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アルギン酸の膜で臓器表面への移植組織定着が促進

2020.05.25
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アルギン酸の膜で臓器表面への移植組織定着が促進

~『Scientific Reports』に掲載~

横浜市立大学 大学院医学研究科  臓器再生医学の村田聡一郎准教授・大城克友大学院生・裘融大学院生らは、東京大学医科学研究所 幹細胞治療研究センター 谷口英樹教授(横浜市立大学  臓器再生医学 教授)、持田製薬との共同研究により、アルギン酸ナトリウムを用いることで肝硬変モデル動物の肝臓表面に移植組織が定着しやすくなり、治療効果を得られることを発見しました。

本研究成果は、『Scientific Reports』に掲載されました。

 研究成果のポイント

・ アルギン酸ナトリウムにより肝臓表面への組織移植が可能になった。
・ 医療用医薬品として既に臨床利用されているため、移植への早期応用が可能。
・ 新たな肝疾患治療法であるiPS細胞由来の肝臓オルガノイド移植に応用することで、開発の促進が期待される。

 

研究の背景

肝硬変は肝炎ウイルスやアルコール、肝臓への脂肪蓄積などによる慢性肝疾患の終末像で、国内に30万人程度の患者さんがいます。肝硬変の根治的な治療法は肝移植のみですが、ドナー不足が大きな課題となっています。肝移植に代わる治療法として、細胞移植や薬物治療の臨床試験が進められていますが、肝組織の再構築や著明な肝機能の改善には至っていません。これに対し、当研究室ではヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)で胎児期の胚発生を模倣することにより、組織移植に利用できる肝臓オルガノイドの作製に成功しています。

問題は、これをどのようにして肝硬変患者の肝臓に届けるか、にあります。肝臓に肝細胞や膵島を移植する経路としては、肝臓に流入する門脈という血管を経由するのが一般的でした。しかし肝硬変患者では門脈圧が亢進しているため細胞が肝臓全体に行き渡りにくく、また肝臓に予備能がないため門脈が詰まると肝不全に陥るリスクがあります。このため、門脈を経由せずに肝臓表面に安全に組織を移植する手法の開発が必要となっています。
 

研究の内容

本研究ではラットにジメチルニトロサミンを腹腔内投与して作製した肝硬変モデル動物を使用しました。肝臓の表面の被膜を剥離してラットの胎仔の肝組織を移植し、コーニング社のマトリゲルという培養実験でよく用いられるマトリクス*1で被覆すると、被覆しないものより移植組織の生着が有意に高いことが分かりました。

マトリゲルは臨床で使用することが難しいため、臨床で使用可能なアルギン酸ナトリウム(持田製薬より提供)、外科手術で用いられているフィブリン、酸化セルロース、ヒアルロン酸ナトリウムを用いて移植組織の被覆固定を行い、その効果を比較しました。移植後に生着した組織の大きさ、移植組織の成体の肝臓への分化状況、血管新生を比較したところ、マトリゲルを除く4種の被覆剤の中ではアルギン酸ナトリウムが最も効果の高いことが分かりました。また、アルギン酸ナトリウムを用いて胎仔肝組織を移植すると、肝硬変モデル動物の生存期間や肝機能、肝臓の線維化が有意に改善することが明らかになりました。

今後の展開

本研究の成果に基づき、臨床応用可能な製剤を使って肝硬変の肝臓表面に組織を移植する方法を開発しました。この方法は肝臓以外の様々な臓器への応用が期待されます。今後は大動物での実験を繰り返し、実際の手術室で使用しやすい剤型の開発を目指します。またヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)を用いた肝臓オルガノイドの肝臓表面への移植における効果もみられたため、今後の画期的な肝硬変治療法開発に繋がることが期待されます。

用語説明

*1. マトリクス:組織を裏打ちする基底膜の成分や、細胞の間にある糖やタンパク質の複合体。
※本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)革新的医療技術創出拠点プロジェクト 橋渡し研究戦略的推進プログラム(慶應義塾大学拠点)「ヒトiPS細胞を活用した新規肝硬変治療法の開発」の支援を受けて行われました。

※本研究成果は特許出願中です。(被覆固定剤:特願 2019053047, PCT/2020/011144)

お問合わせ先

(研究内容に関するお問い合わせ)
大学院医学研究科  臓器再生医学
准教授  村田 聡一郎
TEL:045-787-8963
E-mail:soichiro@yokohama-cu.ac.jp

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