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人工タンパク質ナノブロックにより多様な自己組織化ナノ構造の創出に成功

2015.09.15
  • プレスリリース
  • 研究

人工タンパク質ナノブロックにより多様な自己組織化ナノ構造の創出に成功

ナノテクノロジー・合成生物学研究等に貢献するナノブロック「分子技術」を開発

平成27年9月14日
国立大学法人 信州大学
公立大学法人 横浜市立大学

信州大学大学院総合工学系研究科博士課程3年(日本学術振興会特別研究員)小林直也氏、信州大学学術研究院繊維学系 新井亮一助教、及び横浜市立大学大学院生命医科学研究科 雲財悟助教らの共同研究グループは、新しいコンセプトで独自の人工タンパク質を用いた「タンパク質ナノブロック(PN-Block)」を開発し、樽型や正四面体型等の複数種類の超分子ナノ構造複合体を自己組織化によって創り出すことに世界で初めて成功しました。本成果は、今後、ナノテクノロジーや合成生物学研究等への貢献が大いに期待できます。

<本研究成果のポイント>
  • 独自の人工タンパク質を利用したタンパク質ナノブロック(PN-Block)を世界で初めて開発
  • 1種類のPN-Block から樽型や正四面体型等の複数種類の自己組織化ナノ構造複合体を創出
  • PN-Block戦略は日本発の独自の先進的「分子技術」としてナノテクノロジー等への応用が期待
  • 今後、さらなるPN-Blockを開発し、自在に組み合わせていくことにより、天然タンパク質では実現できないような構造や機能をもつ人工タンパク質の創製が期待
本研究成果は、米国化学会誌Journal of the American Chemical Society(JACS)の9月9日発行号に掲載されるとともに、特に注目の論文としてJACS Spotlightsに選ばれ、さらに本研究のコンセプトを表現したアートデザインが表紙を飾りました。

概要

タンパク質は、生体内において自己組織的にさまざまな複合体を形成し、複雑な生命現象を担っています。これらのタンパク質複合体を自在にデザインし、望みの機能を実現することができるようになれば、将来的に、医薬品開発や環境負荷の少ない化学反応(グリーンケミストリー)、さらにはナノバイオテクノロジー(※1)等へ応用が期待され、人類の豊かな生活のために大きく貢献できると考えられます。
そこで、そのための出発点として、今回、独自のコンセプト戦略に基づく人工タンパク質を開発して、目に見えないナノメートル(1ミリメートルの100万分の1)スケールの極めて微小な世界で、おもちゃのブロック遊びのように、多様な人工タンパク質複合体を創り出すことに挑戦しました。
我々は、独自の二量体人工タンパク質と三量体ファージタンパク質を融合して、新たに「タンパク質ナノブロック(Protein Nanobuilding Block: PN-Block)(※2)」を開発し、樽型(ラグビーボール型)や正四面体型(テトラポッド型)等の超分子ナノ構造複合体(※3)を自己組織化(※4)により同時に創り出すことに世界で初めて成功しました(図1)。
本研究成果によるPN-Block戦略は、今後、日本発の独自の先進的「分子技術」(※5)として、ナノテクノロジー(※1)や合成生物学(※6)研究等の革新的発展につながることが期待されます。
本研究は、信州大学大学院総合工学系研究科博士課程3年(日本学術振興会特別研究員(DC2))小林直也氏と信州大学学術研究院繊維学系 新井亮一助教(先鋭領域融合研究群バイオメディカル研究所兼務)を中心とし、信州大学学術研究院繊維学系 佐藤高彰准教授(同群環境・エネルギー材料科学研究所兼務)及び信州大学大学院総合工学系研究科博士課程1年 柳瀬慶一氏、横浜市立大学大学院生命医科学研究科 雲財悟助教、米国プリンストン大学化学科 Michael H. Hecht教授らとの共同研究の成果です。
本研究成果は、米国化学会誌Journal of the American Chemical Societyの9月9日発行の第137巻35号に掲載されるとともに、特に注目すべき論文としてJACS Spotlightsに取り上げられ、さらに本研究のPN-Block戦略のコンセプトを表現した小林直也氏のアートデザインが当該号の表紙を飾りました。
図1 人工タンパク質ナノブロック(PN-Block)による自己組織化ナノ構造複合体の創出

