脳外科医として診療にあたりながら、「切らない脳手術」とも呼ばれる集束超音波治療の研究に取り組む東島威史助教。麻雀が知能に与える影響をテーマに研究を行い、論文を発表したユニークな経歴も持ちます。脳への偏愛が詰まった著書「不夜脳」は12万部のベストセラーにもなりました。今回は、興味と好奇心を原動力に広がる研究の魅力についてお話を伺いました。
知りたいという興味を原動力に、挑戦を続ける脳外科医の研究
現在の研究テーマについて教えてください
2025年に横浜市立大学附属市民総合医療センター 機能神経外科チームの協力のもと、横須賀市立総合医療センターにふるえ治療センターを設立し、集束超音波治療という新しい治療を始めました。この治療は、人体に無害な超音波を、手のふるえの原因となっている脳の一点に集束させることで、脳の一部を変性させて、手のふるえを止めるという「切らない脳手術」です。この切らない脳手術が、脳にどのように作用し、どう変化していくかを知りたくて研究を始めました。手術前後の脳波などを比較し、脳にどのような影響があるか、症状と合わせて追跡しています。
研究者を志した理由やきっかけなどを教えてください
研究者という立場を強く意識したことはあまりなく、自分自身はあくまでも臨床医、つまり患者さんを診療する医師だと思っています。脳については学生時代から尽きることのない興味があり、もっと知りたいという欲求が常にそばにある感覚です。だからこそ臨床の現場で患者さんの話を聞き、その背景にある脳の働きをもっと理解したいという思いが、研究につながっているのだと思います。
どちらかといえば、麻雀に関する活動の方が研究と呼べるかもしれません。僕は約3年間、麻雀が人の知能にどのような影響を与えるかを調査し、その成果を論文として世に出しました。これが、僕にとって初めての論文です。
僕はただ麻雀が好きで、麻雀の素晴らしさをもっと世間の人に知って欲しいと思ったことが、研究のきっかけでした。
現在の研究テーマを決めたきっかけのようなものがあれば教えてください
集束超音波治療は、非常に画期的な脳手術であり、ニューロモジュレーション治療(脳や神経の働きを調整して症状を改善する治療)の一つのモダリティ(方法)だと感じています。侵襲度が低く(体への負担が小さく)、すぐに効果が現れて、遅れて副作用が出ることもない。そのため、脳機能の治療には非常に有用だと考えています。
現在は手のふるえなど、限られた病気に対してしか使用方法が確立していませんが、将来的には、現時点では治療法が無いような病気も含めて、もっとたくさんの患者さんに対して使えるようにしたいと考えています。
そのためには、集束超音波が脳に対してどのような影響を与えるのかをもっと知る必要があると思いました。特別なきっかけがあったというよりも、必要だと感じたことがそのまま研究につながっていった、という感じです。
研究の面白さや醍醐味などについて教えてください
やっぱり、「このことを知っているのは、現時点では世界中で自分1人だけだ」という感覚が醍醐味だと思います。初めて取り組んだ研究では、麻雀を1年間続けると、知能指数が8ポイント程度上昇することがわかりました。研究対象は5歳~15歳までの麻雀初心者の子どもで、この変化は、学校の成績でいえば100人中40位くらいだった子どもが20位以内に上がるようなイメージです。
知能指数の上昇にも特徴があり、特に集中力やコミュニケーション能力が伸びる傾向が見られる一方で、計算力は思ったほど伸びないなど、能力ごとに違いがあることもわかってきました。研究の途中からすでにそれを肌で感じており、検査をしながらも、「あれ、この方は特殊な事情がありそうだな」ということもわかるようになっていました。
麻雀が知能にどのような影響を与えるかについては、間違いなくあの時点では、僕が世界で一番詳しかったのではないかと思います。
学生たちが研究を進めていくうえで、心がけてほしいことなどについて教えてください
研究とは、1人で黙々とやり遂げるもの、というイメージがありました。だけど実際には、研究という行為は多くの人との関わりが大切であるという点が、想像と最も違っていたことでした。
仮説を立てるところから、方法のデザイン、そして実際にデータを集めるところまで、全ての工程において誰かの協力が不可欠です。とにかく、関わる人を大切にしてください。
一つのプロジェクトが終わったときに、「またこのチームで何かやりたいね」と、協力者がそんな気持ちになってくれるかどうかを、いつも考えて取り組んで欲しいです。それができれば、きっとどんな研究であっても、楽しくて仕方なくなると思います。
研究者にとって一番必要な素養(能力)は何でしょうか?
賢さを捨てること、言い換えるとアホになれることだと思います。英語で言うと、「Stay hungry, stay foolish」という有名な(僕が大好きな)言葉があります。
やり遂げたときのメリットだとか、プロジェクトにおける自分のメリットだとか、そんなことばかりを考えていては、研究はどんどん楽しいものではなくなってしまいます。
だからこそ、アホになれること、もう一度言い換えるならば、純粋な好奇心のままに動けること、それが研究者にとって大切な素養だと思います。
研究を続けるうえで、大切にしていることは何でしょうか?
成果や見返りを求めない、ということです。成果を求めると苦しくなるだけで、いつか息が詰まる。幸い、僕は研究で成果を出さなくても職を失わないという恵まれた状況にいるので、とことん楽しんでやりたいと思っています。
僕の大好きな漫画に、「モノ作りには、失敗することにかける金と労力が必要なんだよ」というせりふがでてきます。いい人生を作るために、たくさん頑張って、その結果失敗して、大笑いして、また次のチャレンジを続けていきたいです。
YCU受験生へのメッセージをお願いします
僕は東京工業大学や国立大学の医学部を合格しています。今でも脳外科医でありながら、研究者、麻雀プロでもあり、本を書いてそれがベストセラーになったり、テレビやYouTube番組にたくさん出演したりもしています。10月からはドイツでの海外留学にチャレンジします。日本にはない医療を学び、それを横浜市立大学に持ち帰るつもりです。
だけど、その一方で、その2つ以外の大学は滑り止めも含めて11か所全て不合格だったことも、麻雀大会では負け続けていることも、本の企画書をたくさん書いて、どこの出版社に相手にもされなかったことも、そうした失敗を知っている人は誰もいません。検索しても出てきません。
失敗した経験なんて、誰も興味もないし、知ってもすぐに忘れてくれます。人が知るのは、うまくいったことだけです。1勝99敗でも、人生は十分圧勝です。100の挑戦を続けてください。皆さんの今後の人生が実り豊かになることを、心からお祈りしています。
