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第5回データサイエンスセミナー〜ソフトバンク株式会社

データサイエンス学部では、実社会におけるさまざまなデータ分析の活用事例について学ぶ「データサイエンスセミナー」を開催しています。 今回は、ソフトバンク株式会社でビッグデータ戦略と人材採用を担当し、グループ会社株式会社Agoopで取締役とCTOを兼任する加藤有祐氏にお話を伺いました。

膨大なビッグデータから想像を超える価値を見い出す

今やスマホがなければ夜も日も明けない毎日。国内でiPhoneをいち早く販売をした企業として知られるソフトバンク。その経営理念は、「情報革命で人々を幸せに」というもので、これは創業以来、ずっと変わらないミッションなのだとか。
今回のセミナーでも、スマホからリアルタイムで質問が投稿できるスタイルを採り入れて進行。学生からの率直な意見が飛び込みます。
同社のイメージについて学生たちにアンケートを取ったところ、「携帯電話会社」だとする回答がまだ多いものの、現状ではIT企業として幅広く事業を展開。世界と繋がり、これからの市場を牽引していくことは必至です。
「IoTのデバイスが爆発的に増えていき、これから、さらに膨大なビッグデータが蓄積されていきます。AIによってこれまで想像もしなかった価値をそこに見いだすことができるようになる…私たちはそういうストーリーを信じている会社です」と加藤氏。

では、そもそも“ビッグデータ”の定義とはどんなものなのでしょうか。近年、ニュースなどでもよく耳にするワードですが、明確な定義があるわけではなく、企業向け情報システムメーカーのマーケティング用語として多用され、従来のデータベース管理システムなどでは記録や保管、解析が難しいような巨大なデータ群のことを言います。

ビッグデータはまず利用可能であるかどうかが大事

ビッグデータの3Vとして「Variety(多様性)」「Volume(容量)」「Velocity(速度)」があげられ、その価値が左右されますが、ユーザーの同意など法律や規制の壁があるため、それが「利用可能なビッグデータであるかどうか」が何より大切です。

Q&Aタイムでは、「個人情報保護法の改正で、匿名化されたものについては一定量利用できるようになったと把握していますが、実際にはどうですか?」という質問があがりました。
加藤氏は「確かに一部のデータの活用は進んでいますが、ユーザーが、そのデータが使われているということを認識しているかどうかが最も大事。ユーザーの大切なデータであることを認識した上で、セキュリティやプライバシーに考慮した活用が重要です。また、グループ企業間や事業提携によってデータシナジーは無数の可能性がありますが、これらも同様に、きちんと各社のデータポリシーやユーザーポリシーを考慮することもデータを扱う企業として重要なことと考えています。」

また、「俗にいう“データ”と“ビッグデータ”の違いは何ですか?」という質問には「これは難しい問題ですが…」と前置きをして、近年の傾向を加味した回答が返ってきました。
「小さいデータであっても役に立つものはあります。ただ、量を集めることで見えなかったロングテールが見えてきます」
ロングテールとは、売上の8割が、わずか2割のメイン商品や優良顧客によって占められているのに対し、残りのニッチな商品群や顧客層のことを指します。
「最近ではこうしたマイナー層の意見も貴重であるという考え方が重要視されるようになりました。そういう意味ではビッグデータの価値はとても大きいのです」(加藤氏)

ロングテールの少数派に注目することで見えてくるものがある

情報産業におけるビッグデータの活用事例は数限りなくありますが、今回は「位置情報」にフォーカスしてご説明いただきました。

ソフトバンクは2006年にボーダフォン株式会社を買収し、移動通信事業をスタートしました。当時は他社に比べ、ネットワーク品質も良いとはいえないうえ、どこが悪いのかをまだ把握しきれない状況で、作業員が車で移動しながら電波を計るといった人海戦術的な調査の時代もあったと言います。
しかし、スマホアプリなどの普及によって集められたネットワークのビッグデータで、原因の特定が可能になり、データ収集や確認のために人が現場に出向かなくても、通信機能の改善が次々となされていきました。

先程のロングテールを例にあげたように、通信が成功している80%を見るのではなく、残りの20%というマイナーな部分を見ることで、違う価値が生まれてくるというのもビッグデータの醍醐味。その結果、人件費など想像以上の費用対効果が期待できるばかりでなく、その品質そのものを数値化してユーザーにアピールすることができます。同社は、低料金プランでユーザーの度肝を抜いただけでなく、そのつながりやすさを武器にして、通信品質No.1の地位を築いたのです。