発表論文情報

Naoya Kobayashi, Keiichi Yanase, Takaaki Sato, Satoru Unzai, Michael H. Hecht, and Ryoichi Arai
“Self-Assembling Nano-Architectures Created from a Protein Nano-Building Block Using an Intermolecularly Folded Dimeric de Novo Protein”
Journal of the American Chemical Society, Volume 137, Issue 35,
pp 11285–11293, 2015. DOI: 10.1021/jacs.5b03593

詳細解説

1.背景・目的

生命活動は、タンパク質や核酸、糖、脂質といったさまざまな自己組織化能力をもつ生体分子の複合体によって営まれています。なかでもタンパク質は、複雑で洗練されたナノスケールの複合体構造を形成することで高度な機能を発揮する非常に重要な生体高分子であり、我々が日々生きていくために必要不可欠な働きを担っています。これらのタンパク質複合体を自在にデザインし、望みの機能を実現することができるようになれば、医薬品開発や環境負荷の少ない化学反応(グリーンケミストリー)、さらにはナノテクノロジーの発展等に大きく貢献できると考えられます。
これまでに、我々は、2012年に新規人工設計タンパク質WA20(※7)の立体構造を解明しました(Arai, R., et al., J. Phys. Chem. B, 116, 6789–6797, 2012)[参考情報:WA20立体構造解明プレスリリース(http://www.shinshu-u.ac.jp/faculty/textiles/news/2012/03/46854.html)] 。人工タンパク質WA20は、長いαヘリックス(※8)2本をループでつないだ“ヌンチャク型”構造の単量体が2つ、お互いに挟みこむように組み合わさることで、特徴的な分子間フォールディング(ドメインスワップ)型4本ヘリックスバンドル2量体構造(※9)を形成していました(図2左上)。この2量体構造は、特異的かつ安定的に形成されます。
本研究では、このWA20の特徴的構造とタンパク質の自己組織化能力を超分子ナノ構造構築に応用するため、「タンパク質ナノブロック(Protein Nanobuilding Block: PN-Block)」を開発しました。
例えば、おもちゃのブロックは、少数種類の規格化された単純な基本ブロックから、組み合わせ次第で多種多様な機能的構造物を創り出すことができ、無限の可能性を秘めています。そこで、同様なコンセプトで、本研究では、単純かつ基本的なタンパク質ナノブロック(PN-Block)を開発し、それを組み合わせることで多様なナノ構造体を創り出すことを目的としました。

2.研究手法と成果

我々は、タンパク質ナノブロック(PN-Block)を開発するために、二量体形成人工タンパク質WA20とT4ファージfibritin由来の三量体形成タンパク質ドメインfoldon(※10)を遺伝子工学的に融合することで、人工タンパク質WA20-foldonを設計構築しました。2量体を形成するWA20と3量体を形成するfoldonドメインの融合タンパク質では、結合する相手どうしが過不足なく組み合わさるためには、幾何学的対称性の制約により、2と3の公倍数である6の倍数量体(6量体、12量体、18量体、24量体,・・・)の形成が予測されます(図2)。
図2 タンパク質ナノブロック(PN-Block)の設計開発戦略と自己組織化ナノ構造体モデル
まず、人工タンパク質WA20遺伝子とT4ファージfoldonドメイン遺伝子を遺伝子工学的に結合して、人工タンパク質WA20-foldonの遺伝子を構築しました。次に、この人工タンパク質遺伝子を大腸菌に導入して、WA20-foldonタンパク質を発現させたところ、可溶性画分に発現し、PN-Block戦略に基づいて、自己組織化により、複数の多量体構造を同時に形成することが明らかとなりました。形成された複数の多量体を小さいものから順にSmall(S)form、Middle(M)form、Large(L)form、Huge(H)formと名付け、それぞれをさらに分画精製し、サイズ排除クロマトグラフィー(※11)と多角度光散乱法(※12)、及び、超遠心分析(※13)等により分子量を測定しました。その結果、多量体構造のS form、M form、L formは、予測した通りにそれぞれ6量体、12量体、18量体であることが判明しました。
さらに、小角X線散乱法(※14)による溶液構造解析とモデリングの結果、S form(6量体)とM form(12量体)は、幾何学的対称性により予測される超分子ナノ構造である樽型(ラグビーボール型)構造と四面体型(テトラポッド型)構造をそれぞれ形成していることがわかりました(図3)。
図3 S form(6量体)樽型構造モデルとM form(12量体)四面体型構造モデル

