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生命ナノシステム科学研究科 生命環境システム科学専攻の三上 雅史さんが日本植物細胞分子生物学会で、2017年度学生奨励賞を受賞し、8月29日~31日に開催された第35回日本植物細胞分子生物学会で受賞講演を行いました。

ー今回は、どのような内容を講演されたのでしょうか?

「CRISPR/Cas9を用いた植物ゲノム編集技術の開発」というタイトルで受賞講演を行いました。
近年、ゲノム編集技術は植物の基礎分野や植物の品種改良を大きく発展させる技術として期待されています。このゲノム編集という用語は、CRISPR/Cas9と呼ばれる人工ヌクレアーゼの登場によって、広く知られるようになりました。
私は2013年4月(学部4年生)から土岐精一先生の研究室に所属していますが、CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集の論文がヒト細胞で初めて報告されたのは2013年1月であったため、このCRISPR/Cas9の技術を植物に適応させることが卒業論文のテーマでした。今回の受賞講演では、学部4年生から現在まで行ってきたCRISPR/Cas9を用いた植物ゲノム編集技術について講演しました。約4年半分の研究成果を講演時間15分にまとめる必要がありましたので、私がどのような着眼点をもって研究テーマに取り組み、研究を行ってきたかという部分をポイントにして内容を構成しました。
今回の受賞にあたって4年半に渡る研究の中で、ご指導をしていただいた土岐先生、農研機構 生物機能利用研究部門 遺伝子利用基盤研究領域 先進作物ゲノム改変ユニットの方々、および共同研究していただいた多くの研究者の方々に心より御礼申し上げます。

受賞講演の内容のほとんどは、論文として報告致しました。
(OPEN ACCESSのみリンクを記載)

1) Parameters affecting frequency of CRISPR/Cas9 mediated targeted mutagenesis in rice.
Mikami M, Toki S, Endo M.
Plant Cell Rep. 2015 Oct;34(10):1807-15. doi: 10.1007/s00299-015-1826-5.

2) Comparison of CRISPR/Cas9 expression constructs for efficient targeted mutagenesis in rice.
Mikami M, Toki S, Endo M.
Plant Mol Biol. 2015 Aug;88(6):561-72. doi: 10.1007/s11103-015-0342-x.
https://link.springer.com/article/10.1007%2Fs11103-015-0342-x

3) Precision Targeted Mutagenesis via Cas9 Paired Nickases in Rice.
Mikami M, Toki S, Endo M.
Plant Cell Physiol. 2016 May;57(5):1058-68. doi: 10.1093/pcp/pcw049.
https://academic.oup.com/pcp/article-lookup/doi/10.1093/pcp/pcw049

4) Highly specific targeted mutagenesis in plants using Staphylococcus aureus Cas9.
Kaya H*, Mikami M*, Endo A, Endo M, Toki S. (* co-first authors)
Sci Rep. 2016 May 26;6:26871. doi: 10.1038/srep26871
http://www.nature.com/articles/srep26871

5) Efficient targeted mutagenesis of rice and tobacco genomes using Cpf1 from Francisella novicida.
Endo A*, Mikami M*, Kaya H, Toki S. (* co-first authors)
Sci Rep. 2016 Dec 1;6:38169. doi: 10.1038/srep38169.
http://www.nature.com/articles/srep38169

ー「日本植物細胞分子生物学会」について教えてください

植物組織培養、分子生物学および細胞工学の基礎研究とその応用開発研究の発展をめざして、理学、農学、薬学、工学など多方面の分野における研究者の協力と研究情報の交流を図ることを目的にした学会です。

—受賞講演、授賞式に参加された際の感想やエピソード等あれば、お聞かせください

これまで様々な学会に参加し、受賞講演を聞くことは何度もありましたが、今回は私自身が受賞講演することになり、これまでの学会発表以上に緊張しました。また、今回の授賞式と受賞講演の会場は大宮ソニックシティホールで、講演後の懇親会は鉄道博物館(ナイトミュージアム)で行われましたので、普段では経験できないようなことができました。
今回の日本植物細胞分子生物学会学生奨励賞には、私を含め3名の博士課程の学生が選出されました。同学年の研究成果を聞いてみて、「すごいなぁー!」と思う気持ちの一方で、「もっと明日から頑張らないとダメだなー」と研究分野は違いますが変に対抗心を燃やしてしまいました。

—今後の研究活動等の抱負や目標について教えてください

日本植物細胞分子生物学会学生奨励賞の受賞対象には「優れた研究を遂行し、将来の活躍が期待される学生会員に対して」と記載されていますので、受賞するにあたって、推薦していただいた土岐先生や学会の選考委員会の先生方の期待に応えることができるように今後も研究を頑張りたいと思います。
ゲノム編集技術は飛躍的な発展をしている分野であり、CRISPR/Cas9を用いた新たなゲノム編集技術が動植問わずにこれまで確立されてきています。しかし、植物の分野では、標的組換え(Gene Targeting)と呼ばれるゲノム編集技術の効率が低く、この技術によるゲノム編集ができた植物種が少ないというのが現状です。この標的組換えでは望むべき部位に望むべき変異を導入できるようになるため、植物の品種改良や植物の基礎分野を一層発展させる技術です。今後は、標的組換えの効率を向上させ、多くの植物種で可能になる汎用性の高い技術の確立を目指したいと思います。


ー生命環境システム科学専攻を目指す、後輩に向けてメッセージをお願いします

生命環境システム科学専攻では、理化学研究所や海洋研究開発機構、そして私が所属している農業・食品産業技術総合研究機構(以下、農研機構)と連携大学院を組んでいます。生命環境システム科学専攻や理学系の生命環境コースを目指す方や在学生のほとんどは、金沢キャンパス内の研究室か木原生物学研究所内の研究室に配属する(または、している)と思います。学生の多い大学の研究室の雰囲気と比べると、このような研究機関の雰囲気というのは、かなり異なっています。国内の研究機関への配属を薦めるわけではありませんが、せっかく連携しているので、在学中に一度ぐらいは国内の研究機関の研究室を見学してみるといいかもしれません。農研機構は茨城県つくば市にありますので、金沢八景からだと電車で2時間ほどかかりますが…。
また、生命環境システム科学専攻(と、生命環境コース)では、植物・動物・微生物・海洋生物等と扱う生物種も多様ですし、研究分野も多岐にわたっています。研究分野が異なる分だけ、そこにいる研究者や学生の視点も異なっていますので、学生通しで交流を深めて、自分の研究でディスカッションしたり、指導教員だけではなく、様々な教員の方に研究内容について相談したりすることができるようになると、より幅広い視野で研究ができると思います。1人で研究の最初から最後までのことをこなすことはほとんど不可能だと思います。研究室のメンバーはもちろん、学会等で様々な分野の研究者から意見を聞いて、すばらしい研究成果を出してください。

土岐先生からのコメント

学生奨励賞はこれまでの研究を評価として授与されますが、今後の研究に対する激励だと思います。ゲノム編集は競争の厳しい分野ですが、単に先を急ぐだけでなく、ユニークなアイデアを基に研究を行い、植物科学の基礎と応用の発展に貢献できる研究者に育って欲しいと期待しています。

(2017/9/19)

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