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HOME > 教員からのメッセージ − At the Heart of YCU > 臨床と研究を両立させることが、理想のがん治療につながります - 前田 愼 教授

臨床と研究を両立させることが、理想のがん治療につながります - 前田 愼 教授

新規治療の確立を目指し、胃がん発生のメカニズムを追究

胃がんは主に、慢性胃炎から数十年の歳月を経て発生。ピロリ菌除去が、がんの発生率を抑える


私が担当する消化器内科は、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸などの消化管、そこに付随したすい臓、肝臓、胆道などを専門とする科であり、特にがんについて多く扱います。がんのなかには、感染症から発展して起こるものがあります。例えばウイルス肝炎から肝がんへ、パピローマウイルスから子宮頸がんへ、そして私の専門とする胃がんは、ピロリ菌が胃内部に感染することにより、慢性胃炎から数十年の期間をかけて発生します。

私の研究は、そのがん発生までのメカニズムの解明です。特に胃がんに焦点をあて、小児期に感染したピロリ菌が、どのように慢性胃炎が起こし、どのように胃がんにまで発展していくのか。プロセスを解析し、がん発生の原因をつきとめることを目指しています。革新的な創薬や施術への新しい道を切り開いていきたいと強く思っています。

現時点で、マウスを使った実験では、ピロリ菌を除去することで胃がんの発生率が減少することがすでに実証されています。人における胃がんについては正式な研究成果は出ていませんが、おそらく胃がんの発生率が減少するであろうと、世界の研究者の間でも信じられています。

しかし、胃内部にあるピロリ菌を除去したとしても、胃がんが完全になくなることはありません。急速に発展してきたがん治療の分野ですが(CLOSE UP 1)、ピロリ菌が原因ではない胃がん発生のメカニズムは、いまだに解明されていません。そこが、今後の大きな課題だと思っています。


前田 愼(まえだ・しん) 医学群 教授 消化器内科学
 (学部)医学部医学科  (大学院)医学研究科 
 附属病院 

CLOSE UP 1

驚くべき発展を遂げてきた、がん治療

現在、胃がんの原因であるピロリ菌治療が当然のように行われ、肝がんにつながるウイルス肝炎であるC型肝炎の治療法は確立されています。また、内視鏡治療も一般的に行われています。20年前は早期の胃がんであっても、全て開腹手術によって治療されていました。しかし、現在では、内視鏡を使ってがんを切除する手術が行われ、それは食道や大腸にも応用されてきています。

難治がんに対する抗がん剤も大きく進化し、難治がん患者の寿命が著しく伸びています。その背景には分子標的治療の出現があります。分子標的治療とは、がん細胞に特有あるいは過剰に発現している特定の分子を狙い撃ちにして、その機能を抑えることにより病気を治療する方法で、今後も大きな発展が期待される分野です。

消化器内科は、臨床と研究が直接的に結びつく領域

多くの患者さんを診たいと考え、消化器内科を選択

私はできるだけ多くの患者さんを診たいという思いから、学生時代から患者数の多い科を志望していました。その中で、研修医時代に、がん診療が研究と臨床が直接的に結びつきやすい分野であることを知り、興味をもち、それがきっかけで、消化器内科を選びました。内視鏡による治療法がちょうど普及し始めた時期であり、注目を集める分野だったことも大きかったと思います。当時から、これからは内科でがん治療を行える時代がくると考えていました。

がん研究は、臨床にも精通した医師が行うべき

本来、がん治療において、研究と臨床は非常に密な関係でなければなりません。新しいがん研究の成果が、患者さんの命を救う可能性が高いからです。しかし、最新の医科学は、臨床と直接的に関係のないテーマを対象とするようになり、臨床医は研究から離れ、最先端の研究者は臨床の現場から離れる傾向にあります。

しかし、私は、がん研究は臨床を知っている臨床家が行ったほうがよいと考えます。難病ほど、患者さんの小さな変化が重要になってきます。現場を知らないと、求められている研究成果も出しにくくなります。現場に活かせるがん研究を行うために、臨床と研究を両立できる医師の育成に、消化器内科としても力を入れています。また、そのことは、これからの医療ネットワーク形成にとっても非常に重要になってくると思います(CLOSE UP 2)

CLOSE UP 2

世界レベルの研究成果を発信するための

医療ネットワーク形成

医学部を有する大学として神奈川県内唯一の公立大学である本学には、大学病院、協力病院とともに近隣地域の医療を充実させることが求められています。そのために必要なことが県内の医療ネットワークの形成です。各地に拠点病院を配置し、最新医療の教育を受け、臨床と研究を共にできる医師を派遣。医療レベルの底上げと均一化を図りながら、そこで得られた成果を集積し、大きな成果を世界へ発信することができます。時間を要するプロジェクトですが、市大からも多くの医師を送り出していき、できるだけ早期の実現を目指しています。

附属病院消化器内科病棟にて
学生の臨床実習では、患者さんとのコミュニケーションの重要性を特に強調しています。担当医が得られなかった患者さんの疾患に関する情報を報告する学生もいます。

新しい医療を築き上げる優れた医師を育成したい

学生は患者さんと接することを大切にしてほしい

学生には、医師になることが目標ではなく、医師として何をしたいのかという強い意志を持ってほしいと思います。そして、思考や行動に対して余裕が持てる医師になってほしいと思います。研修医になってから意識しても、研修医時代は自ら考えて行動できる余裕はあまりありません。そのため、学生の時から能動的に学ぶ姿勢を持つことが重要です。

また、医師は医学の知識や技術があればそれでいい、というわけではありません。医師は患者さんという人間を相手にしますので、他人に対する興味やコミュニケーションがとれる力も必要です。子どもやお年寄りに誠意をもって対応することを、心がけてもらいたいです。

医師を目指す方は高校時代から、語学の習得をはじめ、国際性を常に視野に入れながら、多くのことに興味を持って取り組むことをおすすめします。私も、学生時代はバックパッカーとして、国内海外問わず様々な国を旅してきました。そこで多くの見聞を広めることができ、人と接する大切さを教わったと思います。

若い人たちの潜在能力を引き出すことも重要

医療が発達したとはいえ、胃がん、膵がんなどで亡くなる方は未だに多く、これらをいかに克服するかは国民の健康増進のために重要だと思います。消化管に原因不明の炎症が起こる炎症性腸疾患をはじめとする、難病に対する取り組みも必須になってきます。そのためには、臨床、基礎、そしてその橋渡しとなる研究を行っていかなければなりません。

私たちは消化器内科の使命として、難病への治療法を確立し、健康社会を実現するために新しい医療を築き上げることが重要であると考えています。そのためにも、私たちは、次世代の医療を担うことになる若い人たちの個々の能力、潜在性をいかに引き出すかということが求められていると思います。


(2012.11.26更新)

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