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川崎病の血液診断マーカー候補タンパク質を発見 〜早期診断に期待〜

2017.03.07
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川崎病の血液診断マーカー候補タンパク質を発見 〜早期診断に期待〜

英科学誌Natureの姉妹誌『Scientific Reports』に掲載

横浜市立大学 先端医科学研究センターの木村 弥生 准教授、平野 久 学長補佐・特任教授、附属病院小児科の柳町 昌克 助教(現東京医科歯科大学助教)、附属市民総合医療センターの森 雅亮 准教授(現東京医科歯科大学教授)らの研究グループは、質量分析装置を用いた血清プロテオーム解析*1により、4種類の川崎病の血液診断マーカー候補タンパク質を発見しました。
川崎病は主に4歳以下の乳幼児に発症する急性熱性発疹性疾患です。国内では毎年1万人以上が罹患し、近年増加傾向にあります。無治療の場合や治療が奏功しなかった場合には25~30%の患者で心臓に合併症が生じ、これが小児に見られる後天性心疾患の最大の原因にもなっています。そのため、発症後早期の診断と治療開始による有熱期間の短縮が重要になります。しかし、川崎病の病因や発症メカニズムが未解明で、確定診断を行える検査法は現在ありません。現状では、診断は主要症状に基づいた診断基準に基づいて行われるため、症状が揃わない段階での早期診断や治療開始の判断は専門医でも難しいことが少なくありません。
今回の発見は、川崎病診断のための検査法確立につながり、早期の的確な診断と病勢の変化の把握、ひいては治療法の改善によって、合併症のない早期治癒が期待されます。

※本研究は、文部科学省イノベーションシステム整備事業「先端融合領域イノベーション創出拠点形成プログラム」の一環として行われた、横浜市立大学 先端医科学研究センターの研究開発プロジェクトの研究成果です。

研究の背景

川崎病の病態は全身の血管炎とされ、患者数は近年増加傾向にありますが、その詳しい病因や発症メカニズムは不明です。現在の診断基準では、6つの主要症状(①5日以上続く発熱、②両側眼球結膜の充血、③口唇発赤、苺舌、④不定形発疹、⑤急性期の手指の硬性・手掌および足底紅斑、解熱後の膜様落屑、⑥頸部の非化膿性リンパ節腫脹)のうち5つ以上を認めた場合に川崎病と診断します。
これらの症状は一般的に発症から3~7日までに様々なタイミングで出現します。心臓の冠動脈の障害を伴うケースでは発症後10日目あたりから心エコー検査で異常が見られ、10~14日ごろには冠動脈の拡張や瘤形成が認められます。このため早期の診断と治療が非常に重要なのですが、主要症状には個人差があり、症状が5つ未満の症例も多数存在することから、症状以外から診断が可能な検査法の開発が求められていました。

研究の概要と成果

6つの主要症状のうち5つ以上を示した典型的な川崎病患者の、急性期(発熱時)と回復期(解熱時)の血清で発現量が変動するタンパク質を、質量分析装置を用いたプロテオーム解析により探索しました。その結果、急性期では回復期に比べて20種類のタンパク質の発現が増加し、6種類のタンパク質の発現が減少していることを見出しました。さらに、急性期で発現が有意に増加している3種類のタンパク質(LBP、LRG1、及びAGT)と、逆に発現が抑制されている1種類のタンパク質(RBP4)が、川崎病の病勢の変化に伴い変動する川崎病関連タンパク質であることが判明しました。
次に、これら4種のタンパク質が川崎病の診断に有効か検証するため、川崎病以外の小児の発熱性疾患患者(ウィルス感染症、細菌感染症及び自己免疫疾患)や健常児の血清中に含まれるそれらのタンパク質を酵素免疫測定法(ELISA)で測定、比較しました。その結果、LBPとAGTが細菌感染症との比較で有意な差はなかったものの、それ以外の疾患との比較では全てにおいてLBP、LRG1とAGTの血清中濃度は急性期の川崎病患者血清で有意に高値であり、RBP4は他の疾患よりも有意に低値でした。また、川崎病と症状による区別がつきにくい、アデノウィルスや溶連菌などによる感染症患者についても、特にLRG1の血中濃度を調べることによって鑑別診断が可能であることが明らかになりました(図1)。
なお、本研究は、横浜市立大学附属病院、同附属市民総合医療センターに加え、公立昭和病院、神奈川県立こども医療センター、神戸こども初期急病センターおよび日本赤十字社和歌山医療センターの協力を得て行われました。
図1 ELISAによるLRG1の発現量比較
acute;川崎病急性期患者血清(55症例)、adenovirus;adeno virus感染患者血清(15症例)、Staphylo/Streptococcus;StaphylococcusまたはStreptococcus感染患者血清(12症例)、***:p < 0.001, NS : non-significant

