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新薬開発 脳卒中後のリハビリテーション効果を促進する新薬の候補化合物を特定 承認取得に向けて治験実施へ

2018.04.06
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新薬開発 脳卒中後のリハビリテーション効果を促進する新薬の候補化合物を特定 承認取得に向けて治験実施へ

~『Science』に掲載~

横浜市立大学 学術院医学群 生理学 高橋琢哉教授らの研究グループと富士フイルムグループの富山化学工業株式会社(以下、富山化学)は、産業技術総合研究所、医薬基盤・健康・栄養研究所との共同研究により、脳卒中後のリハビリテーション効果を大きく促進する新薬の候補化合物を特定しました。富山化学は承認取得に向けて脳卒中後の回復期リハビリテーションを行っている患者さんを対象とした治験を実施します。
研究成果のポイント 
〇富山化学が創製した化合物edonerpic maleate*1が脳損傷後の機能回復のメカニズムである脳の可塑性を向上させることを明らかにした
〇脳損傷後のedonerpic maleate投与で脳の可塑性が向上し、リハビリテーションによる運動機能回復効果が改善することを、げっ歯類、霊長類のモデルで示した

研究の背景と経緯

脳卒中は日本で年間30万人、世界では1,700万人が発症していると言われ、しばしば重篤な麻痺を引き起こし、患者さんの生活の質を大きく低下させます。脳卒中後の回復期における運動機能の回復を目的とした治療は、地道なトレーニングによるリハビリテーションが主体となっていますが、その効果は限定的であり、より効果的な治療法が望まれています。

この運動機能回復のメカニズムには、リハビリテーション等の外部からの刺激に応答した脳の変化(脳の可塑性)が関与していることが知られています。脳の可塑性がおこるとき、神経細胞の情報伝達を担うシナプス*2では、神経伝達物質に対する応答が強められたり、弱められたりするといった変化が見られます。

生体における記憶学習といった可塑的変化に伴ってシナプス応答の増強が見られるとき、神経伝達物質であるグルタミン酸の受容体のひとつであるAMPA受容体*3がシナプスの膜上で増加することが、横浜市立大学の高橋琢哉教授らの研究から明らかにされており、AMPA受容体のシナプス移行が脳の可塑性のメカニズムのひとつであることが広く認められてきました(参考文献)。

研究の内容

本研究グループは、ウイルスを用いた生体内遺伝子導入法*4、電気生理学的手法*5を用いてedonerpic maleateが外部からの刺激依存的にAMPA受容体のシナプス移行を促進すること(脳の可塑性を向上させること)をマウス実験で示しました。また、この薬効における本化合物の標的がCRMP2*6というタンパク質であることを明らかにしました。この脳の可塑性向上を、損傷後の脳でも誘導できれば、リハビリテーション治療の効果を促進できると考え、げっ歯類、霊長類の脳損傷モデルを用いた検証を行いました。

まず、マウスの脳損傷モデルで前肢の運動機能を評価する方法を構築し、脳損傷後にedonerpic maleate投与とリハビリテーションを併用することにより、運動機能が回復することを明らかにしました(図1)。

図1:マウス脳損傷モデルにおいてedonerpic maleateはリハビリテーション依存的に運動機能の回復を促進する
さらに、ヒトのように指でものをつまむ動作を評価できるカニクイザルを用いて、脳出血後にedonerpic maleate投与とリハビリテーションを併用することにより、指の精密な運動も回復できることを明らかにしました(図2)。指でものをつまむ動作はリハビリテーション治療でも回復が難しいと言われています。




図2:カニクイザル脳出血モデルにおいてedonerpic maleateはリハビリテーション依存的に指の精密な運動機能を回復させる
今回の研究で示された、刺激依存的な脳の可塑性向上作用に基づく、脳損傷後の運動機能回復促進効果から、脳卒中後の回復期におけるリハビリテーション治療効果促進薬としてのedonerpic maleateの有効性が示唆されます。