3.今後の期待

本研究で新たに開発及び実証した「タンパク質ナノブロック(PN-Block)」戦略は、日本発の独自の先進的かつ基盤的「分子技術」の一つとなり、今後、新規な構造や機能を有した自己組織化超分子ナノ構造複合体を創出する方法として、タンパク質工学をはじめ、ナノテクノロジーや合成生物学等の広範な研究分野や、バイオナノプロセス(※15)開発研究等の産業応用分野に革新的発展をもたらすことが期待されます。今後、例えば、より安定性を向上させたPN-Blockや環境変化によって自己組織化が起こるPN-Blockなど、さまざまな有用PN-Blockの設計開発を目指していきます。さらに、これらを自在に組み合わせていくことにより、天然タンパク質では実現できないような多様な構造や機能を持つ人工タンパク質ナノ構造複合体のデザインや創製につながると考えられます。将来的には、例えば、PN-Block自己組織化技術を活かして、次世代半導体のための有機無機ハイブリッドナノ材料開発や、次世代医薬品のためのドラッグデリバリーシステムや人工ワクチン開発等への応用も期待されます。

謝辞

本研究におけるサイズ排除クロマトグラフィー多角度光散乱(SEC-MALS)実験は、分子科学研究所 古賀信康准教授、古賀理恵博士の多大な御協力により行われました。また、信州大学 林田信明教授には御指導や御助言を頂きました。心より感謝申し上げます。
本研究は、日本学術振興会特別研究員(DC2)や科学研究費補助金 特別研究員奨励費(No.14J10185)、新学術領域「天然変性蛋白質」(領域代表者:横浜市立大学 佐藤衛教授)公募研究(No.22113508、24113707)、若手研究(B)(No.24780097)、及び分子科学研究所協力研究等の支援・助成を受けて行われました。また、本研究に関連した小角X線散乱の予備実験は高エネルギー加速器研究機構放射光科学研究施設共同利用実験(No.2014G111、Photon Factory BL-10C)にて行われました。一部の実験は、信州大学ヒト環境科学研究支援センター機器分析部門、遺伝子実験部門、SVBL等の施設を用いて行われました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。さらに、信州大学 新井亮一助教は、本研究成果を含む業績により、酵素工学研究会より平成26年度酵素工学奨励賞を受賞致しました。重ねて御礼申し上げます。

問い合わせ先

責任著者

国立大学法人信州大学学術研究院繊維学系 助教
新井 亮一 
〒386‐8567 長野県上田市常田3‐15‐1
信州大学繊維学部 応用生物学系 生物資源・環境科学課程
TEL&FAX:0268‐21‐5881
E-mail:
研究室HP:http://fiber.shinshu-u.ac.jp/arai/index.html 

取材対応窓口、資料請求など

国立大学法人信州大学
総務部総務課広報室 室長 伊藤 尚人
〒390-8621長野県松本市旭3-1-1
Tel: 0263-37-3056 Fax: 0263-37-2182
E-mail:

