
免疫細胞の中でも、白血球の一種であるマクロファージと単球の働きについて研究している、浅野謙一教授。免疫学および微生物学の未解決課題に挑み、難治性炎症疾患や感染症治療への応用を目指して研究に取り組んでいる浅野教授に、研究の面白さや醍醐味などについて教えていただきました。

微生物と免疫の関係を知り
新たな治療法開発に挑戦
現在の研究テーマについて教えてください。
「免疫細胞が炎症や病気の回復にどう関わるのか?」ということをテーマに研究をしています。例えば、細菌やウイルスなどの微生物が体に入ると、免疫細胞はそれを排除しようとします。でも、攻撃しすぎると今度は自分の体を傷つけてしまうことがあります。特に、感染症や慢性炎症では、免疫細胞の働きが病態を左右するため、うまくバランスを取ることが大切です。ここでポイントになるのが、「微生物と免疫の関係」を知ること。細菌やウイルスが体の中に侵入するとき、免疫細胞はそれを排除しつつも、自らの働きを適切に制御しなければなりません。微生物の戦略を知ることで、免疫の応答をより深く理解でき、新たな治療法の糸口が見えてきます。私は、免疫細胞が過剰な応答を抑え、炎症で傷ついた組織を再生する仕組みを理解することで、自己免疫疾患や炎症性疾患、難治性の慢性感染症などの治療法開発に挑戦しています。
研究者を志した理由やきっかけなど教えてください。
学生の頃は、まさか自分が研究者になるなんて思ってもいませんでした。免疫の研究に興味を持ったきっかけは、腎臓内科での診療経験です。腎臓内科には、高齢の慢性腎不全の患者さんが多く、治療しても元の状態に戻れないことがほとんどでした。そんな中で、自己免疫疾患が原因の腎炎は、若い人にも起こる病気で、早く診断して治療を始めれば進行を抑えられることがありました。その時に「もっと免疫の仕組みを知りたい!」と思い、大学院に進むことにしました。最初は、研究って地道で大変なイメージがあり、あまり面白さが分かりませんでした。でも、博士号を取った後、海外に留学してから考えが変わりました。世界中の研究者と一緒に研究することが楽しくて、研究を中心に続けていくことも悪くないなと思うようになり、いつの間にか基礎研究に本気で取り組むようになりました。

現在の研究テーマに取り組もうと思ったきっかけのようなものがあれば教えてください。
私たちの体では、毎日数兆個もの細胞がアポトーシス(細胞の自発的な死)という仕組みで消失し、その隙間を新しい細胞が置き換えていると考えられています。これは、体の機能を正常に保つために必要な細胞の新陳代謝です。
私は大学院で、マクロファージと呼ばれる自然免疫細胞が、死細胞を食べて処理する意義について研究しました。そして、マクロファージが、アポトーシス細胞を貪食したときは免疫を抑制し、ネクローシス細胞(外的要因などにより壊れて死んだ細胞)を貪食した場合は、反対に免疫を活性化することを発見しました。同じマクロファージが、状況によって正反対の働きをすることに興味を持ち、現在の研究テーマに取り組むようになりました。
研究の面白さや醍醐味などについて教えてください。
私たちは最近、従来の分類では説明できない「炎症を抑制する単球(白血球の一種)」を産生する機構が備わっていて、それらが、炎症でダメージを受けた組織の修復に携わっていることを明らかにしました。この単球を増やすメカニズムを明らかにして、病気の治療に役立てたい、というのが、いま研究を続ける原動力。免疫系と微生物のせめぎ合いを解析することで、生命の未解決課題が少しずつ明らかになる、この瞬間に立ち会えることが研究の醍醐味です。
学生たちが研究を進めていくうえで、心がけてほしいことなどについて教えてください。
研究は、よく言われるようなただの苦行では決してありません。自分だけの発見をする楽しさや、国境を越えて仲間と知識を共有する喜びがあるからこそ、多くの研究者が夢中になっています。最初は戸惑うこともあるかもしれませんが、少しずつ自分のペースで研究の面白さを見つけていってください。
研究者にとって一番必要な素養(能力)は何でしょうか。
思い込みや偏見といったバイアスにとらわれず、結果を踏まえて柔軟に仮説を組み立て直す柔軟性と、うまくいかないときも粘り強く挑戦する継続力が、研究者にとって必要だと考えています。
研究を続けるうえで、大切にしていることは何でしょうか。
大学院時代にご指導していただいた先生が、「研究は、論文や本を読んで、思いついたアイデアを自分の手で確かめていく以外に成功の近道などない」と言っていたことに心打たれました。忙しいときも、うまいアイデアが思いつかないときも、反対に思いがけず仮説通りの結果が出たように見えるときも、その規範を踏み外さないよう気をつけています。そして、研究に限らずどんな分野にも当てはまることでしょうが、手がけた仕事は、雨が降ろうと槍が降ろうと、最後までやりきる、ことを心がけています。
YCU受験生へのメッセージをお願いします。
現代では、気合いや根性が軽視される風潮があります。しかし、だからこそ、抜け駆けして努力すれば大きな差をつけられる時代でもあります。私は、医学部を卒業してから、医学部の外で、幅広い分野を学ぶ学生と長年勉強してきました。学部を問わず、生命医学に興味のある皆さん、横浜市立大学に入学して、ぜひ一緒に研究しましょう!

(2025/04/22)