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薬理学 五嶋教授ら研究グループが神経回路形成の新たなメカニズムを解明 !~神経再生や認知症の克服に向けて~

2014.03.07
  • プレスリリース
  • 研究

薬理学 五嶋教授ら研究グループが神経回路形成の新たなメカニズムを解明 !~神経再生や認知症の克服に向けて~

横浜市立大学学術院医学群 山下 直也 助教、五嶋 良郎 教授(薬理学教室)ら研究グループは、神経回路形成の新たなメカニズムを解明しました。

グルタミン酸は私達の脳で学習や記憶を司る重要な働きをしています。グルタミン酸が働くためにはそれと結合して脳内の情報を伝達するグルタミン酸受容体が、神経細胞の一定の場所に存在していることが必要です。
横浜市立大学学術院医学群 山下直也 助教、五嶋 良郎 教授(薬理学教室)らは、神経の伸長方向のコントロールに重要な役割をするセマフォリン3Aというタンパク質が、グルタミン酸受容体の神経細胞の細胞体や樹状突起における場所を、今までにない新しい仕組みで神経突起の末端の遠隔からコントロールするというメカニズムを発見しました。
グルタミン酸受容体の働きの障害が原因と考えられるアルツハイマー病や統合失調症などの精神神経疾患の新たなメカニズムの解明に繋がる成果として、新たな治療法の開発が期待されます。

※本研究は、文部科学省「イノベーションシステム整備事業 先端融合領域イノベーション創出拠点形成プログラム」「特定領域研究」「ターゲットタンパク質研究」の一環として、また、上原記念助成により行われ、横浜市立大学 先端医科学研究センターが推進している研究開発プロジェクトの成果の一つです。

※この研究成果は『Nature communications』に掲載(日本時間3月6日午後7時付オンライン)されました。
☆研究成果のポイント
○神経細胞は、細胞体、樹状突起、軸索の3つ部分から形成されており、通常、神経を介する情報の伝達は、樹状突起、細胞体、軸索の順序で伝搬していく。今回は、それとは逆の軸索、細胞体、樹状突起という流れの新しい情報の伝達経路を明らかにした。

○セマフォリン3Aは、軸索が伸びる方向性を制御する分子として知られていたが、今回、新たに、軸索先端の成長円錐という部位から、逆行性の軸索輸送を介して樹状突起のグルタミン酸受容体の存在する場所を適切にコントロールする仕組みが存在することを明らかにした。

○グルタミン酸受容体が正常に働くためには樹状突起の中で正常な場所に存在することが必要で、これが障害されると考えられるアルツハイマー病や統合失調症などの精神神経疾患の新たなメカニズムの解明に繋がる成果といえる。

研究概要

セマフォリン3Aは、神経の突起先端に作用してその伸長を抑制する分子であり、アトピー性皮膚炎の患者さんでは皮膚内の量が低下して神経が伸長し、かゆみに対して敏感になることが知られています。今回の成果は、セマフォリン3Aが神経突起に作用するだけでなく、その作用点から遠く離れた細胞体や樹状突起とよばれる神経細胞にとっての情報入力部位の機能にも影響を与えていることを明らかにしました。
グルタミン酸受容体は、他の神経細胞から情報の入力を受ける最も重要な担い手であり、この分子が本来存在する樹状突起の部分で正常に分布して働かない場合、アルツハイマー病や統合失調症などの精神神経疾患のような病態が発症することが考えられます。
セマフォリン3Aを海馬の培養神経細胞の軸索成長円錐に作用させた場合、セマフォリン3Aの受容体であるプレキシンA4という分子が、セマフォリン3Aとともに逆行性の軸索輸送に乗って細胞体や樹状突起に運ばれることを見出しました。さらにその際に、GluA2というグルタミン酸受容体を捕まえて樹状突起に運ぶという従来にない新しいメカニズムを使って、グルタミン酸受容体の樹状突起における場所をコントロールしていることを明らかにしました。また、このグルタミン酸受容体の場所のコントロールが正常に行われない場合、樹状突起の成熟が正常に起こらないことも明らかにしました。
古くから、神経細胞が、その軸索の成長末端部にある成長円錐を介して、情報を伝える相手の細胞(標的細胞)に到達し、神経伝達の場であるシナプスを作る際、シナプスの形成が起こると同時に、樹状突起が複雑になるという現象が知られていましたが、この現象のメカニズムは、明らかではありませんでした。従来は、神経回路が形成される際に、神経栄養因子が神経の末端から取り込まれて細胞体に情報を伝えるということを通じて神経伝達が行われている神経を生存させ、使われていない神経を排除する仕組みが存在することが示されてきました。
セマフォリン3Aは、神経栄養因子と同様に、標的細胞やその周辺の細胞から分泌されるため、今回の発見は、どのようなメカニズムで情報の出力系(シナプス前部*)と情報の入力系(樹状突起)が同期して成熟するのかという長年の課題に答える神経生物学上、重要な疑問に応える成果です。

*成長円錐は、標的細胞に到達してシナプスを形成すると、シナプス前部と呼ばれるようになります。



(図1)セマフォリン3Aは、逆行性のシグナルを遠隔にある細胞体へと送り、他の細胞からの情報の受け手であるグルタミン酸受容体の局在をコントロールする

お問い合わせ先

(本資料の内容に関するお問い合わせ)
公立大学法人横浜市立大学 学術院医学群 薬理学
五嶋 良郎
TEL:045-787-2593 / 2594
E-mail:goshima@med.yokohama-cu.ac.jp

(取材対応窓口、資料請求など)
公立大学法人横浜市立大学 先端医科学研究課 立石 建
TEL:045-787-2527 FAX:045-787-2509 sentan@yokohama-cu.ac.jp
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