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糖尿病および慢性腎臓病患者に対する糖尿病治療薬2種の予防効果の違いを発見

2021.01.12
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  • 医療
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糖尿病および慢性腎臓病患者に対する糖尿病治療薬2種の予防効果の違いを発見

 

横浜市立大学医学部 循環器・腎臓・高血圧内科学教室の山田貴之医師(Mount Sinai Beth Israel留学中)、涌井広道講師、小豆島健護助教、田村功一主任教授らの研究グループは、Mount Sinai Beth Israel病院内科のDr. Bhallaらとの共同研究により、糖尿病(Diabetes mellitus:DM)および慢性腎臓病(Chronic kidney disease:CKD) 患者において、Sodium-glucose cotransporter-2阻害剤(SGLT-2i)とGlucagon-like-peptide-1受容体アゴニスト(GLP-1 RAs)の2種の糖尿病治療薬が、心血管イベント(心筋梗塞や脳卒中など)や腎イベント(腎機能悪化、透析導入、マクロアルブミン尿など)の予防にどの様な効果を示すのかを比較しました。SGLT-2iはプラセボに比べて心血管および腎イベントを有意に減らした上、腎イベントはGLP-1 RAsに対して有意に少ないことを明らかにしました。

本研究は、『Cardiovascular Diabetology』に掲載されました。(1月7日オンライン)

 

研究成果のポイント

  • SGLT-2iはプラセボに比べて心血管および腎イベントを有意に減らした
  • GLP-1 RAsはプラセボと比較して心血管および腎イベントに有意差はみられなかった
  • SGLT-2iとGLP-1 RAsを比べると、SGLT-2iは有意に腎イベントを減少させた
(図)リスク比のフォレストプロット
 
(左)心血管イベントのリスク比
   プラセボに比べてSGLT-2iのプロットは左側にあり、有意にリスクが低いことが示された
(右)腎イベントのリスク比
   プラセボ、GLP-1 RAsに比べてSGLT-2iのプロットは左側にあり、有意にリスクが低いことが示された
 

研究の背景

糖尿病(DM)は患者の数が多く、公衆衛生の大きな問題となっています。その上、DMは慢性腎臓病(CKD)の最大のリスク因子であり、アメリカではCKD患者の約36%がDMによるものと考えられています。 DMおよびCKDは末期腎不全(ESRD)のリスクになるのみならず、心血管疾患のリスクを大きく増加させます。そのためDM、CKDの患者で心血管イベントの予防およびCKD進行の予防は重要になります。

Sodium-glucose cotransporter-2阻害剤(SGLT-2i)とGlucagon-like-peptide-1受容体アゴニスト(GLP-1 RAs)はともに比較的新しい糖尿病治療薬として知られています。SGLT-2iは腎尿細管でのグルコース吸収阻害することで、GLP-1 RAsはグルコース依存性のインスリン分泌を促すことで血糖値を低下させます。どちらも心血管イベントおよび腎イベントを減らすという報告があり、2020年のアメリカ糖尿病学会はSGLT-2iとGLP-1 RAsを糖尿病かつ動脈硬化性心血管疾患や腎疾患のある患者に推奨しています。しかし、DM、CKDの患者にどちらがより予防効果があるかに関する研究は未だに進んでおりません。


研究の内容

研究グループは、医学研究に関する文献や情報等のデータベースであるPubmed, Embase, Cochrane Libraryで2020年11月までに発表された論文のうち、DM患者に対して治療群(SGLT-2iまたはGLP-1RAs)とプラセボで心血管イベント)または腎イベント(腎機能悪化、透析導入、腎臓関連死、マクロアルブミン尿など)を調査したランダム化比較試験(RCT)を検索し、解析に用いることのできる13の論文を得ました。各論文に記されているイベント数からリスク比(RR)と95%信頼区間(95% CI)を計算し、ネットワークメタ解析を行いました。GLP-1 RAsの中でのサブクラス(GLP-1アナログおよびExendin-4アナログ)、GLP-1 RAsの投与頻度(1日1回または週に1回)で感度分析を行いました。