公立大学法人横浜市立大学
研究推進課 課長 竹内 紀充  
Tel: 045-787-2019

用語説明

※1 ナノテクノロジー、ナノバイオテクノロジー
ナノテクノロジーとは、ナノメートル(1 nmは1 mmの100万分の1)の領域、すなわち原子や分子のスケールにおいて、物質を自在に制御する技術のことである。そのようなナノスケールでの新素材開発や、ナノスケールのデバイスを開発するための技術等がすべて含まれる。また、タンパク質や核酸等も、ナノスケールの機能性生体分子である。ナノバイオテクノロジーとは、ナノテクノロジーとバイオテクノロジーが融合した技術領域である。幅約2nmのDNA・RNA分子や、大きさがおよそ数nm~数十nm程度のタンパク質分子などの生体分子(バイオ分子)は、生命現象を担うナノマシン・ナノマテリアルと考えられる。ナノバイオ分子は精巧な認識能力、均質性、自己組織化などの特徴を示し、このようなナノマシン・ナノマテリアルは、現在の工学技術では製造不可能であり、ナノバイオテクノロジーは新しい技術分野となりうる。病気の診断や治療などの医療分野、環境汚染モニタリングなどの環境分野、化学・電子材料分野などで盛んに研究が進められている。

※2 タンパク質ナノブロック(Protein Nanobuilding Block:PN-Block)
タンパク質ナノブロックとは、本研究で開発した人工タンパク質(protein)によるナノ(nano)スケールのブロック(building block)のことで、英語(Protein Nanobuilding Block)の頭文字を取って、PN-Blockの略称で呼ぶ。PN-Block戦略とは、おもちゃのブロック遊びのように、少ない種類のシンプルで基本的なブロック(PN-Block)を開発して自己組織的に組み合わせることにより、多種多様な自己組織化ナノ構造を創り上げる革新的なナノテクノロジー「分子技術」戦略である。タンパク質ナノブロック(PN-Block)では、WA20のような安定でシンプルな円筒状概形の分子間フォールディング(ドメインスワップ)型二量体構造を構成要素としていることにより、ナノ構造のデザインや構築が比較的容易であること、さらに、バイナリーパターン法を用いて、さらなる再設計・改良が比較的容易であることなどが特徴として挙げられる。

※3 超分子ナノ構造複合体
超分子とは、複数の分子が共有結合以外の結合(配位結合、水素結合など)や比較的弱い相互作用により秩序だって集合した化合物・単体のことである。クラウンエーテル、シクロデキストリンなど、分子間相互作用によって分子やイオンを内包する「ホストゲスト」化合物や、近年では、複数ユニットから構成されるタンパク質複合体や自己組織化膜、液晶なども超分子に含まれる。
超分子ナノ構造複合体とは、上記のような超分子により作製したナノスケールの構造をもつ複合体である。たとえば、タンパク質サブユニットを組み合わせて(会合させて)作製したナノスケールのタンパク質複合体も超分子の一種であり、超分子ナノ構造複合体の代表例の一つと考えられる。

※4 自己組織化
自己組織化とは、自律的・自発的に秩序を持つ構造を作り出す現象のことである。タンパク質複合体における自律的・自発的な構造形成も自己組織化の一種である。

※5 「分子技術」
「分子技術」とは、物理学、化学、生物学、数学等の科学的知見を基に、分子を設計、合成、操作、制御、集積することによって、分子の特性を活かして目的とする機能を創出し、応用に供するための一連の技術である。文部科学省において、平成24年度の戦略的創造研究推進事業の戦略目標として「環境・エネルギー材料や電子材料、健康・医療用材料に革新をもたらす分子の自在設計『分子技術』の構築」が定められた。蓄電デバイス、有機薄膜太陽電池等の分子を用いた超低消費電力・超軽量デバイスの実現や、ドラッグデリバリーシステム、機能性医療材料などの革新的な治療方法の確立等の基盤技術となる以下の「分子技術」体系を構築することを目指している。
○「設計・創成の分子技術(精密合成技術と理論・計算科学との協働により、新規機能性物質を自在に設計・創成する技術)」に係る技術体系の構築
○「形状・構造制御の分子技術(分子の形や構造を厳密に制御することにより、新たな機能の創出に繋げる技術)」に係る技術体系の構築
(参考HP(文部科学省):http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/24/02/attach/1316324.htm)

