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循環器内科学 石上 友章准教授が、 動脈硬化症のリスクを予測する自己抗体の解析に成功しました!

2013.06.01
  • 大学からのお知らせ
  • 研究
横浜市立大学学術院医学群 循環器内科学 石上 友章准教授は、愛媛大学プロテオサイエンスセンター 澤崎 達也教授、本学 微生物学 梁 明秀教授、分子病理学 青木 一郎教授らとの共同研究を行い、動脈硬化症患者血清中に複数の自己抗体が存在することを明らかにしました。さらに同准教授はバイオインフォマティクス的手法を用いた解析を行い、患者血清中の抗IL(インターロイキン)5抗体が、有意に高値であることを証明しました。
本研究は、動脈硬化症の新規バイオマーカーとして、血中自己抗体・抗IL5抗体の測定の臨床応用をもたらすばかりでなく、炎症の永続性を特徴とする本症の基盤に、自己抗体を介する自己免疫現象がかかわっている可能性を明らかにした画期的な成果です。
本研究で用いた高感度なハイスループット自己抗体アッセイを応用することで、動脈硬化症ハイリスク患者のリスク診断や、個別化医療の実現をもたらす可能性があります。
本論文の公表に先だって、本研究成果の一部は、国内特許出願(特願2010-256401、特願2010-256418)及び、JSTの指定国移行支援のもと、米国での特許出願中です(WO2012/067165A1)。
動脈硬化症は、致死的・非致死的な心筋梗塞や、脳梗塞の原因となる重大な疾患です。高血圧、脂質異常症、糖尿病といった生活習慣病の終末像であり、心肺機能低下による行動制限、麻痺、認知症、上肢下肢の切断等、生活の質を損なうことによって健康長寿の実現を妨げるばかりか、しばしば致命的となります。したがってその影響は、患者個人の生命はいうまでもなく、社会的な人材の喪失をもたらすとともに、治療介護費用・社会保障費の増大を招いて個人・国家の財政に多大な影響を与えており、社会資本の整備や、医療システムの向上による対策ばかりではなく、本症の抜本的な対策が求められています。
生活習慣病は、本症の主要なリスク因子であり、生活習慣病治療薬による薬物療法は、動脈硬化症による心血管イベントの抑制効果を求められています。しかしながら、リスク管理による心血管イベント抑制の効果には限界が存在することが知られており(天井効果:ceiling effect)、薬物療法による残存リスク(residual risk)と呼ばれています。この残存リスクの解消には、リスク管理による確率的なイベント抑制効果を凌駕する、動脈硬化症の成因に基づいた診断・治療の実現が求められていると考えられます。
動脈硬化症の成因は、従来は血管内皮細胞や、血管に対する様々な傷害に対する反応性の現象とする仮説(“Response to Injury”仮説)が支持されていましたが、近年の分子生物学や、細胞生理学的な研究の成果から、動脈硬化症を呈する動脈壁、特に内皮細胞の直下である内膜に、リンパ球や、単球、抗原提示細胞(樹状細胞)、マクロファージといった炎症性細胞が多く認められることが明らかになり、動脈硬化症の成因仮説として“炎症”説が提唱されるようになりました。
多くの研究から、C反応性タンパク(CRP)が、動脈硬化症と関連することが報告され、CRPは炎症性マーカーであることから、本症の炎症説は幅広く支持されています。したがって、生活習慣病の終末像である動脈硬化症の制圧には、炎症を制圧することが必須と考えられています。しかしながら、本症における炎症をもたらす生物学的基盤については、十分わかっていませんでした。
これまでに、愛媛大学プロテオサイエンスセンターでは、洗浄小麦胚芽抽出液を使って、無細胞系での高効率なタンパク合成技術を確立しています(セルフリー技術)。本研究では、セルフリー技術により、N末端にビオチン結合配列を導入した約2000種類のタンパク質を合成し、動脈硬化症患者より採取したプール血清と反応させることで、合成タンパク質と結合する血清中のヒトγグロブリンIgGを高感度・ハイスループットに検出するアッセイ法を開発し、初めて動脈硬化症患者血清中の自己抗体解析に応用しました。
プール血清に対して得られたデータに対して、自然言語処理を応用したtext miningによるバイオインフォマティクス解析を行い、19種類のタンパク質を同定しました。19種類のタンパク質の中から、Th2サイトカインであるIL5に着目して、更に解析を進めましたところ、同一の血清に対するアッセイでは、Full lengthのcDNAより合成したIL5に比較して、deletion mutantから合成した分泌型IL5に対する抗体価が有意に高値であることが明らかになりました。
閉塞性動脈硬化症(末梢動脈疾患 PAD)患者90名、冠状動脈硬化症(CAD)患者20名および、年齢をマッチさせた健常成人80名の個別血清に対して、抗分泌型IL5抗体価を測定したところ、健常成人に比較して、PAD・CAD群で有意に抗体価が高値を示すことが明らかになりました。<図1>
全データに対して、多変量回帰分析を行ったところ、血中抗IL5抗体価は、有意に血中IL5濃度と逆相関しており、患者血中の自己抗体がIL5の働きを抑制している可能性が示唆されました。

