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HOME > 教員からのメッセージ − At the Heart of YCU > 人と地球の未来を考えて植物を研究しています - 嶋田 幸久 教授

人と地球の未来を考えて植物を研究しています - 嶋田 幸久 教授

植物をつかさどる機能、物質を研究

環境応答のカギ、植物ホルモン

植物は自らの意思で動くことができず、生まれた場所で一生を過ごさなければなりません。そのために、周りの環境を察知して対応する能力に優れています。植物は、地上では太陽の光を求めて上に伸びる一方、地下の根は水分を求めて下に伸びてゆきます。常に上下の方向を感知して、方向を修正して正しい方向に伸びることができます。別のセンサーは昼と夜の長さをキャッチし、季節が今いつなのかも感知します。こうしたセンサーで環境を察知し、成長を調節する働きを、植物の「環境応答反応」といい、植物が生きていくのになくてはならない能力です。

環境応答反応には「植物ホルモン」が関与しています。植物ホルモンは植物の体内で生産される低分子の化合物で、生成される場所から植物体内の他の場所に運搬され、微量で植物の成長や分化を調節する働きがあります。オーキシン、サイトカイニン、ジベレリン、アブシジン酸、ブラシノステロイド、エチレン、ジャスモン酸などがあり、それぞれに働きがあります。私の研究室では、このような植物ホルモンが環境応答にどう作用しているかを研究しています。


嶋田 幸久(しまだ・ゆきひさ)
国際総合科学群 教授
木原生物学研究所植物応用ゲノム科学部門
 (学部)国際総合科学部理学系生命環境コース  (大学院)生命ナノシステム科学研究科ゲノムシステム科学専攻  研究者データベース 

多彩に活用されるオーキシン

植物ホルモンの研究の中でも、私がいちばん注力している対象が「オーキシン」です。オーキシンは、進化論で有名なダーウィンが存在を予見し、最も古くから研究されている植物ホルモンのひとつで、細胞の分裂、茎や根の伸長、発根、果実の肥大など、植物の成長をあらゆる場面で制御しています。イチゴやトマトの実を太らせ、水田の除草剤として使われるなど、農業面を中心にすでに広く活用されていますCLOSE UP 1

オーキシンはアミノ酸の一種であるトリプトファンから合成されており、またオーキシンの生合成酵素や信号伝達に関わる因子は遺伝子によってコントロールされ、その設計図は全ての遺伝情報である「ゲノム」に書かれています。現在、ゲノムの情報を解析して、どの遺伝子がどう働いているのか、遺伝子の機能やゲノムに書かれた生命の設計図を解読する作業を進めています。

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豊かな「食」に貢献する植物ホルモン

植物ホルモンは、農作物の成長において重要な役割を果たしています。例えばオーキシンは、果樹の枝を切り取って地中に挿し込み、根を出させて新株を得る「挿し木」における発根促進剤に使われたり、イネの成育を阻害する雑草の除草剤に使用されたりしています。他にも、ジベレリンは種なしブドウの肥大を促進し、エチレンは、ヒョロヒョロと細く育つモヤシを、太くてシャキシャキしたものに変えます。また、青々とした状態で輸入されたバナナは、港でエチレンをかけられ、2・3日して黄色く食べごろになってからスーパーへ運ばれます。

このように植物ホルモンは、ごく身近な存在として、私たちの食生活にも深く関わっています。今後も未知の物質が見つかり、日々の暮らしに活かされる可能性はあります。

植物の遺伝子を通して、地球環境へのヒントを探る

遺伝子の機能を解明する研究に欠かせない「モデル植物」

植物の遺伝子の機能を研究するのに欠かせないのが「モデル植物」です。動物の研究では病気の原因を解明したり薬を開発したりする目的でマウスやラットなどの「モデル動物」を使いますが、植物においても同じような役割を担う生物が存在します。代表的なものとして野草の「シロイヌナズナ」があります。シロイヌナズナは、ゲノムのサイズが小さい。栽培がしやすく、種を蒔いて3ヶ月程で次世代の種子が採れる。遺伝子の組み替えが簡単に行えるなど、遺伝子やゲノムの研究をスムーズに遂行するための利点を備えています。

