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小児期の難治性てんかん(ウエスト症候群)の責任遺伝子の同定 ~患者と類似した脳波異常がノックアウトマウスでも確認~

2018.01.26
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小児期の難治性てんかん(ウエスト症候群)の責任遺伝子の同定 ~患者と類似した脳波異常がノックアウトマウスでも確認~

~『The American Journal of Human Genetics』に掲載~


浜松医科大学医化学の才津浩智教授、横浜市立大学遺伝学の松本直通教授、浜松医科大学神経生理学の武藤弘樹助教、秋田天平准教授、福田敦夫教授、昭和大学小児科学の加藤光広准教授らの共同研究グループは、小児期早期に発症する難治性てんかんの責任遺伝子(異常があると当該の病気が発症する遺伝子)CNPY3を発見しました。この遺伝子が産生するタンパク質は小胞体に局在し、自然免疫に重要なToll様受容体タンパク質などの正しい折り畳みと細胞内の分布に関与することが知られています。本研究では、患者で認められる所見と類似する脳波異常がCnpy3ノックアウトマウスで観察されており、このマウスモデルを用いた研究により、効果的な治療法の開発への寄与が期待されます。

研究の背景

てんかん患者は、人口の1%近くいると推定されています。小児期に発症したてんかんの70~80%は治療による発作の完治が可能と言われていますが、抗てんかん薬によるコントロールが難しい(難治性)症例も多く存在します。指定難病であるウエスト症候群は、小児の難治性てんかんで最も患者が多く、国内には少なくとも4,000人いると推測されています(http://www.nanbyou.or.jp/entry/4414)。この病気の特徴に、「てんかん性スパズム発作」と「ヒプスアリスミア」と呼ばれる異常脳波パターンがあります。また、一部の症例では、遺伝子の異常が原因となって発症することが知られており、その責任遺伝子は、近年の次世代シークエンス技術の発展によって次第に明らかになりつつあります。

研究の成果

研究グループは、次世代シークエンサーを用いた全エクソーム解析よって、ウエスト症候群の2家系3名の患者で、CNPY3遺伝子の劣性変異(両親から1つずつ受け継ぐ遺伝子の両方に変異がある)を同定しました。3名の患者とも、海馬と呼ばれる脳部位の回旋異常が認められました(参考図A)。また、2名の患者では、ウエスト症候群と診断された以後の脳波で、けいれん発作に関連する周波数の高い速波が観察されました(参考図B)。
このCnpy3遺伝子をノックアウトしたマウスでは、体重増加不良や直腸温の低下に加えて、筋緊張の亢進、不安の低下や運動機能障害といった異常所見が観察され、生後4週以内に死亡しました。また、脳波を測定したところ、患者と同様に周波数の高い速波成分の増大が観察されました(参考図C)。これらの所見から、速波(ヒト10Hz、マウス 25-30Hz)の増大がCNPY3異常の特徴と考えられました。これまでの研究で、CNPY3(PRAT4Aとも呼ばれる)は複数のToll様受容体の応答に関与することが明らかとなっています。本研究で、CNPY3(PRAT4A)はToll様受容体を介した免疫応答のみならず、ヒトとマウスの脳機能にも重要であることが明らかとなりました。

今後の展開

本研究は、小児の難治性てんかんの責任遺伝子を明らかにしただけでなく、そのノックアウトマウスがこの病気の良い動物モデルとなることを示しました。このマウスモデルを更に研究することで病態解明に貢献し、効果的な治療法開発への寄与が期待されます。
      参考図:図A:患者のMRI画像。海馬の回旋異常(通常は横向き)を矢印で示す。図B:患者の脳波。9-Hzの速波が5秒間認められる。図C:正常およびCnpy3ノックアウトマウスの脳波所見。パワースペクトラム解析によって、20-35Hzの速い周波数領域の増大が認められる。パワースペクトラム:脳波データ中に含まれる各周波数成分の信号強度をグラフに示したもの。

掲載論文

Biallelic Variants in CNPY3, Encoding an Endoplasmic Reticulum Chaperone, Cause Early-Onset Epileptic Encephalopathy
Hiroki Mutoh*, Mitsuhiro Kato*, Tenpei Akita*, Takuma Shibata, Hiroyuki Wakamoto, Hiroko Ikeda, Hiroki Kitaura, Kazushi Aoto, Mitsuko Nakashima, Tianying Wang, Chihiro Ohba, Satoko Miyatake, Noriko Miyake, Akiyoshi Kakita, Kensuke Miyake, Atsuo Fukuda, Naomichi Matsumoto and Hirotomo Saitsu (*共同第一著者)

※本研究は、アメリカ人類遺伝学会誌『The American Journal of Human Genetics』に掲載されます。日本時間1月26日(金)午前2時に公表されました。

研究グループ

本研究は、浜松医科大学医化学講座、横浜市立大学遺伝学講座、浜松医科大学神経生理学講座、昭和大学小児科学講座、東京大学・柴田琢磨助教、三宅健介教授、新潟大学・北浦弘樹助教、柿田明美教授、愛媛県立子ども療育センター・若本裕之医師、静岡てんかん・神経医療センター・池田浩子医師らとの共同研究で、下記の助成により実施した成果です。
 日本医療研究開発機構 難治性疾患実用化研究事業「希少難病の高精度診断と病態解明のためのオミックス拠点の構築」:研究代表者 松本直通
日本学術振興会科学研究費補助金 基盤研究(A)「ロングリードシーケンサーによる疾患ゲノム解析法の確立」:研究代表者 松本直通
日本学術振興会科学研究費補助金 基盤研究(B)「乳幼児てんかん性脳症の遺伝要因と分子病態の解明」:研究代表者 才津浩智
文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究「細胞発振現象と集団発振のモーダルシフト」:研究代表者 福田敦夫

本件に関するお問い合わせ先

公立大学法人横浜市立大学 学術院医学群 遺伝学
(〒236-0004横浜市金沢区福浦3-9)
教授 松本 直通
TEL:045-787-2606 FAX:045-786-5219
E-mail:naomat@yokohama-cu.ac.jp

国立大学法人浜松医科大学 医化学講座
(〒431-3192 浜松市東区半田山1-20-1)
教授 才津 浩智
Tel: 053-435-2325 Fax: 053-435-2327
E-mail: hsaitsu@hama-med.ac.jp

国立研究開発法人日本医療研究開発機構 戦略推進部 難病研究課
(〒100-0004東京都千代田区大手町1-7-1 読売新聞ビル)
TEL:03-6870-2223
E-mail:nambyo-info@amed.go.jp


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