今後の展開

本研究で見出した4種類のタンパク質のいずれか又は複数を組み合わせた検査で、より早期に的確な川崎病の診断が可能となり、その結果、より適切な治療の選択が期待されます。このことは心合併症の発生防止に直接繋がります。又、治療前後の経過観察も容易になります。これら4種のタンパク質(LBP、LRG1、ATG及びRBP4)はそれぞれが川崎病の異なる相を反映していると考えられ、これらのタンパク質を指標として、より詳細な川崎病の病理発生が明らかにされ、新たな治療法が開発されることも期待されます。

用語解説

*1 血清プロテオーム解析
生体内で発現するタンパク質の総体をプロテオームとよびます。血清中に発現しているタンパク質を酵素によりペプチドに断片化し、質量分析装置を用いてペプチドの質量を正確に測定し得られたデータを、ゲノム解析から推定されるタンパク質のアミノ酸配列から予測するデータと比較することにより、タンパク質を特定することができます。また、それと同時に得られるペプチドのイオン量を用いて、血清中に発現しているタンパク質量を網羅的に比較することが可能です。

※本研究成果は英国科学誌『Scientific Reports』に掲載されました。(英国時間3月6日午前10時:日本時間3月6日午後7時オンライン) 

掲載論文

Scientific Reports 7, Article number: 43732DOI: 10.1038/srep43732
Identification of candidate diagnostic serum biomarkers for Kawasaki disease using proteomic analysis
Yayoi Kimura*1), Masakatsu Yanagimachi*2), 3), Yoko Ino1), Mao Aketagawa1), Michie Matsuo1), Akiko Okayama1), Hiroyuki Shimizu4), Kunihiro Oba5), Ichiro Morioka6), Tomoyuki Imagawa7), Tetsuji Kaneko8), Shumpei Yokota2), Hisashi Hirano1), Masaaki Mori**4), 9)

1) Advanced Medical Research Center, Yokohama City University, 2) Department of Pediatrics, Yokohama City University School of Medicine, 3) Department of Pediatrics, Tokyo Medical and Dental University, 4) Department of Pediatrics, Yokohama City University Medical Center, 5) Department of Pediatrics, Showa General Hospital, 6) Department of Pediatrics, Kobe University Graduate School of Medicine, 7) Department of Infectious Disease & Immunology, Kanagawa Children’s Medical Center, 8) Teikyo Academic Research Center, Teikyo University, 9) Department of Lifetime Clinical Immunology, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Tokyo Medical and Dental University
*Equal contribution
** Correspondence 
(本資料の内容に関するお問い合わせ)
横浜市立大学先端医科学研究センター
プロテオミクス准教授木村 弥生
E-mail:ykimura@yokohama-cu.ac.jp

国立大学法人 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
生涯免疫難病学講座教授森 雅亮
E-mail:mori.phv@tmd.ac.jp

(取材対応窓口、資料請求など)
横浜市立大学研究企画・産学連携推進課長渡邊誠
TEL:045-787-2510
E-mail:sentan@yokohama-cu.ac.jp 
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