SGLT-2iはプラセボに比べて心血管イベントおよび腎イベントを有意に減らしました(RR [95 %CI]; 0.85 [0.75-0.96]、0.68 [0.59-0.78])。その一方で、GLP-1 RAsは心血管イベント、腎イベントともに有意差を認めませんでした(RR 0.91 [0.80-1.04]、0.86 [0.72-1.03])。SGLT-2iとGLP-1 RAsを比較した場合、心血管イベントでは有意差はありませんでしたが(RR 0.94 [0.78-1.12])、腎イベントはSGLT-2iの方が有意に低いことが明らかになりました(RR 0.79 [0.63-0.99])。感度分析ではGLP-1アナログが心血管イベントを減らし(RR 0.81 [0.69-0.95])、腎イベントも減らす傾向が見られた一方(RR 0.82 [0.66-1.01])、Exendin-4アナログはプラセボと比較して心血管イベントで有意差を認めませんでした(RR 1.03 [0.88-1.20])。

今後の展開

本研究はDM, CKD患者において初めて心血管イベント、腎イベントをSGLT-2i、GLP-1 RAsで比較した研究であり、DMの日常診療において、薬剤選択に影響を与えうる研究と言えます。その上、GLP-1 RAsのサブクラスで予防効果に差異が生じることを示唆した初めての研究であり、GLP-1 RAsのサブクラスに関するさらなる研究を提案する結果となりました。本研究はネットワークメタ解析による間接的な比較であり、SGLT-2iとGLP-1 RAsを直接比較した試験はこれまでありません。今後、直接比較試験を行う事で、DM、CKD患者の治療薬に関するさらなる知見を与えることが期待されます。

論文情報

雑誌名:Cardiovascular Diabetology
論文名:Cardiovascular and Renal Outcomes with SGLT-2 Inhibitors versus GLP-1 Receptor Agonists in Patients with Type 2 Diabetes Mellitus and Chronic Kidney Disease: A Systematic Review and Network Meta-analysis
掲載論文サイトはこちら DOI:https://doi.org/10.1186/s12933-020-01197-z

執筆者名(所属機関名):Takayuki Yamada, MD; †1,2 Mako Wakabayashi, MD; †3 Abhinav Bhalla, MD; 1 Nitin, Chopra, MD; 1 Hirotaka Miyashita, MD;1 Takahisa Mikami, MD; 4 Hiroki Ueyama, MD; 1 Tomohiro Fujisaki, MD; 5 Yusuke Saigusa, Ph.D; 6 Takahiro Yamaji, MD; 2 Kengo Azushima, MD, PhD;2 Shingo Urate, MD;2 Toru Suzuki, MD;2 Eriko Abe, MD;2 Hiromichi Wakui, MD, PhD;2 Kouichi Tamura, MD, PhD; 2
執筆者所属先:
1: Department of Medicine, Mount Sinai Beth Israel, Icahn School of Medicine at Mount Sinai, New York, NY, USA
2: Department of Medical Science and Cardiorenal Medicine, Yokohama City University Graduate School of Medicine, Yokohama, Japan
3: Department of Medicine, Nippon Medical School Hospital, Tokyo, Japan
4: Department of Neurology, Tufts Medical Center, Boston, MA, USA
5: Department of Medicine, Mount Sinai Morningside and West, Icahn School of Medicine at Mount Sinai, New York, NY, USA
6: Department of Biostatistics, Yokohama City University School of Medicine, Yokohama, Japan


本研究は公益財団法人 ソルト・サイエンス研究財団、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)などによる研究助成、日本学術振興会の研究補助金を受けて行われました。


問い合わせ先

医学部 循環器・腎臓・高血圧内科学
涌井 広道 
田村 功一 




 

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