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医学研究科の研究グループが、ヒト耳介軟骨から幹細胞を発見、軟骨再生医療へ応用!

2011.08.09
  • プレスリリース
  • 研究

-新たな幹細胞を用いた長期形態維持可能な弾性軟骨組織の培養技術を開発-

横浜市立大学先端医科学研究センター及び大学院医学研究科(臓器再生医学 谷口英樹教授)小林眞司客員研究員(神奈川県立こども医療センター形成外科 部長)、武部貴則助手らの研究グループはヒト耳介軟骨膜中に幹細胞の特徴を有する細胞集団が存在することを世界で初めて明らかにしました。さらに、臨床応用を目指し、幹細胞を成熟軟骨細胞へ効率的に分化誘導を行う細胞培養技術の開発を行い、本学附属病院での臨床研究の実施に向け準備を開始しています。

※本研究は、2011年8月に発刊される米国科学雑誌『Proceedings of the National Academy of Sciences』に掲載されます。
※本研究は、文部科学省科研費-基盤研究(C)、厚生労働科研費「難治性疾患克服研究事業」などの助成により行われました。

研究の背景

頭頸部領域の先天奇形や、交通事故による外傷等に起因する変形に対する質の高い治療法の開発は、全世界で望まれている重要な臨床的解決課題です。現在の標準的な治療法である自家組織移植術は、健常部位に犠牲が生じるだけでなく、痛みなどの侵襲も問題となっています。そこで、これらの問題点を克服するために、自己の成熟軟骨細胞を用いた「弾性軟骨再生医療」が近年注目を集めています。しかし、成熟した細胞を用いているために、長期的に組織を維持する「幹細胞」が移植されておらず、再生軟骨を維持する事が難しいと考えられています。
 そこで私たちは、弾性軟骨組織に存在する幹細胞を利用できないかと考えました。弾性軟骨組織であるヒト耳介において、幹細胞の存在は未だに明らかにされていません。私たちは、ヒト耳介においても幹細胞が存在することを世界に先駆けて明らかにし、この幹細胞を用いてヒト弾性軟骨を再生することに成功しました。

研究の内容

ヒト耳介を構成する軟骨は、弾性軟骨と呼ばれる弾力性の高い軟骨であり、その周囲を軟骨膜という薄い被膜状の組織が覆っています。私たちは、このヒト耳介軟骨膜中に幹細胞の特徴を有する細胞集団が存在することを世界で初めて明らかにしました(図1)。さらに、臨床応用を目指し、幹細胞を成熟軟骨細胞へ効率的に分化誘導を行う細胞培養技術の開発を行いました。本培養技術により軟骨分化誘導を行ったヒト幹細胞を免疫不全マウスへ移植することで、大型のヒト弾性軟骨を再生することに成功しています(図2)。再生されたヒト弾性軟骨組織には10ヶ月以上にわたり幹細胞が維持されており、従来法における課題であった再生組織の長期形態維持が期待されます。

今後の展開

これらの研究成果に基づき、交通事故などによる外傷後の重篤な顔面変形に対し、この幹細胞を用いた質の高い弾性軟骨再生の臨床研究実施へ向けて準備中です。現在の準備状況としては、本学附属病院において細胞調製を行うための施設(セルプロセシングセンター*1)の建設が行われ、GMP*2準拠プロトコルの作成などを実施しています。厚生労働省「ヒト幹細胞臨床研究指針」に基づく認可を得た上で、本学において臨床研究を開始する予定です(図3)。
【補足説明】
*1 セルプロセシングセンター: 細胞治療や遺伝子治療の分野において利用される研究開発施設で、横浜市立大学附属病院では、神奈川県内の公的病院においては初めて平成22度に設置されました。

*2 GMP(Good Manufacturing Practice): 厚生労働省薬事法の内、医薬品の研究、開発、教育訓練、製造設備、原料、製造、中間体、最終製品、廃棄物、包装資材、検査、販売、不合格品および回収品、等について規定し、それを記録、文書化する事を義務付けた省令のこと。
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