ニッポンウミシダのレクチンとヒト免疫分子の骨格に共通性
2019.03.01
- プレスリリース
- 研究
ニッポンウミシダのレクチンとヒト免疫分子の骨格に共通性
横浜市立大学大学院 生命ナノシステム科学研究科 イムティアジ・ハサン大学院生、大関泰裕教授、イタリア共和国トリエステ大学 生命科学部 マルコ・ジェルドル研究員、長崎国際大学大学院 薬学研究科 藤井佑樹講師は、東京大学大学院 理学系研究科附属臨海実験所(通称 三崎臨海実験所 岡 良隆 所長)が飼育する、原始的なグループの棘皮動物であるニッポンウミシダから発見したレクチン(糖鎖結合性タンパク質)が、ヒトの免疫分子である補体C1qと類似のアミノ酸配列を有していることを明らかにしました。レクチンは、血清糖タンパク質の品質管理や細胞の増殖制御など多様な働きを持ち、多くの構造が存在します。しかし、それらの由来については明らかではありません。本研究は、レクチンの構造のひとつが補体C1qと共通の祖先である骨格に由来していることを明らかにしました。
研究成果のポイント
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研究の背景
ニッポンウミシダ(Anneissia japonica)は、生きた化石とよばれるウミユリ綱の一種で、ウニやナマコと同じ棘皮動物に属します(図1)。人類と祖先を共通にする最も古い動物であり、中枢神経系の起源、再生のしくみや進化の研究に役立てられています。三崎臨海実験所では文部科学省ナショナルバイオリソースプロジェクトの助成を受けて、その発生と長期飼育に成功しました(2006年)。現在では米国ブラウン大学の研究グループによりゲノム配列も解明されています。糖鎖とレクチンの視点から進化や再生を理解する目的で、ニッポンウミシダからレクチンの単離が試みられ、OXYL(オキシル)が発見されました(2011年)。オキシルはヒトの分化した細胞の表面に現れる2型N-アセチルラクトサミン糖鎖に結合します。この特異性は既知のレクチンにも見られており、オキシルがどの構造ファミリーに属し、微生物や培養細胞に対してどのようなはたらきを持つか比較することが次の課題でした。
研究概要と成果
オキシルのアミノ酸配列をエドマン分解反応とゲノムデータベースから推定したところ、これがヒトの補体C1qと類似した配列をもつことがわかりました。このことから、このレクチンの構造の由来について、仮説が考えられました。すなわち、C1q様骨格は基礎的な構造として進化の早い段階ででき、これを鋳(い)型としてさまざまなタンパク質ができたと考えられます。ニッポンウミシダでは、それがレクチンへと進化し、オキシルができたのではないか、ということです。C1q様の構造は、補体に加えて腫瘍壊死因子、コラーゲン、ホルモン、冬眠特異的タンパク、シナプス形成制御因子など、さまざまなタンパク質の骨格を作っています。この結果は2型N-アセチルラクトサミン結合性レクチンの構造の由来としてC1q様骨格が考えられることを明らかにした最初の報告です(図2)。
オキシルはその糖鎖結合性により細菌を凝集し、がん細胞へ接着しました(図3)。細胞凝集を起こすレクチンは一般的にポリペプチド鎖が会合しており、次にその会合状態を超遠心分離を用いて明らかにしました。オキシルの分子量を沈降定数から測定すると、ポリペプチド鎖の会合した4量体として存在することが考えられました(図4)。さらにその一部は2量体、8量体、12量体としても存在して多様な
会合状態をとりながら、細胞凝集などに働いていることが推察されました。
オキシルはその糖鎖結合性により細菌を凝集し、がん細胞へ接着しました(図3)。細胞凝集を起こすレクチンは一般的にポリペプチド鎖が会合しており、次にその会合状態を超遠心分離を用いて明らかにしました。オキシルの分子量を沈降定数から測定すると、ポリペプチド鎖の会合した4量体として存在することが考えられました(図4)。さらにその一部は2量体、8量体、12量体としても存在して多様な
会合状態をとりながら、細胞凝集などに働いていることが推察されました。
今後の展開
我々は今後、オキシル様レクチンの構造情報をさらに解析し、どのようにしてこのレクチンがC1q様骨格から進化したかを明らかにしていきます。そして海の環境中でいかなる刺激を受けると細胞内でオキシルが合成されるかを調べ、いまだ明らかでないウミユリ綱の免疫のしくみの理解や、進化と免疫との関係を解明していきたいと考えています。
参考リンク
研究情報
本研究は、横浜市立大学基礎研究費、横浜市リーディング事業助成金(トライアル助成)を受けて行なわれました。
論文情報
Functional characterization of OXYL, a sghC1qDC LacNAc-specific lectin from the crinoid feather star Anneissia japonica.
Imtiaj Hasan, Marco Gerdol, Yuki Fujii, Yasuhiro Ozeki.
Marine Drugs 17, 136 (2019)
https://www.mdpi.com/1660-3397/17/2/136
Imtiaj Hasan, Marco Gerdol, Yuki Fujii, Yasuhiro Ozeki.
Marine Drugs 17, 136 (2019)
https://www.mdpi.com/1660-3397/17/2/136
問い合わせ先
(研究内容に関するお問合せ)
公立大学法人横浜市立大学
大学院生命ナノシステム科学研究科 教授 大関 泰裕 (糖鎖生物学)
TEL:045-787-2221
E-mail: ozeki@yokohama-cu.ac.jp
(取材対応窓口、資料請求など)
公立大学法人横浜市立大学
研究企画・産学連携推進課長 渡邊 誠
TEL:045-787-2510 Fax : 045-787-2509
E-mail: kenkyupr@yokohama-cu.ac.jp
公立大学法人横浜市立大学
大学院生命ナノシステム科学研究科 教授 大関 泰裕 (糖鎖生物学)
TEL:045-787-2221
E-mail: ozeki@yokohama-cu.ac.jp
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研究企画・産学連携推進課長 渡邊 誠
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