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第3回データサイエンスセミナー〜サントリーMONOZUKURI エキスパート株式会社

データサイエンス学部では、実社会におけるさまざまなデータ分析の活用事例について学ぶ「データサイエンスセミナー」を開催しています。
本年度第3回にあたるセミナーは、飲料や健康食品業界をリードするサントリーホールディングスから、人体への効果・効能研究を専門とするサントリーMONOZUKURI エキスパート株式会社の関口則子氏にお話を伺いました。

「サントリーと聞いて思い浮かぶもの」で年代がわかる!?

「皆さんは“サントリー”と聞いて、どのような製品が思い浮かびますか?」
関口氏からの質問に返ってくる学生の答えは、清涼飲料のブランドが多く飛び出します。 
ある一定の年齢以上の方からは、おそらく、「サントリーといえば、もちろんウイスキー」という意見が多いはずですが、20代以下の若い世代は、伊右衛門やCCレモンなどの清涼飲料をイメージするでしょう。

創業120年の歴史をもつサントリーは、実はワイン事業から始まりました。驚く事に約100年前に、近年、絶大なブームを巻き起こしているウイスキーを始め、80年代には看板商品の1つであるウーロン茶を発売しました。そして、消費者の健康志向が高まる中、サントリーは長年にわたる食の科学的研究や品質管理技術を礎として健康・ライフサイエンス分野の事業に参入し、1993年にゴマの健康食品「セサミン」を、2006年には特定保健用食品として「黒烏龍茶」を発売しました。

今回のセミナーでは、“健康”を切り口として開発され、ヒット商品となった『伊右衛門 特茶』と『黒烏龍茶』を取り上げ、商品開発のプロセスで、データがどう生かされてきたかを、データ解析のスペシャリストである関口氏に教えていただきました。

トクホマーク取得のために最も重要な検証データの有効性

食品や飲料のパッケージについている、人間が両手をあげて伸びをしているようなマーク。消費者の認知度もだいぶ高まってきた「特定保健用食品=トクホ」と呼ばれるこのマークは、有効性、安全性などの科学的根拠を示して、国の審査のもとに消費者庁の許可を受けた食品のことを指します。

このトクホの許可を受けるためには、その商品が人体の健康にとって効果的であるというデータに基づく証明が必要です。 トクホ開発には①素材探索→②作用メカニズムの検証→③人での効果・効能、安全性確認→④トクホの申請・許可取得というプロセスをたどります。

では、普通の『伊右衛門』と比べ、トクホのマークが表示されている『特茶』は、どんな健康効果が期待できるのでしょうか。
『特茶』のケースでは、①の素材は《ケルセチン配糖体》という関与成分。ケルセチンはブロッコリーやタマネギなどに含まれるポリフェノール成分で、抗酸化作用や血圧低下作用など、さまざまな生理作用があることが報告されており、同社はその脂肪分解酵素を活性化させる抗肥満作用に着目。
その作用メカニズムも科学的に証明されています。
同氏の所属する部門では、③の人での効果・効能の証明を行っています。まず、「ケルセチン配糖体は脂肪を減らす効果がある」という仮説を立て、その因果関係を証明するため、やや肥満(BMI25〜30未満)の被験ボランティア200名(被験者)を2グループに分け、ケルセチン配糖体を配合した飲料、配合していない飲料を1日1回、12週間継続摂取してもらい、CTスキャンを用いて腹部の脂肪面積を測定しました。
公平を期すために、2つの飲料の味や外観に差はなく、被験者にはどちらを飲んでいるのかわからないように実施しました。その結果、ケルセチン配糖体を配合した飲料を飲んだグループに脂肪面積の減少が見られ、体脂肪低減効果を確認することができたのです。

