漢方薬『六君子湯』が慢性腎臓病による体重減少を抑制することを発見 ~慢性腎臓病治療の新たな一助となる可能性~
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漢方薬『六君子湯』が慢性腎臓病による体重減少を抑制することを発見
~慢性腎臓病治療の新たな一助となる可能性~
『Scientific Reports』に掲載
研究成果のポイント
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研究の背景
慢性腎臓病(chronic kidney disease: 以下、CKD)の患者数は年々増加しており、日本人のCKD患者数は約1330万人と推計され、成人の約8人に1人はCKDであると言われています(日本腎臓学会『診療ガイドライン2018』)。CKDでは、尿毒素 の蓄積、代謝亢進、炎症、酸化ストレスなど複数の要因が関与して、エネルギー源(体脂肪)が減少する消耗状態であることが知られています。実際に、末期腎不全により透析療法を施行している患者では、BMI(肥満度を表す体格数)が高いほうが生命予後良好であり、この現象は「肥満パラドックス」と呼ばれています。さらに、近年、保存期(透析未導入)のCKD患者さんにおいても低BMIが生命予後不良と関連していることが報告され注目されています(Kikuchi H, et al. PLoS One 2018; 13(11):e0208258)。また、CKDでは尿毒素の蓄積や炎症の亢進状態に加え、患者の高齢化も相まって体蛋白(骨格筋)が減少するサルコペニア*1を来たしやすいことが知られ、逆に運動療法などによる適切な筋力の維持は腎臓の炎症を抑制し、腎保護作用を発揮する可能性があります(筋腎連関)。そのため、CKD患者さんでは生命予後改善のために十分なカロリー摂取と筋力・体重維持が重要であり、課題とされます(サルコペニア・フレイルを合併した保存期CKDの食事療法の提言、日腎会誌 2019)。
一方、漢方薬「六君子湯」は、消化・栄養吸収系の異常に対して使用されてきた歴史的経緯を有し、その機序として食欲増進ホルモンであるグレリン分泌促進作用が示されています。さらに、近年、グレリン受容体は視床下部のみならず、腎臓などの末梢臓器にも発現し、グレリン投与は腎臓局所での炎症を抑制することが報告されています。したがって、六君子湯は、栄養障害の改善・抗炎症作用を発揮して、CKDにおける有用な治療手段となる可能性があります。しかしながら、六君子湯が、CKD病態下において実際にどのような効果をもたらすかはよく分かっていませんでした。
研究の内容


今後の展開
今後、漢方薬「六君子湯」の、CKDにおける臓器連関作用機序についてさらに詳細に明らかにし、実際にCKD患者さんへの臨床応用も期待されます。
用語説明
論文情報
論文名:Effects of rikkunshito on renal fibrosis and inflammation in angiotensin II-infused mice.
執筆者名(所属機関名):Azushima Kengo1,2,#, Uneda Kazushi1,#, Wakui Hiromichi1, Ohki Kohji1, Haruhara Koutaro3,4, Kobayashi Ryu1, Haku Sona1, Kinguchi Syo1, Yamaji Takahiro1, Minegishi Shintaro1, Ishigami Tomoaki1, Yamashita Akio5, Tamura Kouichi1
Scientific Reports (2019) 9:6201 https://doi.org/10.1038/s41598-019-42657-1
#筆頭著者
執筆者所属先:
1:横浜市立大学 医学部 循環器・腎臓・高血圧内科学
2:Duke-NUS Medical School, Cardiovascular & Metabolic Disorders Program
3:東京慈恵会医科大学 腎臓・高血圧内科
4:Monash University, Department of Anatomy and Developmental Biology
5:横浜市立大学 医学部 分子生物学
掲載論文
論文名:Effects of Rikkunshito treatment on renal fibrosis/inflammation and body weight reduction in a unilateral ureteral obstruction model in mice
執筆者名(所属機関名):Wakui Hiromichi1,#, Yamaji Takahiro1,#, Azushima Kengo1,2, Uneda Kazushi1, Haruhara Koutaro3,4, Akiko Nakamura1, Ohki Kohji1, Kinguchi Syo1, Kobayashi Ryu1, Urate Shingo1, Suzuki Toru1, Kamimura Daisuke1, Minegishi Shintaro1, Ishigami Tomoaki1, Kanaoka Tomohiko1, Matsuo Kohei1, Miyazaki Tomoyuki5, Fujikawa Tetsuya1,6, Yamashita Akio7, Tamura Kouichi1.
Scientific Reports https://doi.org/10.1038/s41598-020-58214-0
#筆頭著者
執筆者所属先:
1:横浜市立大学 医学部 循環器・腎臓・高血圧内科学
2:Duke-NUS Medical School, Cardiovascular & Metabolic Disorders Program
3:東京慈恵会医科大学 腎臓・高血圧内科
4:Monash University, Department of Anatomy and Developmental Biology
5:横浜市立大学 医学部 生理学
6:横浜国立大学 保健管理センター
7:横浜市立大学 医学部 分子生物学
お問合わせ先
(本資料の内容に関するお問い合わせ)
医学部 循環器・腎臓・高血圧内科学
講師 涌井 広道
TEL:045-787-2635 FAX:045-701-3738
E-mail:hiro1234@yokohama-cu.ac.jp
研究企画・産学連携推進課長 渡邊 誠
TEL:045-787-2510
E-mail:kenkyupr@yokohama-cu.ac.jp