2000年に、シロイヌナズナは植物として初めて全ゲノムの解読が終了し、ゲノムサイズは1.3億塩基対、遺伝子数は約2万6000個と判明しました。これは高等植物としては最小の部類に入ります。ただゲノムがわかったといっても、それはDNAの配列がわかっただけで、どこに何の情報が書かれているかは未解明です。多様な植物の生き方に迫るべく、まずはモデル植物の設計図の解読を進めています。

地球環境に、食糧の安定供給に、植物の力を

地球温暖化の原因ともされるCO2(二酸化炭素)の増加は、私たちの未来に関わる大きな問題です。化石燃料を使い、森林を伐採し、CO2を排出し続けてきた現代社会ですが、それももう限界に近づいています。これからは放出したCO2を回収し、再利用する「CO2のリサイクル社会」への転換の必要性があると考えます。その一翼を植物が担えるようにすることは、研究の最終的な目標でもあります。

また、環境の変動による凶作や砂漠化、新興国の人口増加と需要の拡大などによる食糧危機の到来も、現実味を帯びてきています。
かつて「緑の革命」と呼ばれた農業技術革新が、穀物の大量生産を実現し、世界の食糧危機を回避させたようにCLOSE UP 2、「第二の緑の革命」を求める声もあります。このように地球規模で進む課題に対し、植物の持つ機能を解き明かし、解決へのアプローチを探っていきます。

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品種改良がもたらした、飛躍的な生産性の向上

「緑の革命」とは、1940年代から60年代にかけ、品種改良、化学肥料や農薬の投入、灌漑設備の整備などにより、穀物類の大量増産を達成した農業革命のひとつです。コムギやイネなどの穀物類は肥料を多く投入すると、作物の背が高くなり倒れやすかったのですが、品種改良により、背が低くて倒れにくい、そして肥料の投入量に応じた安定増加が見込める作物の開発に成功しました。実は日本の農業技術も、この緑の革命に寄与しています。「農林10号」という日本産の小麦品種が、アメリカおよびメキシコで品種改良され、背が低く生産性の高い小麦となり、当時食糧難に陥っていた国の人々を救ったのです。緑の革命で用いられた品種改良には、ジベレリンやブラシノステロイドといった植物ホルモンに関する遺伝子が利用されています。

    

植物を学ぶ。植物から学ぶ

最先端の中に身を置いて

私が植物の研究を始めたきっかけは、植物ホルモンなど、数種類の化学物質がその成長をコントロールしているという点に興味を持ったことです。理化学研究所、横浜市大と、一貫して遺伝子や植物ホルモンを研究対象にし、植物の生きる仕組みの解明やその応用について研究をしてきました。

現在は、世界レベルでゲノムの解読がすすみ、遺伝子の機能を解明する研究に関しては、様々な情報と材料が揃ってきています。日々新たな発見や進歩に出会えるこの世界に、刺激されています。新しい技術やアイデアを柔軟に取り入れて、自ら最先端を生み出せる存在でありたいと思っています。

 社会に貢献できる人材を育みたい

あたり前ですが植物は黙って何も言わないし、見かけは動きません。それをおもしろくないと感じる人もいるかもしれませんが、植物は人間にはない能力を持ち、生きていくための知恵や工夫をたくさん備えています。専門的な装置や実験系を用いると、植物がダイナミックに動いたり、環境に応答したりする姿を観察することができます。人間が生きていくのに必要なことも、もしかしたら植物から学べるかもしれません。

研究室に入ってくる学生は、研究を通して色々な技術を吸収し、実社会で貢献したいと考えている人が多いです。私も彼らと一緒に研究を進め、世の中で役に立つ技術や、社会に貢献できる人材を輩出していきたい、そう考えています。苦労して、とことん突き詰めて成果が得られたり、先生や仲間と協力して困難を乗り越えていく。このような経験は、どんなフィールドに身をおいても力を与えてくれるはずです。

(2013.2.22 広報担当)

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