先端医科学研究センター先端医科学研究センター
search

慢性腎臓病により体内時計が乱れることを発⾒(循環器・腎臓・高血圧内科学の研究グループ、早大と共同研究で)

2020.01.23
  • TOPICS
  • 研究
  • 医療

循環器・腎臓・高血圧内科学の研究グループが早大との共同研究で慢性腎臓病により体内時計が乱れることを発⾒

~『Kidney International』に掲載~

 
 研究成果のポイント

  • 慢性腎臓病により体内時計の乱れが起き、結果として腎機能をさらに悪化させることを発見
  • 生活習慣を整えることで体内時計の乱れを防ぎ、腎臓病悪化の予防に繋がる可能性がある
  • 体内時計が乱れるメカニズムをさらに解明することで、新たな体内時計調節薬、腎臓病治療薬の開発につながることが期待される

概要

循環器・腎臓・高血圧内科学の涌井広道講師,山地孝拡大学院生ら(GR)は、早稲田大学 理工学術院 田原優准教授、柴田重信教授、およびUniversity of California Los Angeles, Department of Psychiatry and Biobehavioral SciencesChristopher S. Colwell教授らとの国際共同研究により、慢性腎臓病によって体内時計の乱れが起き、結果として腎機能をさらに悪化させることを発見しました。

~国際腎臓学会の学術誌『Kidney International』に掲載~

研究の背景

慢性腎臓病(chronic kidney disease: 以下、CKD)患者は、夜間の中途覚醒、睡眠の質低下、睡眠時間の減少、昼間の過度な眠気といった睡眠障害がしばしば見られ、体内時計(概日時計)の乱れが起きている可能性があります。体内時計、つまり時計遺伝子は、腎臓でも24時間の時を刻んでおり、血液からの老廃物の濾過、尿の生成、血圧調節などを制御しています。しかし、CKDと時計遺伝子の関連、さらには睡眠障害との関連については明らかになっていませんでした。

研究の内容と成果

今回、研究グループは、アデニン誘発性のCKDモデルマウスを用いて、体内時計の変化や睡眠障害について解析を行いました。また、時計遺伝子の一つであるClock(クロック)の変異マウスを用いることで、体内時計の乱れが腎臓病の発症、進行に影響を与えるのかについても検討しました。結果、CKDモデルマウスでは、活動量の低下、睡眠の断片化(中途覚醒の増加)、飲水行動・尿の増加が見られました。中枢時計では、時計遺伝子Period2(ピリオド2)の発現の日内リズムが減弱しており、これらの睡眠・行動の変化は中枢時計の減弱によるものと考察されました。さらに、腎臓の時計遺伝子、時計制御下の遺伝子発現の日内リズムも減弱していました。CKD患者では高血圧が起こりますが、CKDモデルマウスでも高血圧、かつ低心拍数を示すと共に、睡眠時に血圧が低下しないnon-dipper型の変動を示しました。この結果は、CKD患者で多く見られるnon-dipper型高血圧を再現していると共に、本研究で見られた体内時計の乱れがnon-dipper型(日内リズムの消失)を引き起こしている可能性が示唆されました。

次に、Clockの変異マウスを用いて、同様にアデニン誘発性のCKDモデルマウスを作製しました。結果、通常のマウス(WT)で作成したCKDモデルマウスに比べ、時計変異CKDモデルマウスでは腎機能の悪化、炎症・線維化の悪化が顕著でした。特に時計変異CKDモデルマウスにおいて、細胞外基質の分解酵素であるMMP-2/9(ゼラチナーゼ)の活性が高く、アデニン代謝物の腎臓内蓄積が多いことが腎障害増悪の原因と考えられました。

これらの結果を総合すると、CKDにより、中枢時計や末梢臓器の時計の乱れが起きることで、睡眠・覚醒パターンや血圧、腎機能の昼夜差が失われ、さらに乱れた体内時計は腎機能の悪化を促進するという負の連鎖が起きていることが示されました。

今後の展開

本研究から生活習慣を整えることで体内時計の乱れを防ぎ、腎臓病悪化の予防に繋がる可能性が示唆され、体内時計が乱れるメカニズムをさらに解明することで、新たな体内時計調節薬、腎臓病治療薬の開発につながることが期待されます。

早稲田大学プレスリリースhttps://www.waseda.jp/top/news/67961


掲載論文

 Motohashi H, Tahara Yu, Whittaker DS, Loh DH, Wang HB, Yamaji T, Wakui H, Atsushi Haraguchi A, Yamazaki M, Miyakawa H, Hama K, Sasaki H, Sakai T, Hirooka R, Takahashi K, Takizawa M, Makino S, Aoyama S, Colwell CS, Shibata S. The circadian clock is disrupted in mice with adenine-induced tubulointerstitial nephropathy. Kidney International 2020, in press.
https://www.kidney-international.org/article/S0085-2538(19)31046-4/fulltext

お問合わせ先

医学部 循環器・腎臓・高血圧内科学
講師  涌井  広道 E-mail:hiro1234@yokohama-cu.ac.jp
TEL:045-787-2635  FAX:045-701-3738





  • このエントリーをはてなブックマークに追加