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大関泰裕教授の研究チームが、再生モデル動物ニッポンウミシダに、糖鎖医工学研究推進の可能性を有する新たなレクチンを発見

2011.04.26
  • プレスリリース
  • 研究

概要

大学院生命ナノシステム科学研究科教授 大関泰裕(糖鎖生物学、ゲノムシステム科学専攻)の研究チームは、文部科学省共同利用・共同研究拠点事業「海洋生物学研究共同推進拠点(JAMBIO)」で、本邦で開発されたモデル動物ニッポンウミシダから、世界で初めて糖鎖結合タンパク質「レクチン」の単離と糖鎖結合のプロファイル化に成功しました。本結果は、本学博士課程大学院3学年生松本亮(現博士)、JSPS外国人特別研究員S.M.Aカウサル博士(バングラデシュ国立チッタゴン大准教授)、客員研究員藤井佑樹博士(現ミネソタ大研究員)、教授安光英太郎と、マイアミ大研究員柴田朋子博士(現本学客員研究員)、東京大学三崎臨海実験所(所長赤坂甲治)採集室、横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校(校長佐藤春夫)2学年生中島大暁、同教諭小島理明、藤田保健衛生大総医研教授松井太衛、同教授浜子二治とともに論文に公表され、生命科学や糖鎖医工学研究の発展に有用な可能性をもたらす成果として、2011年3月23日付け文科省共同利用・共同研究拠点事業の「研究トピックス」で報じられました(下記リンク)。

本研究は、文部科学省共同利用・共同研究拠点事業「海洋生物学研究共同推進拠点」公募研究配分金、JSPS科学研究費補助金「基盤研究(C)」「特別研究員奨励費」(代表)および本学「戦略的研究推進費(多様性ゲノムリソースに基づく機能性物質スクリーニングシステムの構築)」(分担)により行われました。

研究概要

レクチンは、ヒトからウイルスまで幅広く存在し、遺伝子、タンパク質に続く第三の生命鎖である「糖鎖」と弱く結合して、細胞増殖や免疫、感染などの生命現象に作用するマルチな働きを持つタンパク質です。そのユニークな機能から、基礎研究をはじめ、活性化リンパ球治療、特殊な糖タンパク質や細胞の検出など、生命科学や医療の分野で活用されています。再生や癌化の際に、糖鎖とレクチンの関与が示唆されるなど注目が集まる中、上記研究チーム(図1)は、ゲノムが明らかなモデル動物を用いてレクチン研究を行い、糖鎖の観点から生命や病態の仕組みを明らかにしようと考えました。それに選ばれたのが、近年実験モデル化に成功した棘皮動物の一種、ニッポンウミシダでした(図2)。これはヒトと同じ後口動物で、進化的にはウニやナマコよりもはるかに古い有柄亜門に属すが、腕の再生や神経の発達に優れ、基礎生物学から医学に至るライフサイエンス研究の幅広い展開の可能性を有した実験動物です。

ウミシダの実験動物化は長い間不可能でしたが、柴田朋子博士が中心となり、2007年に東京大学三崎臨海実験所で完全培養が成功しました(同氏はこの成果で2009年Zoological Science誌優秀論文賞を受賞。下記リンク)。現在は、文科省ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)のモデル動物に移管され、ゲノム解析が進み、本邦で開発された実験動物として国内外の研究者に提供されています。今回の研究の成功も、ウミシダが実験動物化され、生化学的に均一で大量の供給が可能になったことによります。

本研究は当初、大学院生松本亮の博士号研究として開始されましたが、しばらくの間は精製方法の確立に難航しました。やがて分離技術の改良でmgレベルのレクチンが大量に得られ、次いで、糖鎖を網羅的に調べるグライコミクス解析のフロンタルアフィニティクロマトグラフィー技術(図3)により、どのような糖鎖と結合するかを調べ、結合プロファイルのマップ化が完成しました(図4)。その結果、ウミシダレクチンは、脊椎動物の発生時に見出される2型N-アセチルラクトサミン(Galβ1-4GlcNAc)の分岐鎖や、鳥インフルエンザウイルスが寄主に感染の際に重要なシアリルラクトサミン(Neu5Acα2-3Galβ1-4GlcNAc)と結合をすることが判明しました。一方、1型ラクトサミン(Galβ1-3GlcNAc)やヒト型シアリルラクトサミン(Neu5Acα2-6Galβ1-4GlcNAc)糖鎖には全く結合せず、従来知られてきたレクチンに比べ、非常に高い糖鎖認識の選択性を有し、糖鎖との結合力も一般のレクチンの10から100倍もの強さを持つことが測定されました。これらの結果から、進化的に古い祖先に由来するウミシダから発見されたレクチンが、実は動物界のレクチンとして非常に特殊で有用な性質を持っていたことが研究成果として明らかになりました。

今後の期待

結合力の強さに加え、ヒトの発生段階に特異的に出現する2型N-アセチルラクトサミン分岐型糖鎖(Ii抗原)や鳥インフルエンザウイルスの感染に関わる2-3シアリルラクトサミン糖鎖に対する高い選択性を活かし、血液や組織から特別な糖タンパク質を検出するツールの開発、特定の細胞の標識や接着技術に役立つと期待される。糖鎖ゲノム多様性の観点から、EST解析が行われたウミシダと同じ亜門に属す深海性ウミユリ属のレクチンを次に解析し比較することで、ヒトを含む後口動物のレクチンや複合糖質など糖鎖関連遺伝子の起源や進化、再生への糖鎖認識の重要に関する解明等が期待されます。
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