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和田淳一郎教授が選挙学会賞に引き続き、公共政策学会論説賞を受賞!

2013.06.10
  • プレスリリース
  • 研究

概要

 国際総合科学群の和田淳一郎教授が、一昨年の日本選挙学会賞に引き続き、Mathematical Social Sciences 63巻第3号に掲載された論文、”A divisor apportionment method based on the Kolm-Atkinson social welfare function and generalized entropy”で、公共政策学会学会賞を受賞しました。Nash Social Welfare Functionに依拠した分離可能な不平等指数により、議員配分が引き起こす不平等と区割りが引き起こす不平等を明確にし、国際比較を行ってJournal of Theoretical Politicsに掲載した論文と、国内の歴史的変遷を追って『選挙研究』に掲載した論文を、Atkinson Social Welfare Function (Generalized Entropy) に拡張し、その整数値最適解を求めた論文です。

研究概要

 衆院の議員定数配分に使われている“1+最大剰余方式”は、1人別枠が問題とされていますが、最大剰余方式自体が、アラバマパラドクス(総定数を増やすと議員配分が減る県が出る)、人口パラドクス(人口の減った県の議員定数を増やし、人口の増えた県の議員定数を減らしたりする)といった問題を引き起こします。例えば、2010年度国勢調査人口で、0増5減の総定数295から300まで変化させていくと、秋田県への配分が2,3,2,3,2,2となります。また、1990年の国勢調査の人口で、 300を配っていたとしたら、直前の1985年の国勢調査を使っての値から、人口の増加した熊本県や香川県の議席配分を減らし、人口の減少した鳥取県の議席配分を増やすことになります。
 人口パラドクスを引き起こさない定数配分方法は除数方式のみであり、除数方式はアラバマパラドクスも引き起こさないことが知られています(Balinski-Young(1982))が、除数方式には“1+ドント方式”(Adams方式)、アメリカ下院方式(Hill方式)、サンラグ方式(Webster方式)、ドント方式(Jefferson方式)などがあり、比例代表制においては、政党に分裂するインセンティブを与えないという点から、小党分立を防ぐためにドント方式が望ましいとされていますが、議員定数配分に関しては、論争があります。Willcox(1916) vs. Huntington(1928) と、Balinski-Young(1982、 2001) vs. Ernst(1994)は、サンラグ方式とアメリカ下院方式のどちらが比例配分に近いかを争ったものであり、この論戦の長さをご理解いただけるものと思います。
 今回の論文は、これら4方式を含む除数方式による配分を、1つのパラメーターの下に一般化するAtkinson Social Welfare Function (Generalized Entropy)の整数値最適化から導出し、Nash Social Welfare Functionの整数値最適解がアメリカ下院方式とサンラグ方式の間に落ち、様々な観点から望ましい性質を持つことを示したものです。

今後の期待

 0増5減は一票の較差をぎりぎり1:2に落とし込むことのみにこだわり、他を放置した、“1+最大剰余方式”以上に問題のある配分です。実際のところ、人口のより多い神奈川県の定数配分が人口のより少ない大阪府の定数配分より少ないことすら放置されています。マスコミでは最大剰余方式を前提に21増21減が比例配分だなどともいわれていますが、アメリカ下院方式、Nash Social Welfare Function方式、サンラグ方式の解は全く同じ20増20減を示します。アメリカにおける1世紀に及ぶ大論戦の両雄およびその間の解になることが保証されているNash Social Welfare Functionの整数値最適解が一致するこの時期に、一票の平等が達成されることを期待してみたいものです。
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