どのような試験をデザインするか? が腕の見せどころ

それよりも以前に、すでにトクホ飲料として発売されていたのが『黒烏龍茶』。サントリーでは、中国で古くから言われてきた「烏龍茶は脂を流す」という効能を科学的に証明しました。
『黒烏龍茶』は、烏龍茶に含まれる《ウーロン茶重合ポリフェノール(OTPP)》の作用により、食後の中性脂肪の上昇を抑制し、体脂肪の低減作用が期待できるというもの。
食後の中性脂肪値の検証には、血中の中性脂肪値が高めのボランティア20名を、さらに体脂肪値の検証には、やや肥満度の高い300名を対象に試験を実施。中性脂肪値の検証では、OTPP含有と非含有の飲料を飲んだ時のデータを、同じ人で比較するクロスオーバー法を採用。この方法は、効果を個人ごとに比較できるため、効果の個体差をなくすことができるという利点があります。
試験の結果、OTPP含有飲料は、食後の中性脂肪の上昇を抑制し、体脂肪の低減する作用があることを実証し、トクホ許可を取得しました。
これらはすべて、データサイエンティストによるデータ検証の結果があってこその産物です。

長年、ライフサイエンス分野のデータサイエンスに取り組んできた同氏によれば、
「データ解析には統計学の知識が必要ですが、物事をわかりやすく表現し、どう伝えていくかということも、データサイエンティストの大切な役割です。データという数字を現場(ビジネス)に適用して、共通の言語で語り伝えることができる、というバランス感覚も必要」だと言います。
「集計して結果を示すところだけがデータサイエンスだと思う人もいるかもしれませんが、どういったデザインの試験を組むのか、どのくらいの人数を対象とするかなど、試験の設計をするところもデータサイエンティストの重要な業務の一つで、ビジネス、バイオサイエンス、倫理などの専門家と共同して行う必要があります。例えば、被験者の数を増やすことは効果の検証において、統計学的には有用ですが、試験の期間や費用の増加につながりますし、試験にご参加いただく方々*にも、それぞれの生活やお仕事がありますので、ただ人数を増やせば良いわけではありません。」(関口氏)
*注:試験にご参加いただく方々には、試験の趣旨や内容を十分に説明し、ご理解していただいたうえで参加を決定いただいております。

「やってみなはれ」というチャレンジ精神が開発への足がかり

特定保健用食品は、その効果が科学的に認められていても、必ずしもそれを全面的に信頼する消費者ばかりではないことも事実。
学生の中からも、「トクホにおける安全性の評価」について質問がありましたが、それについても関口氏は真摯に答えてくださいました。
「トクホはもちろんのこと、開発商品の安全性については、社内基準を設けて確認しています。トクホ申請時には、これらを含めた様々な安全性評価を行った上で、消費者庁から許可を得ています。
一方で、データサイエンス的視点では、有効性は、作用が“ある”ことを証明するのに対し、安全性は、作用が“ない”ことを証明することになり、同じ理論を適用することはできません。実は、この“ない”ことを証明するような統計学的手法は確立されていないのが現状です。従って、この試験さえやっていたら大丈夫というものはなく、様々な試験を実施し、データを積み重ねて、総合的に安全性を評価していくことが必要だと考えています。とても奥が深いです。」

“研究”や“開発”といった新たな分野へのチャレンジは、それぞれ気の遠くなるほどの努力の積み重ねによって実現されます。近年見かけるようになった青い薔薇は、サントリーが20年以上をかけて開発したもの。サントリーには「やってみなはれ」というチャレンジ精神が受け継がれ、それが常に前へ進む原動力になっていると言います。
データサイエンティストの活躍の場は、医薬品や食品にとどまらずますます広がり、さらなる発展が期待されます。

講師プロフィール:
サントリーMONOZUKURIエキスパート株式会社
R&Dサポート部 HEセンター スペシャリスト
関口則子(せきぐち・のりこ)氏

中央大学 理工学部・数学科卒。同大学専門職大学院 戦略経営研究科でMBAを取得。サントリーに入社後、分社化された製薬会社アスビオファーマを経て第一三共へ転籍。4年前に再びサントリーホールディングスに入社。サントリーMONOZUKURIエキスパートで、飲料などの食品における人への効能・効果を研究している。一女の母。

(2019/3/1)

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