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横浜市立大学医学群 石ヶ坪教授らの研究グループが、ベーチェット病発症に細菌が関与していることを遺伝学的に証明!

2013.04.30
  • プレスリリース
  • 研究
 横浜市立大学医学群病態免疫制御内科学教室の石ヶ坪 良明教授(厚生労働省ベーチェット病班 研究代表者)らの研究グループは、最新の遺伝学的解析法によりベーチェット病の発症に細菌成分が関与していることを発見しました。
本研究成果は米国アカデミー紀要『Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America』(平成25年4月29日オンライン版 日本時間:平成25年4月30日)に掲載されました。

研究の背景

 ベーチェット病はぶどう膜炎、皮疹、口腔・陰部潰瘍など全身に発作的な炎症を繰り返す難治性疾患で、厚生労働省の特定疾患に最初に認定され、平成24年3月末時点で、特定疾患医療受給者数は18,451人です。細菌やウィルス感染が発症の引き金となっていると考えられていますが、確かな証拠はありませんでした。

図)われわれが提唱するベーチェット病発症のモデル

研究の内容と成果

 石ヶ坪教授、同教室桐野洋平助教、同大眼科水木信久教授ら横浜市大グループは、米国国立衛生研究所、トルコイスタンブール大学と国際共同研究を行い、桐野助教を中心として、日本人・トルコ人計約5,000例の患者・健常人の検体を解析しました。細菌成分を認識する分子など自然免疫に関わる遺伝子11個と、ゲノムワイド関連解析でみつかった10個の遺伝子のエキソン*1を、次世代シーケンサー*2を用いて解析したところ、グラム陰性菌の成分であるリポポリサッカライド(LPS)の受容体TLR4*3や、同様にグラム陰性菌やグラム陽性菌の成分であるムラミルジペプチド (MDP)の受容体NOD2*4の変異の分布が、ベーチェット病と健常人で異なっていることがわかりました。すなわち、ベーチェット病においては、健常人と比較して、これらの細菌に対する反応が異なる可能性があります。また、家族性地中海熱の原因遺伝子MEFV*5 M694V(694番目のパイリンという蛋白質のメチオニンがバリンに置換)を持つひとではベーチェット病になりやすいことが証明されました。

今後の展開

 細菌成分がベーチェット病発症に関わっている証拠が得られたことから、今後細菌自体に対する抗菌加療や、細菌に対する反応を調節する治療など、ベーチェット病の新しい治療法の開発が期待されます。以前からいわれているように、口腔内など細菌が多い部分を清潔に保つことが重要であることが、本研究の結果からもいえます。

用語解説

*1エキソン:遺伝子にはタンパク質の遺伝子情報を含むエキソンと遺伝子情報は含まないイントロンがある。エキソンに変異が起きるとタンパク質の機能が大きく変化することがある。

*2次世代シーケンサー:遺伝学の最新の解析方法で、約1週間でヒトの全遺伝子を調べることができる。膨大な情報を解析できることから、本研究のように数千人からの特定の遺伝子エキソンを調べることが可能となった。今後の遺伝子解析の中心的役割を担う手法である。

*3 TLR4:Toll-like receptor 4の略。グラム陰性菌の細胞膜成分であるリポポリサッカライド(LPS)を認識する細胞膜に存在する受容体である。生体にとって、細菌に対する免疫反応に非常に重要な蛋白質であり、TLR4を初めて報告した米国スクリプス研究所ブルース・ビュートラーとフランスストラスブール大学のジュール・ホフマンは2011年ノーベル賞を受賞した。

*4 NOD2:Nucleotide-binding oligomerization domain-containing protein 2の略。グラム陰性菌やグラム陽性菌の菌体成分であるムラミルジペプチド(MDP)の細胞内に存在する受容体。炎症性腸疾患のクローン病の重要な感受性遺伝子でもある。

*5 MEFV: Mediterranean fever の略。発作性の発熱や腹痛、胸痛などの原因となる漿膜炎を起こす家族性地中海熱(Familial Mediterranean fever; FMF)の原因物質といわれる「パイリン」というタンパク質をコードしている遺伝子。なかでもM694VというMEFVエキソン10番の変異は地中海地方の比較的重症のFMF患者に認められるが、日本人には認めない。最近、日本人にも家族性地中海熱の患者の報告が散見される。
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