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生命医科学研究科 菊地杏美香さんの論文がNature communicationsに掲載!DNMT1の新規の活性化機構の分子メカニズムを解明

生命医科学研究科 構造生物学研究室 博士前期課程1年の菊地 杏美香さんら研究グループは、DNMT1の新規の活性化機構の分子メカニズムを解明し、DNAメチル化の維持の破綻で生じるがんをはじめとした疾患に対する新たな薬剤開発の基盤となる研究成果について発表し、研究成果が「Nature communications」に掲載されました。
Nature communicationsは、自然科学の全分野を扱っている非常にレベルの高い学術雑誌です。

掲載雑誌/論文タイトル
Nature communications/Structural basis for activation of DNMT1
(和訳)細胞運命を決定するタンパク質DNMT1の活性制御機構

菊地さんに論文・研究についてお聞きするとともに、本学が実施する「理数マスター育成プログラム」を修了しているということで、お話を伺いました。

—今回、菊地さんが筆頭著者の論文が公刊されるとのことですが、論文の概要を教えてください。
(図)DNMT1の活性化機構の概略図
左:不活性化状態のDNMT1のトグルポケット近傍の模式図。DNA認識ヘリックスがトグルポケットに入り込む。右: 活性化状態のDNMT1のトグルポケット近傍の模式図。活性化ヘリックスがトグルポケットに入り込むことがDNMT1の活性化に必須。

DNAメチル化の維持に関わるタンパク質DNMT1*1とその活性化因子であるユビキチン化*2されたヒストン*3H3、片鎖メチル化DNA*4の複合体構造をクライオ電子顕微鏡*5で決定しました。
本成果は、DNMT1の新規の活性化機構の分子メカニズムを解明し、DNAメチル化の維持の破綻で生じるがんをはじめとした疾患に対する新たな薬剤開発の基盤となります(図)。

論文について詳細に見たい方は以下のURLよりご確認ください。
https://www.yokohama-cu.ac.jp/news/2022/202211arita_natcommun.html

*1 DNMT1:
片鎖メチル化DNAを基質とし、DNA中のシトシン塩基にメチル基を転移する反応を触媒する酵素。DNA維持メチル化に必須のタンパク質であり、その機能の異常は細胞のがん化に関わるため創薬のターゲットとなっている。

*2 ユビキチン(化):
76個のアミノ酸からなる球状タンパク質で、基質となるタンパク質のリジン残基に共有結合を介して付加される翻訳後修飾因子。基質に付加されたユビキチンのリジン残基には、さらにユビキチンが数珠状に付加されることがあり、タンパク質分解やシグナル伝達、DNA損傷修復などの様々な生命現象を制御する。

*3 ヒストン:
真核生物の染色体を構成するタンパク質で、H1、H2A、H2B、H3、H4の5種類が存在する。このうち、H2A、H2B、H3、H4を2分子ずつ含む8量体はヒストンコアとよばれ、これにゲノムDNAが巻き付くことでヌクレオソームという構造体を形成する。ヒストンはメチル化やユビキチン化などの様々な化学修飾を受け、遺伝子発現の調節に関与する。

*4 片鎖メチル化DNA:
哺乳類のDNAメチル化はCG配列中におこるので、2重鎖DNAの両鎖に対称的にメチル化が起こる。DNA複製の過程では、DNAポリメラーゼはメチル化の情報を新生鎖DNAに継承できないため、親鎖のみがメチル化された片鎖メチル化DNAが一過的に生じる。

*5クライオ電子顕微鏡:
凍結した生体分子に電子線を照射し、試料の観察を行う手法。試料の結晶化が不要なため、複合体等の大きな分子量のタンパク質の動的な構造解析が可能になる。

—菊地さんは、本学の「理数マスター育成プログラム」を修了されているという事ですが、今回の研究や論文をまとめる上で、役に立ちましたか?

もちろんです。理数マスターを受講することで、学部の早い段階から研究における基礎技術の習得や自分の研究に関係する学術論文の閲覧、自主研究の報告書の作成を経験しました。これにより、研究計画の立て方や研究結果のまとめ方などを習得でき、スムーズかつ質の高い研究活動ができました。これには、理数マスター育成プログラムでの経験が大変役に立ったと考えています。

※「理数マスター育成プログラム」について※
高い研究意欲を持つ希望者を対象に、プログラム受入から研究室配属、大学院進学に至る長期的なスパンでの研究活動を支援することにより、将来の科学技術を担う人材育成を目指し設置されたプログラムです。
https://www.yokohama-cu.ac.jp/univ/activity/people_development/tt534t0000000bzu-att/18-38056_YCU_risu.pdf

