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遺伝学松本教授らの研究グループが、難治性てんかんをきたす皮質形成異常症の原因となる遺伝子を発見!

2015.06.19
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遺伝学松本教授らの研究グループが、難治性てんかんをきたす皮質形成異常症の原因となる遺伝子を発見!

~『Annals of Neurology』に掲載~

横浜市立大学学術院医学群・中島光子助教・才津浩智准教授・松本直通教授(遺伝学教室)らは、薬が効かない難治性てんかんの原因のひとつである限局性皮質形成異常症(Focal cortical dysplasia: FCD)を引き起こす遺伝子MTORを発見しました。MTOR遺伝子が作るタンパク質はラパマイシン(Rapamycin)という薬によってその働きが抑制されることが知られています。本研究成果により、FCDという病気の理解が深まるとともに、本研究で得られた知見を元に新規治療法の開発が期待されます。
この研究成果は、新潟大学脳研究所・柿田明美教授、武井延之准教授、西新潟中央病院・遠山潤部長、昭和大学・加藤光広講師、横浜市立大学学術院医学群生化学教室・椎名政昭助教、緒方一博教授らとの共同研究による成果であり、横浜市立大学先端医科学研究センターが推進している研究開発プロジェクトの成果のひとつです。

研究概要

てんかんを持つ人は日本全国で約100万人とも言われ、そのうち2割程度に適切な薬を使っても発作を抑制できない「難治性てんかん」が存在します。原因によってはてんかんの元となる脳病変に直接アプローチする方法(脳外科的手術)が取られることもあります。
限局性皮質異形成(Focal cortical dysplasia: FCD)は、脳形成・発達段階の障害により、大脳皮質の層構造の乱れや異常神経細胞等が見られる疾患で、薬が効かない難治性てんかんの原因となっています。患者の大多数は家族の中に発病者がいないため、遺伝的なものであるかどうかが明らかでなく、本疾患の発症は病気にかかった脳の部分の細胞に遺伝子の変異が起こるためではないかと疑われていました。
中島助教・才津准教授・松本教授らのグループは、MRI画像で脳の一部に構造の異常をきたした病変部位を認めるFCD患者の中で(図A)、「FCD IIb型」という組織像を示す症例に注目し、この症例の脳組織(病変部位)と血液組織(正常部位)から採取したDNAを用いて全エクソーム解析*1を行い、両者の遺伝子配列を比較することで異常な脳組織のみにみられる遺伝子変異を探索しました。その結果、6例のFCDIIb症例においてMTOR遺伝子に脳組織だけに発生している、体細胞モザイク変異*2を見出しました(図B)。
これらの変異はMTORタンパク質の機能を過剰に活性化させて、その下流の標的タンパクのリン酸化を促進させる活性型変異であることが予想されました。そこで、FCDIIb症例とFCD以外のてんかん症例の脳組織でその標的タンパク(S6キナーゼ)のリン酸化の量に違いがあるかどうかを比較したところ、FCDIIb症例の脳組織でリン酸化が促進されていることが確認されました(図C)。
MTORは免疫抑制剤の一種であるラパマイシン(Rapamycin)が直接作用するタンパク質であり、ラパマイシンによってその活性が抑制されることが知られています(図D)。本研究によりFCDの発症に病気にかかった脳の部分に限定的に発生するMTOR遺伝子の変異が関わっていることが明らかとなりました。これらの研究成果により、FCDという病気の理解が深まるとともに、ラパマイシンの難治性てんかん治療薬としての応用など新規治療法の開発に繋がると期待されます。

(注釈)
*1全エクソーム解析:ゲノム上の全エクソン領域(タンパク質の配列を決定する遺伝子領域の全て)を分離した後、その塩基配列を次世代シークエンサーで決定する方法。
*2モザイク変異:後天的に生じた、ある特定の細胞や組織のみで認められる変異。同じ受精卵から発生した細胞であるが、変異を持つ細胞と持たない細胞の2つの集団が存在する。
(A) FCD IIbを呈する2症例のMRI画像。黄色の矢頭で示す部分が病変部位。

(B) FCD症例で認められたMTOR遺伝子のモザイク変異。4つの変異はいずれも哺乳類からゼブラフィッシュまで高度に保存されたアミノ酸を置換する変異であった。

(C) FCDIIb症例(左)とFCD以外のてんかん症例(Control)の脳組織の免疫染色像。褐色に濃く染まっている細胞はS6キナーゼのリン酸化が促進されている。

(D) PI3K–AKT3–mTOR経路の模式図。MTORが活性化することにより、細胞増殖・脂質生成、タンパク翻訳が促進され、細胞死が抑制される。ラパマイシン(Rapamycin)はMTORの活性を抑制する。

*本研究成果は、米国の科学雑誌『Annals of Neurology』に掲載されました(5月27日オンライン掲載)。
*この研究は、厚生労働省、文部科学省、国立研究開発法人科学技術振興機構、日本学術振興会の研究補助金により行われました。また、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「難治性疾患実用化研究事業」の一環として実施されました。

掲載論文
Somatic mutations in the MTOR gene cause focal cortical dysplasia type IIb
DOI: 10.1002/ana.24444

お問い合わせ先

(本資料の内容に関するお問い合わせ)
公立大学法人横浜市立大学学術院医学群遺伝学中島光子・松本直通
TEL:045-787-2606 FAX:045-786-5219
E-mail:(中島)
(松本)

(取材対応窓口、資料請求など)
公立大学法人横浜市立大学先端研究推進課長立石建
TEL:045-787-2510FAX:045-787-2509
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