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卵巣明細胞がんの新規診断マーカーを開発 ~東ソー株式会社より発売開始~

2021.07.28
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卵巣明細胞がんの新規診断マーカーを開発

~東ソー株式会社より発売開始~

横浜市立大学学術院医学群 産婦人科学 宮城悦子教授と、同学 平野 久名誉教授、同学先端医科学研究センター 荒川憲昭客員准教授(国立医薬品食品衛生研究所所属)らの研究グループは、卵巣明細胞がんの細胞が作り出す「組織因子経路インヒビター2(tissue factor pathway inhibitor 2、以下TFPI2)」というタンパク質に注目し、東ソー株式会社との産学連携の共同研究により、卵巣がんの検査における新規血清バイオマーカーとしての開発を進めてきましたが、この度、TFPI2の測定試薬として同社が発売を開始します。本試薬を用いて術前に保険診療としてTFPI2を測定することにより、卵巣がんの適切な診断および治療方針の選択の一助となることが期待されます。

また、本研究成果は、「International Journal of Clinical Oncology」に掲載されました。

 研究成果のポイント

産学連携共同研究により、卵巣がんの新規血清バイオマーカーとしてTFPI2の測定試薬を開発し、東ソー株式会社より発売開始

CA125のような現行の腫瘍マーカーと比べて卵巣明細胞がんへの特異性が高く、最適な手術方法や治療方針の選択に貢献

研究の背景

卵巣がんは婦人科の悪性腫瘍の中で最も死亡数が多い疾患で、その中でも、卵巣明細胞がんは、抗がん剤が効きにくく予後不良例が多い疾患であり、欧米人よりも日本人に多いことが知られています。現行の卵巣がんマーカーCA125は、明細胞がんでは低い値を示すことが多く、また、明細胞がんの発生母地である卵巣の子宮内膜症性のう胞でも高値になることから、明細胞がんの検出は難しいと言われており、明細胞がんを高い精度で検出できるバイオマーカーが必要とされていました。

TFPI2は、妊婦の胎盤に特異的に発現するプロテアーゼインヒビターとして、宮城教授らにより報告されたタンパク質で(参考文献1)、研究グループは、プロテオーム解析技術を用いて、卵巣がん細胞の培養液を解析し、明細胞がんが特徴的にTFPI2を作り出していることを見いだしました(参考文献2)。次に、TFPI2の検出試薬を試作し、本学や奈良県立医科大学の婦人科腫瘍患者検体を用いて詳細な解析を行った結果、TFPI2は明細胞がんの患者血液中に特異的に高い濃度で存在することがわかり、本疾患の検査に利用できる可能性が示唆されました(参考文献3)。
 

研究の内容

本研究では、開発したTFPI2測定試薬の臨床性能試験として、国内5施設の医療機関において、外科的治療を必要とする卵巣腫瘤患者を対象に登録された計351例について、術前に得た血清中のTFPI2と現行の卵巣がんマーカーCA125の分析を行い、その結果、臨床の現場において、術前のTFPI2測定が難治性明細胞がんを含む卵巣がんの診断予測に寄与することが立証されました。本研究成果をもとに、TFPI2測定試薬は体外診断用医薬品としての製造販売承認を取得し、保険収載されたことを受けて、東ソー株式会社より発売されることとなりました。

今後の展開

TFPI2は簡便な血液検査による卵巣がんの正確な診断、治療法の選択に有用となることが期待されます。また、明細胞がんの発生母地と考えられている良性の子宮内膜症性のう胞のがん化メカニズム解明にもつながることが期待されます。現在、治療に伴う動的変化や再発等の術後フォローアップ研究を複数の協力機関と進めており、TFPI2の実臨床での有用性を引き続き検証していく予定です。

研究費

本研究の一部は、イノベーションシステム整備事業 先端融合領域イノベーション創出拠点形成プログラム「翻訳後修飾プロテオミクス医療研究拠点の形成」の支援を受けて行われました。

論文情報

タイトル: Validation of tissue factor pathway inhibitor 2 as a specific biomarker for preoperative prediction of clear cell carcinoma of the ovary
著者:Etsuko Miyagi, Noriaki Arakawa, Kentaro Sakamaki, Naho Ruiz Yokota, Takeharu Yamanaka, Yuki Yamada, Satoshi Yamaguchi, Shoji Nagao, Yasuyuki Hirashima, Yuka Kasamatsu, Hisamori Kato, Tae Mogami, Yohei Miyagi & Hiroshi Kobayashi
掲載雑誌:International Journal of Clinical Oncology volume 26, pages1336–1344 (2021)
DOI:https://doi.org/10.1007/s10147-021-01914-y
 

参考文献

1 cDNA cloning and mRNA expression of a serine proteinase inhibitor secreted by cancer cells: identification as placental protein 5 and tissue factor pathway inhibitor-2.
Miyagi Y, Koshikawa N, Yasumitsu H, Miyagi E, Hirahara F, Aoki I, Misugi K, Umeda M, Miyazaki K.
Journal of Biochemistry, 01 Nov 1994, 116(5):939-942
(https://doi.org/10.1093/oxfordjournals.jbchem.a124648)

2 Secretome-based identification of TFPI2, a novel serum biomarker for detection of ovarian clear cell adenocarcinoma.
Arakawa N, Miyagi E, Nomura A, Morita E, Ino Y, Ohtake N, Miyagi Y, Hirahara F, Hirano H.
Journal of Proteome Research. 2013, 12, 10, 4340–4350(https://doi.org/10.1021/pr400282j)

3 Clinical Significance of Tissue Factor Pathway Inhibitor 2, a Serum Biomarker Candidate for Ovarian Clear Cell Carcinoma
Noriaki Arakawa, Hiroshi Kobayashi, Naohiro Yonemoto, Yusuke Masuishi, Yoko Ino, Hiroshi Shigetomi, Naoto Furukawa, Norihisa Ohtake, Yohei Miyagi, Fumiki Hirahara, Hisashi Hirano, Etsuko Miyagi
PLOS ONE. 2016 Oct 31;11(10)(https://doi.org/10.1371/journal.pone.0165609)
 

お問い合せ先

横浜市立大学
広報課
E-mail:koho@yokohama-cu.ac.jp

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