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循環器・腎臓内科学 田村 功一准教授が、漢方薬が食欲増進ホルモンのグレリンを低下させ食欲を抑制することを発見!

2013.10.10
  • プレスリリース
  • 研究
横浜市立大学医学部 循環器・腎臓内科学 田村 功一 准教授、涌井 広道 助教、大学院生 小豆島 健護 医師ら研究グループが、内蔵脂肪型肥満・糖尿病・高血圧を呈する生活習慣病マウスを用いて、漢方薬による生活習慣病の改善効果の作用メカニズムについて検討した結果、漢方薬が脂肪細胞機能を改善し、近年食欲増進ホルモンとして注目されているグレリン*1を抑制することで食事量を減少させ、肥満を防ぐ効果を発揮するメカニズムを解明しました。
漢方薬は日本の日常診療で様々な疾患に対して処方される機会が多いものの、その作用メカニズムは大部分が不明のままです。本研究は肥満症に処方されることが多い漢方薬の、抗肥満効果の新規メカニズムの一端を解明したものであり、今後、統合医療(東洋医療と西洋医療の併用療法)が内蔵脂肪型肥満を呈する生活習慣病をより効率的に治療できる可能性を示唆した画期的な成果です。

*1 グレリン : 主に胃で産生され食欲中枢に強く作用し摂食行動を促すホルモン


(図1)今回の研究成果の概要
※本研究成果は、厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)による研究助成を受けて、肥満合併高血圧に対する統合医療(東洋医療と西洋医療の併用療法)の効果を検討する研究である、Yokohama Combined Treatment With Oriental Herb Randomized Efficacy On Obesity Hypertension Study(Y-CORE Study)によるものです。また、横浜市立大学 先端医科学研究センターが推進している「研究開発プロジェクト」の成果のひとつです。

研究の背景

近年、日本でも食文化の欧米化により肥満症が増加しています。特に内臓脂肪型肥満はメタボリック症候群を経て高血圧、糖尿病、脂質異常症、慢性腎臓病といった生活習慣病の基盤となり、動脈硬化を促進することで心筋梗塞、脳卒中、腎不全などの重症疾患を発症することとなります。肥満症患者が増えることにより様々な疾患の罹患率が上昇し医療財政を圧迫していることもあり、国民健康レベルのさらなる向上および医療費効率化の推進の観点からも肥満症のより効率的な治療がとても重要になります。
内臓脂肪型肥満をはじめ肥満症の治療法は基本的には食事療法、運動療法による減量(ダイエット)になりますが、実際のところ日常診療の指導のみでは肥満症患者が効果的な減量(ダイエット)に成功するのはなかなか困難です。肥満症の補助療法として抗肥満薬や肥満手術などもありますが、その副作用から適応となるのは重症肥満症患者のごく一部に限られます。また、防風通聖散は肥満症に対して処方されることのある漢方薬ですが、そのメカニズムには未だ不明な部分が多いとされていました。

研究の内容

本研究では、田村准教授、涌井助教、小豆島医師ら(GR)が、内蔵脂肪型肥満を呈する生活習慣病モデルマウス(KKAyマウス)に防風通聖散を投与することにより、コントロールと比較して、体重増加、食事量増加、血圧上昇が継続的に抑えられることを報告しました。また、脂肪組織に与える影響についての検討では、防風通聖散により白色脂肪細胞の小型化が促進され内臓脂肪量の減少がみられました。そして、血液検査では悪玉コレステロールのLDLコレステロールの低下、および脂肪細胞から分泌される抗動脈硬化ホルモンのアディポネクチンの上昇が認められました。また、防風通聖散により褐色脂肪細胞の活性化による深部体温の上昇も認められました。
さらに、防風通聖散によって食事量減少もみられたことから、そのメカニズムを解析したところ、最近食欲増進ホルモンとして注目されているグレリンの血中濃度に対する防風通聖散による低下作用が今回発見されました。
以上の結果から漢方薬防風通聖散の脂肪細胞・組織や基礎代謝などへの多面的な作用、さらには、食欲増進ホルモン「グレリン」を抑制することによる食事量の減少作用が生活習慣病の改善に関与する可能性が明らかにされました。
※本研究は、米国科学誌『PLOS ONE』に掲載されました(米国時間10月9日付オンライン掲載)。“Bofu-tsu-shosan, an Oriental Herbal Medicine, Exerts a Combinatorial Favorable Metabolic Modulation Including Antihypertensive Effect on a Mouse Model of Human Metabolic Disorders with Visceral Obesity”

今後の展開

本研究成果の意義は、作用機序に不明な点が多く西洋医療と東洋医療の併用療法(統合医療)を行う上で支障ともなっている漢方薬の新規作用機序を明らかにした点にあります。
そして、漢方薬防風通聖散による内蔵脂肪型肥満・糖尿病・高血圧を呈する生活習慣病マウスに対する改善効果の作用メカニズムとして、
1)白色脂肪細胞機能改善による小型化とそれにともなう抗動脈硬化ホルモンのアディポネクチン分泌促進作用
2)褐色脂肪細胞機能改善による深部体温上昇(基礎代謝亢進)作用
3)食欲増進ホルモンのグレリン血中濃度低下による食欲抑制作用
を、明らかにしました。
特に、漢方薬による生活習慣病の改善効果の作用メカニズムの一端として、最近注目されている食欲増進ホルモンのグレリンに対する抑制作用を新規メカニズムとして今回初めて明らかにしたことは、生活習慣病に対する西洋医療と東洋医療の併用療法(統合医療)の推進による動脈硬化合併症の効率的な抑制による国民健康レベルのさらなる向上および医療費効率化のさらなる推進に結びつく可能性があります。
現在、同様に厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)による研究であるYokohama Combined Treatment With Oriental Herb Randomized Efficacy On Obesity Hypertension Study(Y-CORE Study)-CORE Studyの臨床試験も最終段階であり、漢方薬による東洋医療と西洋医療の併用療法(統合医療)が実際に肥満合併高血圧症患者に対してどのような効果をもたらすかについても明らかになる予定です。統合医療を保険診療内で行うことができるのは日本独特のシステムであり、日本発の漢方薬のエビデンスを蓄積していくことが今後もより効率的な医療を推進していくために重要であると考えられます。

お問い合わせ先

(本資料の内容に関するお問い合わせ)
○公立大学法人横浜市立大学 学術院医学群 循環器・腎臓内科学 田村 功一
TEL:045-787-2635  FAX:045-701-3738
E-mail:tamukou@med.yokohama-cu.ac.jp

(取材対応窓口、資料請求など)
○公立大学法人 横浜市立大学 先端医科学研究課長 立石 建
TEL:045-787-2527  FAX:045-787-2509
E-mail:sentan@yokohama-cu.ac.jp
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