ナビゲーションをスキップして本文へ
  • English
  • 日本語
  • 簡体中文
  • 繁体中文
  • Korean
  • 通常版
  • テキスト版
  • 交通・キャンパス案内
  • 資料請求
  • お問合せ
  • サイトマップ

研究者検索


ここから本文

HOME > 教員からのメッセージ − At the Heart of YCU > マニュアルに使われず、自分で考え、動ける医師を育てたい - 相原 道子教授

マニュアルに使われず、自分で考え、動ける医師を育てたい - 相原 道子教授

皮膚アレルギー疾患の克服を目指して

皮膚科学は、皮膚の機能や皮膚に生じる様々な疾患を取り扱う学問です。皮膚は人体を被い、外界から物理的に人体を保護するとともに体温調節や排泄機能、感染防御といった種々の生理的機能を持っています。熱傷をみても明らかなように、皮膚が広い範囲で損なわれることは、生命を脅かすこともあります。

私は日々、皮膚科医として、また一研究者としてアレルギー疾患と向き合っています。皮膚には多くの免疫細胞が存在することから、ダニなどの環境中に存在する物質や、消化管、皮膚から体内に取り込まれた食物や薬物などの化学物質に対する様々な免疫・アレルギー反応を生じます。

アレルギー反応は、アトピー性皮膚炎、薬疹(薬物による皮膚障害)、蕁麻疹、接触皮膚炎といった皮膚疾患を引き起こし、ときに重症になります。このようなアレルギー疾患をどのように克服していくか、それぞれの症状を診断し、原因を探り、患者さんと一緒になって取り組んでいます。


相原 道子(あいはら・みちこ)
医学群 教授 皮膚科学
 (学部)医学部医学科  (大学院)医学研究科 
 附属病院 

 アトピー性皮膚炎は、研究の重要テーマ

皮膚アレルギー疾患の中で、最も患者さんが多いアトピー性皮膚炎は慢性の皮膚病であり、20年ほど前から増加傾向にあります。増加の原因については、スギ花粉やダニなどのアレルゲンの増加や食生活の変化、環境汚染、ストレス、また現代型の清潔すぎる生活環境など、さまざまな要因が考えられます。有症率をみると成人は小児に比べ低いものの、重症患者では成人の割合が高くなります。顔面や身体がかゆみを伴って赤くなり、外見上の問題から社会生活に支障をきたすことも珍しくありません。

また、症状や経過など、ひとりひとり異なるため、きめ細かな対応が求められます。現在、それぞれの患者さんにあったさまざまな療法CLOSE UP 1を用いた治療を行う一方、発症や悪化因子の研究、特にかゆみの研究を、動物実験のレベルから進めています。

CLOSE UP 1

確かな可能性へ、進化するアトピー性皮膚炎の治療法

かゆみには皮膚のかゆみ神経が関与します。かゆみのつよい患者さんの皮膚には、 正常より多くの神経が皮膚の表面まで達していて、かゆみ刺激に対して過敏になってい ます。これを調節するのが皮膚の細胞で作られる神経成長因子と神経の成長を抑える セマフォリン3Aという物質です。

かゆみ過敏の患者さんでは、これらのバランスが崩れていることからそれらを調整することが重要であり、当教室では皮膚で低下しているセマフォリン3Aをいかにして増やすかについての研究を進めています。

生命の危機さえ引き起こすアレルギー

薬物アレルギーによる「薬疹」を研究

「薬疹」という言葉は、一般にはあまり馴染みのないものかもしれません。薬の副作用には、薬が本来持っている作用によって起こる薬理作用と、アレルギーによって引き起こされるものがあり、薬疹とは後者のうちの皮膚に症状が起こるものを指します。

一部の皮膚が赤くなるといった比較的軽度のものから、水ぶくれができ生命の危険に及ぶ「重症薬疹」CLOSE UP 2までがあります。皮膚と粘膜が障害される「スチーブンス・ジョンソン症候群」や、さらに重症の「中毒性表皮壊死症」は、現在でも眼障害などの後遺症の発症率や死亡率が高い疾患です。

患者さんを助けるための薬剤が、患者さんの命を脅かすことは医師としても堪え難いことであり、これらの疾患の死亡率ゼロを目指して、免疫・アレルギー反応を抑制する薬剤や血漿交換療法などを駆使して治療にあたっています。最近7年間は当大学病院における重症薬疹による死亡や後遺症はゼロと、うれしい結果が出ています。

また治療に加えて重要なのは、その発症予防です。症状を起こす患者さんと、起こさない患者さんとでは何が違うのか。重症薬疹を発症しやすい患者さんを見つけるための遺伝子学的な研究を進めています。薬剤を投与する前に、簡単な検査で薬疹の可能性を判断できるようになれば、発症率を低下させることが可能になります。

CLOSE UP 2

死亡率20〜25%。恐ろしい重症薬疹

全身の皮膚が赤くヤケドのようになり、擦るだけでズルズルと剥離する。薬疹の中で最も重症なのが「スチーブンス・ジョンソン症候群」であり、その進展型の「中毒性表皮壊死症」です。

両疾患の発症数は日本で年間400〜600人。「中毒性表皮壊死症」の死亡率は20〜25%にものぼります。その要因の多くは医薬品による薬物アレルギーです。抗生物質、解熱消炎鎮痛薬、抗てんかん薬などでみられ、市販のかぜ薬でも症状が引き起こされるケースもあります。

皮膚だけでなく目、くちびる、陰部などの粘膜が傷害されるのが特徴です。何らかの薬を服用したあとに高熱、広範囲の皮膚の赤み、目の充血、くちびるのただれなどがあった場合は医師の診断を受けましょう。

皮膚科リサーチ・カンファレンスにて。
大学院生・研修医の研究指導にも熱心に取り組む。

患者さんとのコミュニケーションを、モチベーションに

治療効果が一目瞭然なのが、皮膚科診療の魅力

皮膚の病気は人目につくだけに患者さんのストレスも大きく、何とかして良くなりたいという切実な思いがあります。ですから医師としてもその思いを受け止め、患者さん側の気持ちに立った治療を心がけています。ただ一方で「見える」ということはまた、よくなったこともすぐわかるということです。私が皮膚科医を志した一番の理由も、治療の効果がわかる、見えるということでした。「よくなりましたね」と患者さんと一緒に喜べる。それは診療をする上での何よりのモチベーションになります。

当院では皮膚ガンの手術などの外科的施術も原則、皮膚科の医師で行っており、大学病院では全国でもトップレベルの実績があります。その背景にも、自分の目で見て、病理組織を確認して、一貫した治療を行いたい。患者さんと一緒になって歩みたいという私たちの思いがあります。

マニュアルに使われない、自分で考える医師を育てたい

診療現場にはありとあらゆるマニュアルがあり、当然皮膚科にもマニュアルはあります。しかしマニュアルはより安全な診療をするための参考資料であり、すべての状況に対応可能なわけではありません。

既存の知識や知恵を尊重しつつも、常に疑問を持ち、それを解決する努力を続けることが、新しい発想につながります。

また、患者さんを前にして求められるのは、それぞれが何に悩み、何を求めているのかをつかむコミュニケーション力です。そのためにも色々な分野に興味を持ち、多くの経験を積み、人の心のありようを理解することが必要です。マニュアルに使われず、自分で考え、動ける。そんな医師を育てていきたいですね。

(2012.12.21 広報担当)

ページトップへ