YCU 横浜市立大学

植物の遺伝子発現スイッチの初発イベントを解明

2018.05.08
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植物の遺伝子発現スイッチの初発イベントを解明

~『Proceedings of the National Academy of Sciences』に掲載~

横浜市立大学木原生物学研究所 木下 哲教授らの研究グループは、カリフォルニア大学(米国)、ソウル国立大学(韓国)、ジョンイネスセンター(英国)との共同研究により、遺伝子発現をオンにするための分子機構の一つであるDNA脱メチル化に、FACTヒストンシャペロン(*1) によるクロマチンリモデリングと呼ばれる過程が必要であることを明らかにしました。

多くの生物では、DNAメチル化は遺伝子発現をオフにするエピジェネティック(*2) な印として働いています。こうした遺伝子の発現のスイッチを入れるには、DNAメチル化を外す必要があります。モデル植物のシロイヌナズナでは、この過程において、DNA脱メチル化酵素とFACTヒストンシャペロンが必要であることが明らかとなっていましたが(Ikeda Y. et al., 2011 Dev. Cell)、その作用機序は不明でした。今回、エピゲノミクス解析(*3) により両者の作用機序を明らかにしました。



研究成果のポイント

〇DNA脱メチル化の過程にFACTヒストンシャペロンによるクロマチンリモデリングのステップが必要であることをエピゲノミクス解析により明らかにした。
〇クロマチンがほどけたユークロマチン領域ではFACT非依存的にDNA脱メチル化が起こるが、クロマチンが凝集したヘテロクロマチン領域でのDNA脱メチル化にはFACTが必要であることを明らかにした。(図1)。

 
     【図1】 DNA脱メチル化におけるFACTヒストンシャペロンの役割
A) クロマチンがほどけているユークロマチン領域では、DNA脱メチル化酵素はFACTヒストンシャペロンを必要としない。

B) クロマチンが凝集した領域にはFACTヒストンシャペロンがDNA脱メチル化に必要。

黒線はDNAを表し、黄色の丸はヒストンを表す。Meはシトシン塩基のDNAメチル化を模式的に表したもの。緑の太線は遺伝子を表す。

研究の背景

多くの生物では、遺伝子の塩基配列以外にもエピジェネティクスと呼ばれる遺伝情報が存在することが明らかになっています。DNAメチル化もその一つであり、多くの場合、遺伝子発現を抑制しています。DNAメチル化情報が正しく制御されないと、ヒトでは「がん」など様々な不具合を引き起こし、植物では種子発生を始めとした様々な発生異常を引き起こします。

父親由来または,母親由来の対立遺伝子(アリル)のみを発現する遺伝子をインプリント遺伝子と呼びますが、その一つFWAは、メス側の生殖細胞を経由した場合にDNAのメチル化が除去されて遺伝子発現が活性化されることが知られていました。同教授の研究室における先行研究では、この遺伝子発現にはDNA脱メチル化酵素とFACTヒストンシャペロンの両方が必要であることを明らかにしました。では、これらがどのように作用しているのか——これが今回の研究の対象です。

 

研究の内容

今回の報告では、シロイヌナズナの野生型、FACT ヒストンシャペロンの変異体、DNA脱メチル化酵素の変異体から単離した微量の胚乳組織を用いたエピゲノミクス解析を行っています。DNA脱メチル化酵素とFACTヒストンシャペロンのそれぞれの変異体から胚乳組織を単離して全ゲノムバイサルファイトシーケンシング解析を行った結果、FACTヒストンシャペロンが標的とするDNA脱メチル化領域はほぼ全てが、DNA脱メチル化酵素が標的とするDNA脱メチル化領域に含まれることが明らかになりました(図3)。すなわち、DNA脱メチル化酵素の標的は、FACTヒストンシャペロンが必要な領域と、必要でない領域とに分かれることが明らかになりました。

さらに、このFACTが必要な領域と、必要でない領域に関してバイオインフォマティクス解析により比較すると、FACTヒストンシャペロンが必要な領域はへテロクロマチンとしての、必要でない領域はユークロマチンとしての特徴を有することが明らかになりました。以上のことは、DNA脱メチル化酵素がヘテロクロマチン領域にアクセスするためには、FACTヒストンシャペロンによるクロマチンリモデリングが必要であることを示唆する結果となっています。

今後の展開

今回、シロイヌナズナのDNA脱メチル化の過程におけるDNA脱メチル化酵素の役割、FACTヒストンシャペロンの役割が明らかになりました。一般に、DNAの脱メチル化は様々な生物に普遍的に見られる現象です。今後は類似の作用機序が他の生物にも広く保存されているかどうか検証することにより、生物界に普遍的な分子機構であるかどうかの議論が広がるものと期待されます。

用語説明

*1 FACTヒストンシャペロン: ヒストンサブユニットの解離と再会合を誘導する働きをするタンパク質複合体の一つ。facilitates chromatin transactionsの略。

*2 エピジェネティクス: 細胞分裂や世代を超えて伝わる塩基配列以外の遺伝情報。DNAメチル化やヒストン修飾などがある。

*3 エピゲノミクス解析: DNAメチル化、ヒストン修飾などのエピジェネティクス情報を網羅的に解析する手法


掲載論文

FACT complex is required for DNA demethylation at heterochromatin during reproduction in Arabidopsis
Jennifer M. Frost, M. Yvonne Kim, Guen Tae Park, Ping-Hung Hsieh, Miyuki Nakamura, Samuel J. H. Lin, Hyunjin Yoo, Jaemyung Choi, Yoko Ikeda, Tetsu Kinoshita, Yeonhee Choi, Daniel Zilberman and Robert L. Fischer
PNAS April 30, 2018. 201713333; https://doi.org/10.1073/pnas.1713333115

※本研究は、米国科学雑誌『Proceedings of the National Academy of Sciences』に掲載されました。(米国4月30日付オンライン)

※本研究は、 文部科学省科研費 新学術領域研究「植物新種誕生の原理」の支援を受けて遂行しました 。


(研究内容に関するお問い合わせ)
国際総合科学群 大学院生命ナノシステム科学研究科
生命環境システム科学専攻 教授 
木原生物学研究所長 木下 哲
TEL:045-820-2428
E-mail:tkinoshi@yokohama-cu.ac.jp

(取材対応窓口、資料請求など)
研究企画・産学連携推進課長 渡邊 誠
TEL:045-787-2510
E-Mail:kenki@yokohama-cu.ac.jp
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