ギャロウェイ・モワト症候群の新たな原因遺伝子を発見
2018.11.15
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ギャロウェイ・モワト症候群の新たな原因遺伝子を発見
~『Annals of Neurology』に掲載 ~
横浜市立大学学術院医学群遺伝学 松本直通教授、藤田京志特任助手、輿水江里子研究員、三宅紀子准教授らの研究グループは、腎障害や中枢神経の異常を認める先天性疾患である、ギャロウェイ・モワト症候群(Galloway-Mowat Syndrome;GAMOS)の新たな原因遺伝子を発見しました。本研究は関西医科大学 医学部内科学第二講座 塚口裕康講師、熊本大学、京都府立医科大学、神奈川県立こども医療センター臨床研究所、神戸大学との共同研究です。
本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)難治性疾患実用化研究事業「希少難病の高精度診断と病態解明のためのオミックス拠点の構築」の一環として実施されました。
本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)難治性疾患実用化研究事業「希少難病の高精度診断と病態解明のためのオミックス拠点の構築」の一環として実施されました。
研究成果のポイント 〇連鎖解析*1と全エクソーム解析*2によりGAMOSの新しい疾患原因遺伝子NUP133を同定 〇同定されたNUP133変異はスプライシング異常*3を引き起こす機能喪失型の変異 〇ゼブラフィッシュ疾患モデルにおいてはnup133の発現を抑制すると小頭症、神経細胞の異常、糸球体の発達不全が認められ、ヒトのGAMOSと同様の症状を示した |
研究の背景
GAMOSは早期発症のネフローゼや中枢神経の異常(小頭症、知的障害、てんかん、小脳萎縮)、外表奇形を認める先天性疾患で、中枢神経異常や外表奇形は症例により様々です。日本における患者数は約200人と推定されています。近年までGAMOSの原因となる遺伝子は不明でしたが、2014年にWDR73、2017年にNUP107、KEOPS複合体関連遺伝子(OSGEP、TP53RK、TPRKB、LAGE3)が原因遺伝子として報告されました。
研究の内容
松本教授らのグループは、GAMOS患者を4人認める血族婚の1家系に対し、SNPアレイを用いた連鎖解析を行い、患者が共有しているゲノム領域を特定しました。さらに、全エクソーム解析による原因遺伝子変異を検索した結果、NUP133にスプライシング異常を引き起こす劣性遺伝性変異を患者に共通して検出しました(図1-A-C)。この劣性変異を持つ患者血液由来の細胞株を用いて、ウェスタンブロットによるNUP133のタンパク質の発現量を確認したところ、患者由来の細胞ではNUP133タンパク質の減少が認められました(図1-D)。
NUP133がコードしているタンパク質(NUP133)は核膜孔複合体の1つであるNup107複合体を構成するタンパク質の1つです。すでにGAMOSの原因として知られているNUP107がコードするタンパク質(NUP107)も同じ複合体を構成する分子の1つであり、正常な場合にはNUP133とNUP107は結合していることが知られています。HeLa細胞*4を用いてその結合能を確認すると、NUP107とNUP133変異体では結合が弱くなり(図1-E)、NUP133タンパク質の機能が喪失している可能性が示唆されました。
NUP133がコードしているタンパク質(NUP133)は核膜孔複合体の1つであるNup107複合体を構成するタンパク質の1つです。すでにGAMOSの原因として知られているNUP107がコードするタンパク質(NUP107)も同じ複合体を構成する分子の1つであり、正常な場合にはNUP133とNUP107は結合していることが知られています。HeLa細胞*4を用いてその結合能を確認すると、NUP107とNUP133変異体では結合が弱くなり(図1-E)、NUP133タンパク質の機能が喪失している可能性が示唆されました。
(A) NUP133変異を認めた家系の家系図。患者にのみ劣性変異が認められた。●または■:患者、+:NUP133変異(c.3335-11T>A)あり、-:変異なし、N.A.:DNA未取得
(B) 本家系で認められた変異はスプライシング異常を引き起こし、変異を有するcDNAでは9塩基(3アミノ酸)の挿入を引き起こす。
(C) NUP133における変異箇所。変異はC末端側に位置していた。
(D) 血液由来細胞株におけるNUP133タンパク質の発現。コントロールと比較して劣性変異を有する患者(VI-5)においてNUP133タンパク質の発現が減少した。
(E) HeLa細胞においてNUP107とGFPで標識したNUP133の結合能は変異型では低下した(*)。
