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小川毅彦准教授らの研究グループが、体外移植培養法を開発し、マウス精子幹細胞から精子の産生に成功!

2011.09.14
  • プレスリリース
  • 研究

~『Nature Communications』オンライン版に掲載~

横浜市立大学先端医科学研究センター及び附属病院 小川毅彦准教授(泌尿器病態学・窪田吉信教授)らの研究グループは、今年3月に培養条件下でマウスの精子幹細胞から精子産生できる技術開発を発表しました。今回はその方法を発展させた体外移植培養法を開発しました。この技術は単離された精子幹細胞や細胞株からでも培養下で精子を造ることができます。さらに不妊マウスの精子幹細胞からの精子形成にも成功しました。この研究は、理化学研究所バイオリソースセンター・小倉淳郎教授らのグループとの共同研究による成果です。

☆研究成果のポイント
○様々な状態にある精子幹細胞を培養下で精子にする新しい手法を世界で初めて、 開発しました。
○産生された精子細胞で健常な産仔に成功しました。
○不妊症マウスの精巣から精子幹細胞を取り出し、培養下で精子細胞の産生にも 成功しました。

研究内容

研究グループは、新生仔マウス精巣組織を器官培養し、精子産生と産仔に成功し、今年3月にその成果をNatureに報告しました。今回、その器官培養法を応用・発展させ、体外移植培養法という技術を開発しました。
マウス精子幹細胞の培養法は、京都大学・篠原隆司教授らのグループによって2003年に開発されました。その培養精子幹細胞(Germline Stem Cells; GS細胞※1)は、幹細胞能を保ったまま長期間増殖可能で、その遺伝子改変も可能な細胞であることから、精子幹細胞を研究する上で優れたシステムとなっています。しかし、GS細胞をin vitroで精子へと分化させる方法はこれまで確立されていませんでした。したがって、GS細胞を分化誘導して精子形成させるためには、精巣内へ移植するなど、生体内に戻さなければなりませんでした。
今年3月、本研究グループは古典的な器官培養法を改良し、新生仔マウスの精巣中の前精原細胞から精子形成を進行させ、in vitroで妊孕能のある精子を得ることに成功しました(Sato et al., Nature 2011)。そこで研究グループは、この器官培養法を応用すれば、GS細胞をin vitroで精子に分化させられるのではないかと考え、研究を進めてきました。
まず、精子形成の進行を簡便にモニターするために、生殖細胞で減数分裂特異的にGFP※2を発現するトランスジェニックマウス※3からGS細胞を樹立しました。次に、仔マウスから取り出した精巣の精細管内にGS細胞を注入移植し(体外移植)、その精巣組織片をアガロースゲル上で培養しました(図1)。その結果、生体内とほぼ同様のタイミングでGFPの発現が観察されました(図2)。それらの精巣内には、半数体である精子細胞および精子の形成が確認されました(図3)。さらにそれらの精子細胞・精子を用いて顕微授精※4を行ったところ、精子細胞を注入した卵から健康な産仔を得ることに成功しました(図4)。

さらに研究グループは、この方法を不妊症の治療に応用する発展を目指し、不妊マウスをモデルに実験を行いました。精巣内環境が異常なために無精子症になっている突然変異マウス(Sl/Sld)の精子幹細胞を正常マウスの精巣に注入移植し、その組織を培養することで、精子形成を誘導することに成功しました。このように、本方法はGS細胞のみならず、精子形成能をもつどのような細胞にも応用できる可能性があります。
本研究の手法は、精子形成の分子メカニズムや不妊症の病態を解明する基礎研究に応用でき、男性不妊症の診断・治療に貢献することが期待されます。 

※1 GS細胞: 培養した精子幹細胞。培養下で指数関数的に増殖し、精子になる能力を持っている細胞。
※2 GFP(Green fluorescence protein): クラゲ由来の蛋白質で、励起光を当てると緑色の蛍光を発する。
※3 トランスジェニックマウス: 外来遺伝子が導入された遺伝子改変マウス。
※4 顕微授精: ガラス針により精子を卵に注入して授精させる方法。
図1~4
参考文献:
Sato T, Katagiri K, Gohbara A, Inoue K, Ogonuki N, Ogura A, Kubota Y, Ogawa T: In vitro production of functional sperm in cultured neonatal mouse testes. Nature 471, 504-507 (2011)

*この研究は、文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究「配偶子幹細胞制御機構」および基盤研究(C)、横浜市立大学先端医科学研究センター研究開発プロジェクト、横浜総合医学振興財団からの研究補助金により行われました。
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