※6 合成生物学
合成生物学とは、新しい遺伝子やタンパク質等の生体分子、細胞・代謝系等の生体機能システムなどを人工的に創ることに挑戦することで生命機能の理解を深めるアプローチを主流とする比較的新しい研究分野である。生物学のみならず化学や工学分野からの複合的な領域横断的なアプローチで、近年、先端的研究が展開されている。多くの生命機能を担う機能性生体分子であるタンパク質を人工的にデザイン・創製する研究を含むタンパク質工学分野も合成生物学研究の一端を担っている。

※7 新規人工設計タンパク質WA20
新規人工設計タンパク質とは、天然タンパク質のアミノ酸配列をもとにしないで、新規に配列を設計した人工タンパク質。英語では“de novo protein”であり、デノボタンパク質とも呼ぶ。
プリンストン大学のMichael H. Hecht教授の研究室では、半合理的(semi-rational)方法であるバイナリーパターン法により配列パターンをデザインしたアミノ酸配列ライブラリーを用いて、新規人工設計タンパク質を創製する研究が早くから盛んに行われてきた。バイナリーパターン法とは、水溶性球状タンパク質の表面には親水性アミノ酸が多く配置され、内部には疎水性アミノ酸が多く配置される性質に着目して、目的タンパク質の二次構造及び三次構造に応じて、親水性アミノ酸と疎水性アミノ酸の2種類の繰り返し配列パターンを半合理的にデザインする方法である。これまでに、バイナリーパターン法を用いてαへリックスの周期に従って2~3残基毎に親水性アミノ酸と疎水性アミノ酸のパターンをデザインした両親媒性αヘリックス構造をデザインし、4本の両親媒性αヘリックスを順にループでつないで束とした4本ヘリックスバンドル構造の新規人工設計タンパク質について、これまでに重点的に研究されてきた。特に、機能を持つ人工設計タンパク質の創製を目指して、バイナリーパターンを保持し、αヘリックスの中程の部分とループ部分のアミノ酸残基をライブラリー化した第3世代の4本ヘリックスバンドル新規人工設計タンパク質ライブラリーが作製された。この人工タンパク質ライブラリーから獲得した高発現タンパク質クローンの中より、構造が特に安定であり、変性剤によって二状態転移を示し、原始的な酵素活性も有する新規人工設計タンパク質がWA20である(Arai, R., et al., J. Phys. Chem. B, 116, 6789‐6797, 2012)。(参考HP:WA20立体構造解明プレスリリース http://www.shinshu-u.ac.jp/faculty/textiles/news/2012/03/46854.html )

※8 αヘリックス
αヘリックス構造は、タンパク質の立体構造を構成する基本的な共通骨格構造である2次構造の1つで、バネに似た右巻きらせん形状をしている。骨格となるアミノ酸のアミノ基は4残基離れたカルボニル基と水素結合を形成し、構造を安定化している。

※9 分子間フォールディング(ドメインスワップ)型4本ヘリックスバンドル2量体構造
分子間フォールディングとは、複数のタンパク質分子どうしが、分子間で相互作用しながら絡み合うように折りたたんで(フォールディングして)会合体構造を形成することを表している。ドメインスワップとは、分子間フォールディングの中でも、複数のタンパク質分子がお互いに部分的に絡み合うように、特に、他の分子の構造の一部分をあたかも自らの分子の構造の一部分として取り込むように折り畳みながら、多量体を形成することを表す専門用語である。「分子間フォールディング(ドメインスワップ)型4本ヘリックスバンドル2量体構造」とは、図2左上のWA20の立体構造のように、2本の長いαへリックスが連結した“ヌンチャク型”のWA20分子2つが、お互いに挟みこむように絡み合いながら組み合わさることで、全体として4本のαヘリックスを束ねた(バンドル)形状の二量体(2つの分子が組み合わさって形成される複合体)の立体構造を表している。

