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【活躍する市大生】第129回講演会日本育種学会で優秀発表賞を受賞した三上さん

2016.08.17
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  • 学生の活躍

第129回講演会日本育種学会で優秀発表賞を受賞した三上さん

第129回講演会日本育種学会で、生命ナノシステム科学研究科 生命環境システム科学専攻の三上 雅史さんが優秀発表賞を受賞しました。三上さんに、今回の受賞について伺いました。 

今回の第129回講演会日本育種学会では、どのような内容を発表されたのでしょうか?

 「単一のプロモーターによるCas9-gRNAを用いたイネゲノム編集」というタイトルで発表しました。
近年、あらゆる生物の設計図、遺伝子を自在に操作するゲノム編集技術に注目が集まっており、ゲノム編集技術の革命の担い手となったのがCRISPR/Cas9でした。CRISPR/Cas9には、Cas9ヌクレアーゼ(DNA二重鎖切断を担う)とguide-RNA(gRNA:標的配列の認識を担う)で構成されています。CRISPR/Cas9をDNAとして植物に導入する場合、Cas9とgRNAを独立した発現カセットとして発現させる方法が一般的です(Fig.A)。しかし、gRNAを発現させるプロモーターの知見は植物では少ないため、現行のCRISPR/Cas9の発現系(Fig.A)では、幅広い植物種への適用や高精度なゲノム編集には適していないことが示唆されました。そこで、私はCas9とgRNAの2つの発現カセットを1つにしたCRISPR/Cas9の発現系を構築しました(Fig.B)。この発現系では、リボザイムと呼ばれるRNAを自己切断する配列によってCas9とgRNAを連結させており、イネにおいてこの発現系が現行の発現系と遜色なくゲノム編集が可能であることを示しました。この発現系の発表により、イネやシロイヌナズナのようなモデル植物以外のゲノム編集がまだ成功していない植物種を研究している人たちに注目され、評価されたことが、受賞理由だと考えています。
なお、この賞は日本育種学会における研究発表で若手研究者(学部学生,大学院生,ポスドク,任期付助教など)の研究を奨励する目的で,優れた研究発表を選び日本育種学会優秀発表賞として表彰されるものです。日頃より、ご指導をくださっている土岐精一先生、および農研機構(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構) 生物機能利用研究部門 遺伝子利用基盤研究領域 先進作物ゲノム改変ユニットの方々に深く感謝いたします。 

「日本育種学会」はどのような会なのでしょうか?

育種に関する研究及び技術の進歩、研究者の交流と協力、および知識の普及をはかることを目的にした学会です。本学会は毎年2回、春季と秋季に開催され、今回で129回目となりました。

 

今回の学会に参加することになった経緯や、参加された際の感想、エピソード等あれば、お聞かせください。

第129回目の日本育種学会は横浜市立大学の金沢八景キャンパスで行われました。また私自身、これまでに口頭発表を3回行っており、第125回日本育種学会にも優秀発表賞を受賞しました。この学会では、育種分野以外にも遺伝学や発生学等の多くの研究分野の発表があります。
この学会を通して、これまで多くの共同研究を行うこともできましたので、研究以外の多くの経験を積むことができました。 

事前準備など特に意識した点や工夫した点、苦労した点があれば、お聞かせください。

 これまでの研究では、モデル植物であるイネにおいて高効率にゲノム編集が可能なCRISPR/Cas9の発現系の構築を行ってきました(Mikami et al., Plant Molecular Biology, 2015)(※1)。そのため、イネを用いている多くの研究機関や大学の研究室で、私たちが構築したCRISPR/Cas9発現ベクターを利用してもらっています。しかし、今回の研究ではイネ以外の植物種でCRISPR/Cas9を用いたゲノム編集を行うことが1つの目的でした。今回の発表では、イネの研究者だけではなく、幅広い植物種を扱っている研究者の皆さんにも興味を持っていただくことを念頭にもって、短い発表時間の中で、どうやって自身の研究をアピールするかを入念に考えました。

研究室では普段どのような研究・勉強をされているのでしょうか?

現在は、植物のゲノム編集技術をより高精度・高効率に行うための研究を主にしています。また、私たちの研究分野であるゲノム編集は、年世代も掛け合わせて品種改良を行う人工交配よりも、ずっと短期間で目的の品種改良を実現可能なため、実用性の高いイネをゲノム編集で作出する研究も行っています。この分野は、植物のみならす動物でも飛躍的な発展を遂げているため、海外の研究機関に先を越されないように日々勉強しています。 

土岐先生からのコメント

 ゲノム編集の様な新たな分子育種技術の開発の為には、分子生物学、遺伝学、育種学の最新の知見の正しい理解の上に、独創的なアイデアを考案し、それを効率的に検証していくことが求められます。三上君はスピード感を持ってアイデアを具体化してきていますが、今後も歩みを止めることなく、汎用性が高くかつ長く利用される技術開発を目指して頂きたいと思います。
(※1)修士1年生の時に行っていた研究の成果を論文にまとめたところ、Plant Molecular Biologyという国際誌に掲載していただきました。 
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