今後の展開

脳の可塑性向上によりリハビリテーション治療効果を促進する新薬を、一刻も早く、脳卒中後の麻痺に苦しんでいる患者さんに送り届けることを目指します。今後富山化学は、脳卒中後の回復期リハビリテーションを行っている患者さんを対象とした治験(フェーズ2)を行い、従来の症状評価指標に加え客観的評価指標を用いることで、edonerpic maleateの臨床的有効性及び安全性を確認します。

用語説明

*1 edonerpic maleate: 富士フイルムグループの富山化学が創製した化合物。アルツハイマー型認知症患者を対象とした治験(開発コードT-817MA)も実施中であり、健康成人での忍容性が確認されています。

 *2 シナプス: 神経細胞同士をつなぎ神経細胞間の情報伝達の中心を担う構造体。神経細胞が活性化すると、その神経細胞のシナプス前末端から放出された神経伝達物質が別の神経細胞のシナプスにある受容体に結合することで情報が伝わります。

 *3 AMPA受容体: 脳内情報処理の中心的役割を担っている神経伝達物質であるグルタミン酸の受容体のひとつで、シナプス膜上にイオンチャネルを形成しています。グルタミン酸がAMPA受容体に結合すると、細胞内にイオンが流入しシナプスが応答するため、シナプス膜上のAMPA受容体の数が増えるとシナプス応答が増強します。シナプス応答の増強は記憶学習をはじめとした脳内情報処理の変化の中心的メカニズムであることが知られています。

 *4 生体内遺伝子導入法: 動物の生体内に遺伝子を導入し発現させる方法。今回の研究では,ウイルスを用いてAMPA受容体の機能を抑制するタンパク質の遺伝子などをマウスの脳に発現させることにより、損傷後の機能回復にAMPA受容体が重要な役割を持つことなどを証明しました。

 *5 電気生理学的手法: 神経細胞が発生する電気信号を測定することにより、神経細胞の情報伝達を評価する方法。実験条件を変えることにより、AMPA受容体に特異的な電気信号をとらえることができます。

 *6 CRMP2(Collapsin-Response-Mediator-Protein2): 神経軸索の伸長を阻害する分子。最近の研究から脳の可塑性にも関わっていることが示唆されています。

掲載論文

CRMP2-binding compound, edonerpic maleate, accelerates motor function recovery from brain damage
Hiroki Abe, Susumu Jitsuki, Waki Nakajima, Yumi Murata, Aoi Jitsuki-Takahashi, Yuki Katsuno, Hirobumi Tada, Akane Sano, Kumiko Suyama, Nobuyuki Mochizuki, Takashi Komori,Hitoshi Masuyama, Tomohiro Okuda, Yoshio Goshima, Noriyuki Higo, Takuya Takahashi
Science 360, 50 –57 (2018)  6 April 2018 

※本研究は、科学雑誌『Science』に掲載されました。(米国東部時間4月5日午後2時付:日本時間4月6日午前3時付オンライン)

※本研究は、文部科学省「イノベーションシステム整備事業 先端融合領域イノベーション創出拠点形成プログラム」、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「脳科学研究戦略推進プログラム(融合脳)」、「革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト」などの助成により行われました。

参考文献

Experience strengthening transmission by driving AMPA receptors into synapses
Takahashi et al. Science. 2003 Mar 7;299(5612):1585-8

Contextual learning requires synaptic AMPA receptor delivery in the hippocampus
Mitsushima et al. PNAS July 26, 2011. 108 (30) 12503-12508


A cholinergic trigger drives learning-induced plasticity at hippocampal synapses
Mitsushima et al. Nature Communications, volume 4, Article number: 2760 (2013)

Optical inactivation of synaptic AMPA receptors erases fear memory
Takemoto et al. Nature Biotechnology, volume 35, pages 38–47 (2017)

お問い合わせ先

(取材対応窓口、資料請求など)
研究企画・産学連携推進課長 渡邊 誠
TEL:045-787-2510 E-Mail:kenki@yokohama-cu.ac.jp

富山化学工業株式会社 総務人事部総務グループ
TEL:03-5381-3818 E-Mail:tc-info-toyama@fujifilm.com


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