※本研究は、米学会誌『The Federation of American Societies for Experimental Biology』に掲載されました(5月22日オンライン掲載)。
Anti-interleukin-5 and multiple autoantibodies are associated with human atherosclerotic diseases and serum interleukin-5 levels
FASEB J fj.12-222653; published ahead of print May 22, 2013, doi:10.1096/fj.12-2226532013

※本研究は、横浜市立大学 先端医科学研究センターが推進している「研究開発プロジェクト」、及び横浜市立大学附属病院 先進医療推進センター「先進医療推進プロジェクト」の成果のひとつです。
<図> 抗分泌型IL5抗体価の比較
(PAD 閉塞性動脈硬化症、CAD 冠状動脈硬化症、Control 年齢マッチ健常成人)

今後の展開

 本研究成果に基づく、動脈硬化症研究および診療の展開については以下のように考えられます。本研究の第一の発見は、動脈硬化症患者血清中に、複数の自己由来タンパク質に対するIgG型自己抗体が存在することを明らかにした点にあります。動脈硬化症患者血清中に認められた自己抗体は、自己免疫疾患の代表である慢性関節性リウマチに対する自験データと比較すると、全く異なっており、動脈硬化症に特異的な自己抗体が存在すると考えられます。このことから、動脈硬化症における炎症をもたらす機序として、自己抗体を介する自己免疫的機序が関与することが示されました。動脈硬化症を自己免疫疾患としてとらえなおして理解するという、重大なパラダイムの転換を伴った今後の展開がもたらされると予想されます。
また、本研究に応用した、高感度・ハイスループット自己抗体アッセイ法を、動脈硬化症ハイリスク患者に対して応用することによって、個々の患者の自己抗体プロフィルを明らかにすることが可能になります。その結果、自己抗体プロフィルを治療標的とした、動脈硬化症の治療の個別化が実現する可能性があります。
本研究で着目した抗IL5抗体は、動脈硬化症の新規バイオマーカーとして、動脈硬化症の早期発見、早期治療を実現する可能性があります。動脈硬化症は、生活習慣病の終末像であり、致死的・非致死的な心血管イベントの原因でありながら、多くの場合無症候性に進行することが特徴です。抗IL5抗体測定を、自己抗体を介する自己免疫現象に着目した新規バイオマーカーとして活用することで、成因とリスクを同時に評価することが可能になり、動脈硬化症関連領域の診療の質を飛躍的に高めることになります。

お問い合わせ先

(本資料の内容に関するお問い合わせ)
○公立大学法人横浜市立大学 学術院医学群 循環器内科学 石上 友章
Tel:045-787-2635 Fax:045-701-3738
E-mail:tommmish@med.yokohama-cu.ac.jp

(取材対応窓口、資料請求など)
○公立大学法人横浜市立大学 先端医科学研究課 立石 建
 TEL:045-787-2527 FAX:045-787-2509
E-mail:sentan@yokohama-cu.ac.jp
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