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大学院生 本田 龍司さんの論文が、The Journal of Organization and Discourseに掲載

2024.06.13
  • TOPICS
  • 学生の活躍
  • 国際商学部

ADHDやASDの人の組織社会化を促進するマネジメントと支援について

国際マネジメント研究科 博士後期課程1年の本田龍司さんの論文が、組織に関わるシンボリズム、文化、メソドロジー等に関する研究を掲載している「The Journal of Organization and Discourse」に掲載されました。
論文著者
国際マネジメント研究科 博士後期課程 1年
(日本学術振興会 特別研究員*1DC1)
本田ほんだ 龍司 りゅうじさん

指導教員
国際マネジメント研究科
吉永 崇史 教授


論文タイト
Managing and supporting people with ADHD and ASD in satellite offices in Japan: A qualitative study from an organizational socialization perspective
日本のサテライト・オフィスで働くADHDやASDの人のマネジメントと支援:組織社会化の観点における質的研究


掲載雑誌
The Journal of Organization and Discourse

今回の研究内容について本田さんに解説していただきました。
新しく会社(組織)に入る新入社員は、その会社や職場、仕事のことを自ら学ぼうとしたり、周りの人から教わったりすることを通じて、その会社で働く一員になっていきます。経営組織論や組織行動論では、これを“組織社会化”と呼びます[2]。組織社会化が進めば進むほど、安定してよりよく働くことができると考えられています[3]。先輩や上司、人事担当者をはじめ、周りの人たちによって新入社員の組織社会化をスムーズに進ませるような取り組みが行われています[4]。新入社員研修やバディ制度がわかりやすい例です。
今回、障害者雇用のためのサテライト・オフィスで働くADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉スペクトラム症)の人に着目して、組織社会化をスムーズに進ませるマネジメントと支援の特徴とは何かを明らかにすることを目的に研究し、主に3つの発見がありました[1]
1つ目は、ADHDやASDの人のニーズの多様性や認知的な多様性に対応するための取り組みです[1]。入社前の会社のイメージと入社後に知る現実との間に大きなギャップがあると、新入社員はショックを受けてしまいます。そのショックを軽減するために、入社前から会社についてのリアルな情報をきちんと提供しようという取り組みを、リアリスティック・ジョブ・プレビュー(RJP)といいます[2]。しかし、ADHDやASDの人が会社や職場に対して期待したり、求めたりすることは人によって様々で、支援する専門家であってもそのすべてに対して適切に情報提供することは難しいと考えられます[1]。そこで明らかになったのは、実際にサテライト・オフィスを見学する体験型のRJPです。働いている人に質問したり、仕事の様子を見たりすることで、リアルな情報を自ら入手することができます。
2つ目は、ADHDやASDの人が日々働くための“ワーク・アンカー”を認識してもらう取り組みです[1]。ワーク・アンカーとは、仕事へのモチベーションや仕事に対する前向きな意味をもつことの源泉になる価値を表します。ADHDやASDの人は、その特性によって職場や生活における困難を経験することから、次の日も出勤できるかどうかの瀬戸際に立つことがあります。そこで、仕事に対して前向きになることの源泉となるワーク・アンカーが重要になります。例えば、仕事で得た給料で親孝行したいという思いが、その日の出勤に繋がります。組織社会化を継続して進ませるために、そのワーク・アンカーを認識してもらう声掛けがサテライト・オフィスでは行われています。
3つ目は、ADHDやASDの人の組織社会化はスムーズに進んでいても、突然、元の状態に戻ってしまう可能性があることです[1]。一般に、組織社会化はいくつかの段階を経て安定期に達すると考えられてきました[2]。また組織社会化する中で覚えた知識やスキルは、一度獲得したらなくならない、という前提があったと考えられます[1]。今回の研究で調査したサテライト・オフィスでは、何の予兆もなく安定する前の状態に戻ってしまうことがあることを踏まえて、安定期でも継続してマネジメントと支援の取り組みが行われています。
今回の研究は、2つのサテライト・オフィスで働く支援員へのインタビュー調査に限られたという限界もありますが、ADHDやASDという、これまでの組織社会化の研究が想定していなかった観点から研究することによって、新しい発見を得ることができました[1]。また今回の発見がADHDやASDの人に限らず、あらゆる人にも応用できる可能性を検討する必要があり、今後の研究が期待されます。