—なぜ「理数マスター育成プログラム」を受講しましたか。
理数マスター修了証授与式

理数マスター育成プログラムは、大学受験で志望校を検討していたときに知りました。大学入学前から創薬に関係する研究がしたい!と思っていたので、学部の早い時期から研究に触れられるプログラムがとても魅力的に感じました。また、先輩方の自主研究発表を聞いて、私も先輩方のような面白い研究がしたいと思い、本学への入学と理数マスター育成プログラムへの受講を決めました。

—今回の研究や論文をまとめる中で、特に苦労された点をお聞かせください。
連携大学院である理化学研究所のクライオ電子顕微鏡を用いた測定

本研究では、「いかに生体内に近い構造情報を取得できるか」という点で特に苦労しました。まず、分子の大きさや柔軟性を考慮して、クライオ電子顕微鏡で複合体の構造決定を試みました。また、ヒストンH3にはユビキチンが結合できる箇所が複数あるのですが、DNMT1が特異的に認識する箇所にだけユビキチンが結合するように調製しました。さらに、DNAが結合したときのDNMT1の構造を見たかったので、報告されている先行研究をヒントにDNAをデザインしました。

今回の論文掲載について菊地さんと指導教員である有田恭平教授からコメントをいただきました。
菊地 杏美香さんのコメント

本研究成果が、「Nature Communications」への論文掲載されることについて、大変光栄であり、嬉しく思っております。本研究および論文の作成においては、有田先生をはじめ、構造生物学研究室のみなさま、共同研究者の方々のご支援、ご協力によって実現できたものであり、この場をお借りして御礼申し上げます。今後も本研究成果をさらに発展させ、入学前からの目標であるがんなどの疾患に対する治療法の確立など、社会貢献に向けた研究に取り組んでいきたいと考えております。

指導教員である有田恭平教授のコメント

よくやった!おめでとう!

この研究は菊地さんが主体となってサンプル調製や構造解析を行いました。理数マスターを通して研究を進めるための技術や論理的な思考を身につけました。こうした地道な努力によって、学部4年生から始めた研究を権威ある学術誌で発表することができました。菊地さんの研究力を思う存分発揮して得られた成果だと思います。今回の研究を通していくつかの場面で、やっぱり研究は楽しい!と思えることがありました。特に立体構造情報をもとにわずか2アミノ酸残基の変異を導入しただけで、DNMT1の著しい活性の消失が見られた時にとても興奮したのを覚えています。また次のドキドキするような新しい結果に向かって研究に励んでほしいと思います。また、この研究に携わってくれた数多くの学生さんに感謝し、彼らの貢献をとても誇りに思います。共同研究者の先生方のサポートに心から感謝します。この場を借りて深く御礼申し上げます。

最後に受験生に向けてメッセージをお願いいたします。

私がYCUに入学して良かったと感じた点は3点あります。
1つ目は、「理数マスター育成プログラムの受講」です。早い段階から研究活動を開始し、ただ研究の基礎技術を習得しただけでなく、研究する楽しさも知ることができたと感じていて、それが今の研究のモチベーションに繋がっています。
2つ目は、「研究設備の充実」です。私の所属する鶴見キャンパスは理化学研究所と隣接しており、本研究でも使用したクライオ電子顕微鏡など、研究を行う上で大変恵まれた環境であるなと感じております。
3つ目は、「人との距離が近い」です。YCUは比較的小規模な大学ですが、小規模だからこそ、先生方も学生一人ひとりと向き合って下さるので、きめ細やかな指導をしていただけていると感じています。
YCUでは、自分が挑戦してみたい!と思ったことを実現できる大学です。受験勉強は辛いこともありますが、夢に向かっての第一歩だと思うので、悔いのないよう邁進してください!

ヨコ知リ!1問1答
素晴らしい研究成果をあげた菊地さんも数年前は受験生。受験生時代のことを1問1答でお聞きしました。

1.YCUをいつ知った?
⇒高校3年の秋です。
2.なぜYCUを選んだ?
⇒大学の文化祭に行って、雰囲気が良いなと感じたからです。
3.試験前日の過ごし方は?
⇒かつ丼を食べました。
4.センター試験の結果はどうだった?
⇒あまり良くなかったです。
5.試験当日のマストアイテムは?
⇒いつも使っているシャーペンと、消しゴム
6.おすすめ参考書
⇒鎌田の理論化学の講義
7.1番勉強した場所・時間帯
⇒リビング・夜
8.試験当日の失敗談
⇒かつ丼を食べたせいか、朝胃もたれしてしまいました。
9.受験勉強中のリラックス方法は?
⇒好きな音楽を聴くことです。
10.受験勉強中、よく聴いた曲は?
⇒ONE OK ROCKさんの、「じぶんROCK」です。

(2022/11/29)

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