ゼブラフィッシュによる疾患モデル動物の解析においては、ヒトのNUP133と相同なタンパク質nup133の発現を阻害剤により抑制すると、頭部の萎縮(図2-A)や脳神経細胞の減少(図2-B)が認められました。また、腎臓の糸球体の未発達(図2-C)や糸球体濾過に重要な足細胞(ポドサイト)の異常が観察され、ヒトのGAMOS患者の病態が再現されました。これらの一連の解析からNUP133の機能喪失によりGAMOSを引き起こすことが明らかになりました。
nup133の発現を抑制したゼブラフィッシュの解析
(A) 頭囲の縮小
(B) 頭部における神経細胞数の減少。Ac-tubulin:神経細胞のマーカー
(C) 糸球体の発育不全。gl:糸球体、nephrin:糸球体のマーカー
(A) 頭囲の縮小
(B) 頭部における神経細胞数の減少。Ac-tubulin:神経細胞のマーカー
(C) 糸球体の発育不全。gl:糸球体、nephrin:糸球体のマーカー
今後の展開
症例により様々な臨床症状を有するGAMOSにおいて、新たにNUP133が同定されたことにより、本疾患の遺伝子診断の正確性が向上し、患者の病態把握へ貢献することが予測されます。また、新たな原因遺伝子が解明されたことで、GAMOSの病態解明と治療・予防法の開発に進展することが期待されます。
用語説明
*1 連鎖解析:疾患と共に受け継がれるゲノム上の特定の領域を多型情報から特定する方法
*2 全エクソーム解析:ゲノム上のタンパク質をコードするDNA配列(エクソン)を次世代シークエンスにより網羅的に解析する方法
*3 スプライシング異常:変異によりエクソンとイントロンの境界が変わり、タンパク質に翻訳される領域に変化が起きること
*4 HeLa細胞:ヒトの子宮頚部癌由来の細胞株で培養細胞による実験に広く用いられている細胞
※本研究は、『Annals of Neurology』に掲載されました。(日本時間11月15日午前0付オンライン)
*2 全エクソーム解析:ゲノム上のタンパク質をコードするDNA配列(エクソン)を次世代シークエンスにより網羅的に解析する方法
*3 スプライシング異常:変異によりエクソンとイントロンの境界が変わり、タンパク質に翻訳される領域に変化が起きること
*4 HeLa細胞:ヒトの子宮頚部癌由来の細胞株で培養細胞による実験に広く用いられている細胞
※本研究は、『Annals of Neurology』に掲載されました。(日本時間11月15日午前0付オンライン)
掲載論文
Homozygous splicing mutation in NUP133 causes Galloway–Mowat syndrome
Atsushi Fujita,#, Hiroyasu Tsukaguchi,#,*, Eriko Koshimizu,#, Hitoshi Nakazato, Kyoko Itoh, Shohei Kuraoka, Yoshihiro Komohara, Masaaki Shiina, Shohei Nakamura, Mika Kitajima, Yoshinori Tsurusaki, Satoko Miyatake, Kazuhiro Ogata, Kazumoto Iijima, Naomichi Matsumoto*, Noriko Miyake (#These authors contributed equally to this work.)
Annals of Neurology
Atsushi Fujita,#, Hiroyasu Tsukaguchi,#,*, Eriko Koshimizu,#, Hitoshi Nakazato, Kyoko Itoh, Shohei Kuraoka, Yoshihiro Komohara, Masaaki Shiina, Shohei Nakamura, Mika Kitajima, Yoshinori Tsurusaki, Satoko Miyatake, Kazuhiro Ogata, Kazumoto Iijima, Naomichi Matsumoto*, Noriko Miyake (#These authors contributed equally to this work.)
Annals of Neurology
お問合わせ先
(本資料の内容に関するお問い合わせ)
公立大学法人横浜市立大学
学術院 医学群 遺伝学 教授 松本 直通
TEL:045-787-2606 FAX:045-786-5219
E-mail: naomat@yokohama-cu.ac.jp
学術院 医学群 遺伝学 教授 松本 直通
TEL:045-787-2606 FAX:045-786-5219
E-mail: naomat@yokohama-cu.ac.jp
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