こうして集めてきた位置情報データを、今度は「流動人口データ」という切り口で利用した事例で見ていきましょう。

最短3分で知ることができる「流動人口データ」の活用事例

「流動人口データ」とは、いつ、どこで、どれだけの人がどのように移動しているかをデータ化したものを指します。例えば、住んでいる人や働いている人の数という統計データは普通に入手できますが、同社が扱う、リアルタイムで人の動きを追うデータは、季節変動や旅行者の流れなどを知るのにも適しています。
これがどのようなことに使われているかというと、観光、商圏分析、防災、都市計画などに利用されています。
徒歩や車での移動スピードや方向、時刻や滞在時間、混雑具合など、数多くの項目が可視化されているので、例えば「屋外の広告を打ちたい」という顧客に向けて、人々の滞在時間が長い場所を特定したい、という具合に、データが活用できるのです。
観光地や商圏の分析であれば、混雑ランキングや訪問者が、どの地域からどのくらいの期間滞在をしているかなどのデータを提供します。さらに災害時には、地震や豪雨によって遮断された道路状況、駅や避難所などをデータによって広い範囲で把握することに役立ちます。
情報サービスの進化を感じるのは、これらのデータを可視化するだけでなく、最短3分というリアルタイムで知ることが可能だという点です。

また、2年前には新しい試みとして、グループ会社hi Japan株式会社が、ホテルゲスト用にデータ使い放題のスマホレンタルサービス「handy」を導入。ホテルの部屋に専用のスマートフォンが置かれ、内線や部屋の室温のコントロールに使用するだけでなく、外に持ち歩き、観光のための情報を調べることができます。外国人観光客にはこの上ないすばらしいサービスとして注目されています。
このサービスから解析したデータを流動人口データに落とし込むと、国籍による違いも見えてくるというから面白い。よく立ち寄るエリアやジャンルの違いが表れ、そのビッグデータを次のステージに活かすことが想像できます。

データサイエンティストに必要な3つのスキルとは

スマホは「ディープデータ」と呼ばれる、さらに複雑なデータを取得できるように進化しています。これらは、加速度を検知して移動手段の推定や気圧を計り、天気予測や津波予測などに役立てることができます。
こうして収集した価値あるビッグデータを解析して有効活用するためには、AIに頼るだけでなく、優秀なデータエンジニアやデータサイエンティストの力量がモノを言います。

膨大な素材を用意し、整えて管理するのがデータエンジニアの仕事だとすれば、データから価値を生む作業をするのがデータサイエンティストです。
「みなさんがご自分の方向性を見極めていくときに、データエンジニアとして歩むのか、サイエンティストとして歩むのかの選択肢があると思いますが、データサイエンティストに関していえば、必要なスキルとして、ビジネス力、データサイエンス力、データエンジニア力の3つがあります。すべてを持ち合わせているのがいちばんかもしれませんが、その比率は人それぞれの持ち味で違うことがほとんどですから、組織としては、持ち味を補い合えるチーム構成でまとまっていけるのが理想的ですね」と加藤氏。

これほどIoTが拡大している現在でも、地球規模でみると、まだ約半数の人がネットワークを使えていません。ソフトバンクのグループ企業の一つであるAgoopでも、こうしたビッグデータを活用した技術を世界中のキャリアや衛星通信事業に繋げ、地球全体のネットワークをアップグレードしていくことーーそれが、同社が見つめている、そう遠くない未来なのです。

講師プロフィール:
ソフトバンク株式会社
テクノロジーユニット ビッグデータ戦略室 担当部長・人材採用部 担当部長
株式会社Agoop 取締役 兼 CTO
加藤有祐氏

中央大学にて土木工学を学び、修士卒。「情報革命で人々を幸せに」と語る孫会長に魅了され、2007年にソフトバンク株式会社入社。2009年にグループ会社株式会社Agoopを設立。iPhone向けスマホアプリ開発チームのリーダーとして数多くのアプリをリリース。2015年、同社のCTOに就任。現在はビッグデータとAIを切り口として、企画・開発から事業の構築を推進している。

(2019/07/01)

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