生命医科学研究科 西村特任教授らの研究グループが髄芽腫の治療薬候補となる化合物を特定
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髄芽腫の治療薬候補となる化合物を特定
~科学雑誌『Scientific Reports』 に掲載~
発見に当たっては、in-silicoスクリーニングを用い、髄芽種の発症に関与しているタンパク質に結合する化合物をデータベースからスクリーニングし、NMRという特殊な分光器を用いてそのシグナルの変化から化合物による標的タンパク質との結合を観測しました。また候補化合物の髄芽種増殖阻害活性を三次元細胞培養により明らかにし、NMRのシグナルの変化のパターンとの活性相関を多変量解析により評価することで、活性化合物の特徴を明らかにしました。
研究成果のポイント
〇既存の神経疾患治療薬に髄芽腫細胞の増殖阻害活性が見られた。 〇当該化合物とターゲットタンパク質の相互作用の特徴を明らかにした。 ○ドラッグリポジショニング、または新規リード化合物の可能性が期待される。 |
研究の背景

図1.REST(別称NRSF)は約1000種類の神経遺伝子(Naイオンチャネル、ミューオピオイド受容体、コリンアセチルトランスフェラーゼ、アセチルコリン受容体等)を特異的に抑制するタンパク質で共役因子のmSin3と結合して神経遺伝子のクロマチン構造を変化させて遺伝子の発現を抑制する。私達はRESTとmSin3Bの相互作用領域の構造を以前NMRで解析し報告した。
研究の概要と成果
興味深いことに、抗うつ薬のセルトラリン、統合失調症治療薬のクロルプロチキセンや精神安定剤のクロルプロマジンの3種類がmSin3のPAH1ドメインに強く結合することが判明しました。さらにこれらの化合物の結合によって変化するNMRシグナル(化学シフト)の変化量を多変量解析し、髄芽腫の細胞増殖阻害との関連を見出しました。これらの活合物の化学構造は、これまで報告されていたREST-mSin3相互作用の阻害剤とは全く異なるものでした。



図4. mSin3薬剤複合体モデル構造
a)PAH1-不活性化合物複合体(緑色)、PAH1-精神安定剤のクロルプロマジン複合体(オレンジ色、活性型)およびPAH1-抗うつ薬セルトラリン複合体(青色、活性型)の結合構造の重ね合わせ。計算にはPAH1の初期構造としてPDB ID: 2CZYを使用した。
b)PAH1-クロルプロマジン(右;PAH1骨格をオレンジ、PAH1のアミノ酸側鎖を赤、クロルプロマジンを黄色で表示)およびPAH1-セルトラリン(左;PAH1骨格を青、PAH1のアミノ酸側鎖を赤、セルトラリンを黄色で表示)の構造比較。
c)PAH1-クロルプロマジンおよびPAH1-セルトラリン複合体における薬剤とアミノ酸側鎖の相互作用の化学模式図。
今後の展開
※本研究の一部は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業(BINDS)」、文部科学省「先端研究基盤共用促進事業(共用プラットフォーム形成支援プログラム)NMRプラットフォーム」の成果です。
参考文献
用語説明
論文著者、ならびにタイトルなど
Sertraline, chlorprothixene, and chlorpromazine characteristically interact with the REST-binding site of the corepressor mSin3, showing medulloblastoma cell growth inhibitory activities
Jun-ichi Kuritaa, Yuuka Hiraoa, Hirofumi Nakanob, Yoshifumi Fukunishic, and Yoshifumi Nishimuraa
http://dx.doi.org/10.1038/s41598-018-31852-1
a 横浜市立大学 大学院生命医科学研究科
b 東京工業大学 科学技術創成研究院
c 産業技術総合研究所 創薬分子プロファイリング研究センター
大学院生命医科学研究科 特任教授 西村善文
TEL:045-508-7211/7212
E-mail:nisimura@yokohama-cu.ac.jp
(取材対応窓口、資料請求など)
研究企画・産学連携推進課長 渡邊 誠
TEL:045-787-2510
E-Mail:kenkyupr@yokohama-cu.ac.jp