ヶ月後時点のSP IgGが低い傾向にあることが明らかになりました。6か月後の時点で中和抗体が検出された人は98名のうち84名(中和抗体陽性率85.7%)でしたが、中和活性の指標となるNT50は接種3週間後の平均値 680.4に対して、6か月後には130.4となり、約80%減少していました。ワクチン接種後のブレイクスルー感染者では、抗体価、中和抗体価ともに非感染者と比較して高く保持されていました。

さらに、6ヶ月後の採血時に血液から末梢血単核球(PBMC)を分離し、T-SPOT Discovery SARS-CoV-2(Oxford Immunotec社)を用いて、スパイク抗原特異的にインターフェロンγを産生する細胞数、すなわち細胞性免疫応答の強さを測定しました。その結果、ウイルス抗原特異的に反応する細胞数は、全被験者の中央値として106 PBMC あたり84(範囲0〜700)でした。細胞性免疫応答の強さは、年齢、性別、飲酒、喫煙の有無とは相関しませんでした。また、抗体価と細胞性免疫との間には弱い相関が認められました。

以上の結果から、ワクチン接種6か月後において、抗体価はほとんどのワクチン接種者で陽性であったものの、ピーク時と比較して顕著な減少傾向を示すことが明らかとなりました。また、細胞性免疫はワクチン接種6か月後の1時点のみの測定で、経時的な評価は行えていませんが、新型コロナウイルスワクチンによる宿主免疫応答の1つとして細胞性免疫が誘導され、6ヶ月程度は維持されることが示唆される結果でした。



図1 ワクチン接種後の抗体価の推移(左)と、中和抗体価の推移(右) 

今後の展開

今回の研究では、98例と少ないサンプル数ではありますが、ワクチン接種6ヶ月後の免疫状況の一端が明らかになりました。現在、3回目のブースター接種が検討されていますが、研究チームでは今後もワクチンの効果について調査、公表する予定です。

論文情報

Vaccine-induced humoral and cellular immunity against SARS-CoV-2 at 6 months post BNT162b2 vaccination
medRxiv preprint doi: https://doi.org/10.1101/2021.10.30.21265693
※お断り:現在、学術雑誌へ投稿されたCOVID-19に関する論文は審査前にプレプリントサーバーへ登録、公開されるよう推奨されています。学術雑誌での審査により論文内容が修正される可能性があります。

※本研究成果は、現在に「Vaccine」誌に掲載されています。https://doi.org/10.1016/j.vaccine.2022.03.057(2022.3.29)

用語説明

1 抗体価 : ウイルスタンパク質に対する抗体のうち、本研究ではスパイクタンパク質の受容体結合領域に結合するIgG抗体量を定量的に調べている。

2 細胞性免疫 : 本研究ではウイルスタンパク質断片の刺激に対してインターフェロンγを産生する免疫細胞(CD4陽性あるいはCD8陽性T細胞)数を調べている。

3 中和抗体価 : ウイルス感染阻害能を有する抗体の活性を示す指標の一つで、本研究では血清を段階的に希釈してウイルス感染を50%阻害する血清希釈倍率をNT50値として定量的に算出している。

4 MedRxiv : 医学分野のプレプリントサービスで、査読前の医学論文を公開し、新しい知見の迅速な共有やフィードバックを受けるためのプラットフォームの一つ。


お問合わせ先

広報課
E-mail: koho@yokohama-cu.ac.jp








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