※10 foldon
foldon とは、大腸菌に感染するウイルスの一種のT4ファージ由来のfibritinタンパク質のC末端部に位置する三量体形成ドメインである。26残基ほどの短いアミノ酸配列であるが、非常に安定な三量体を迅速に形成する特徴があり、今回、三量体を形成する頂点部分のブロックのパーツとして好適であると考えられる。

※11 サイズ排除クロマトグラフィー
サイズ排除クロマトグラフィー(size exclusion chromatography, SEC)とは、試料の分子サイズに基づくふるい分けを原理とするクロマトグラフィーである。そのうち、移動相が水溶液である場合は、ゲル濾過クロマトグラフィーとも呼ばれる。固定相担体は多孔質の素材でできており、多孔質のサイズよりも大きな分子の場合、担体内部まで侵入することができない。言い換えると小分子は担体内部にまで拡散できるが、大分子は担体の外部を流れ去るだけである。このように試料のサイズによりふるいわけ生じて、サイズの大きな分子が先に、小さな分子が後に流出してくる。用途としては合成高分子やタンパク質を含む天然高分子や合成高分子の分離・精製や分子量の推定などに用いられている。

※12 多角度光散乱法
高分子溶液に光を照射するとその光と同じ波長で散乱(レイリー散乱)を生じ、その散乱の強さ(散乱強度)はその分子の分子量や分子サイズに関係している。そこで、多角度光散乱検出器(Multi-Angle Light Scattering:MALS)を用いて複数の角度で光散乱を測定し、それらの関係式から、分子量標準サンプルを用いることなく高分子試料の絶対分子量及び分子サイズを測定する方法である。特に、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)システムに接続して、タンパク質等の生体高分子の絶対分子量及び分子サイズ分布、会合状態等を迅速かつ正確に測定することが可能である。

※13 超遠心分析
超遠心分析とは、タンパク質等の高分子溶液を高速で遠心し、遠心力場におかれた高分子が溶媒の中を沈降する様子をリアルタイムで観測・解析することによって、試料の均一性を検定すると共に分子量を求める手法である。この手法の特徴として、通常の水溶液中のタンパク質等の高分子試料を測定できる、ペプチドのような小分子からウィルス等の巨大分子複合体まで、非常に広い範囲の分子量を測定できる、タンパク質等のおおよその分子形状や分子間の相互作用の強さ等に関する情報も得られるなどを挙げることができる。

※14 小角X線散乱法
X線を溶液状態の物質に照射して散乱されるX線のうち、散乱角が小さいもの(約10°以下)を測定することにより1~100nmスケールの微細構造に関する情報を得る手法である。溶液中のタンパク質の概形構造や分子量を解析する目的にもよく利用される。

※15 バイオナノプロセス
バイオナノプロセスとは、タンパク質をはじめとするバイオ分子によってナノ構造を作製するプロセスのことである。従来の半導体加工技術のトップダウン的技術では、ナノスケール微細加工の限界が近く、装置が高価等の問題もある。そこで、ボトムアップ的技術の開発が求められており、特に、タンパク質による自己組織化ナノ構造をテンプレートとして、バイオミネラリゼーションを組み合わせることにより、水溶液中で有機無機ハイブリッドナノ材料等を比較的簡単に作製するバイオナノプロセスの研究開発が進められている。この手法では、極めて小さなナノ構造ができるだけでなく、これまでに無い量子効果などの可能性もあり、次世代半導体デバイス開発技術として期待されている。
(参考書籍:「バイオナノプロセス」溶液中でナノ構造を作るウェット・ナノテクノロジーの薦め(山下一郎、芝清隆監修、シーエムシー出版))
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