本田さんのコメント
今回の研究を論文として掲載いただけたことを大変嬉しく思います。日頃から私の関心を理解しご指導くださる吉永崇史先生、論文の掲載手続きや丁寧な査読をしてくださったThe Japanese Standing Conference on Organizational Symbolismの皆様に深く御礼申し上げます。
またパイロット調査を含めインタビュー調査にご協力くださった皆様に、心より感謝申し上げます。実際に働いている方々やマネジメント、支援している方々の経験を見聞きしなければ、より発展した研究をすることができないことを日々痛感しています。また、 “障害者雇用”や“ダイバーシティ&インクルージョン”という私の研究テーマについて、意義のある大切な取り組みだねと、いつも心から応援してくださるのも、障害のある当事者やマネジメント・支援をしている方々です。
2024年度より、「障害のある従業員がマネジャーや同僚と関わり合って活躍する組織のディスコース分析」という研究課題で、日本学術振興会の特別研究員DC1に採用され、特別研究員奨励費*2(科研費)の支援も受けています。(科学研究費助成事業KAKENデータベース:https://kaken.nii.ac.jp/grant/KAKENHI-PROJECT-24KJ1876/
DC1の採用期間は2026年度までの3年間ですが、その期間に留まらず、障害のある当事者の方々やマネジメント・支援をしている方々にとっても、関連分野におけるこれからの研究にとっても重要な意義のある研究ができるよう取り組んでまいります。
指導教員 吉永 崇史 教授のコメント
指導教員として、本田さんの今回の論文掲載をとてもうれしく思っています。本田さんは、経営学の観点から、障害のある方が社会で活躍していくためにどうすればよいか、という問題意識の下で研究をされています。今回は学部での卒業論文研究を基にした研究が学術誌に掲載されましたが、今後の発展的な研究を通じて、障害のある方のみならず、その方々と関わりを持つ方にとっても意義のある知見を発見して広く公開することで、社会に貢献していただきたいと願っています。
掲載論文
[1] Honda, R. & Yoshinaga, T. (2024). Managing and supporting people with ADHD and ASD in satellite offices in Japan: A qualitative study from an organizational socialization perspective. The Journal of Organization and Discourse, 4, 23–34.
DOI:https://doi.org/10.36605/jscos.4.0_23

参考文献
[2] Wanous, J. P. (1992). Organizational entry: Recruitment, selection, orientation, and socialization of newcomers (2nd ed.). Addison-Wesley.
[3] Bauer, T. N., Erdogan, B., Bodner, T., Truxillo, D. M., & Tucker, J. S. (2007). Newcomer adjustment during organizational socialization: A meta-analytic review of antecedents, outcomes, and methods. Journal of Applied Psychology, 92(3), 707–721. https://doi.org/10.1037/0021-9010.92.3.707
[4] Klein, H. J., & Heuser, A. E. (2008). The learning of socialization content: A framework for researching orientating practices. Research in Personnel and Human Resources Management, 27, 279–336. https://doi.org/10.1016/S0742-7301(08)27007-6

用語解説
*1 特別研究員:日本学術振興会によって、優れた若手研究者に対し、自由な発想のもとに主体的に研究課題等を選びながら研究に専念する機会を与え、研究者の養成・確保を図る制度。
*2 特別研究員奨励費:日本学術振興会が採用した特別研究員を支援する研究費。研究生活の初期段階において、研究者自身が自由に研究課題を選び、研究に専念できる環境を提供することを目的としている。
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