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自動車とデータサイエンスに密接な関係性。未来のクルマに生かされるAIの研究とは

データサイエンス学部では、実社会におけるさまざまなデータ分析の活用事例について学ぶ「データサイエンスセミナー」を開催しています。今回のセミナーは、日産自動車株式会社の上田哲郎氏に自動車業界とデータサイエンスの関係についてお話しいただきました。

ビッグデータでわかる電気自動車の走行可能距離

横浜市に本社を構える日産自動車株式会社は、「ニッサン インテリジェント モビリティ」という取り組みを通じて自動運転など多様化・複雑化するクルマの開発に力を入れています。「技術の日産」で、研究・開発の中心拠点として位置づけられるのが総合研究所です。安全で環境に優しいクルマや未来の新しいクルマ社会を目指し、電動化や知能化を柱とした先端技術研究を行っています。

2010年に発売したリーフは、ガソリンをまったく使わない100%電気自動車です。現在、世界中で約50万台が走行し、その多くはインターネットに接続されています。その主な目的はバッテリーの健康状態をチェックすること。世界的に見ても、これほどの規模で電気自動車を走らせているメーカーは稀です。自動車メーカーとしては、寒い場所、暑い場所、雨の多い場所など、さまざまな条件下でリーフのバッテリーが順調に稼働しているか知ることができます。また、ユーザーはメーカーが自分のクルマの状態を把握していることで、安心して運転できます。

収集しているデータはバッテリーの状態だけではありません。走行時間や距離など、さまざまな情報もビッグデータとして集められています。

電気自動車を購入する時、ユーザーが気になるのは自宅からどこまで無充電で行けるのかということ。メーカーは従来、フル充電での走行可能距離の約半分の長さを半径にして円を描き、これを充電なしで走行できる距離の目安として伝えていました。しかし、これでは海や山などの地形や高低差、交通渋滞などが考えられていないため、実際の走行距離との差が生じます。

そこで、収集したデータを使うことにしたのです。以前に近くの場所でリーフを購入したユーザーの走行履歴から、実際にどこまで走行できたか示してみると、より現実に近い信頼性の高い走行可能距離がつかめます。さらに、エアコンで電気を多く消費する夏の走行距離なども示すことができます。

ひとつのカメラで距離を計測し、高度な自動運転を実現

日産自動車は、2016年に日本初の高速自動車自動運転「プロパイロット」をリリースしました。先行車両との距離を測定して、アクセルとブレーキの操作を自動で行うことで、車速に応じた車間距離の維持や車線中央付近を走行するように制御する「インテリジェントクルーズコントロール」という画期的な技術を実現しました。

先行車両と自車の距離や周囲の状況を知るために日産自動車はサプライヤー(部品供給会社)と協力して単眼の可視光カメラを開発し運転アシスト機能ProPILOTとして車両に搭載しました。

単眼で先行車両との距離を知る方法は様々に提案されていますが、たとえば規格で決められた車のナンバープレートがどれくらいの大きさでカメラ画像に写り込んでいるかを調べることで、自車との距離を測ることができます。また、信号機や標識などそのほかの物体の画像からも距離の計測ができると言います。膨大なデータを基に、車種や車輌の大きさなども把握することが自動運転の開発に役立つのです。日産自動車は、このような最先端のデータ活用法を採り入れることによって、高い自動運転技術の開発を目指しています。

同研究所ではこれからのデータサイエンティストにアルゴリズムエンジニアとデータアナリストのスキルを期待しています。そこに求められるのは、コンサルティング力、データの理解力、情報収集力、プログラミング力、プレゼンテーション力だそうです。

講義を聞いた学生からは「自動車業界のデータサイエンス分野の取り組みが分かった」「ビッグデータの社会での活用についてぼんやりとした理解だったが、実際にどう使われているかよく分かった」という感想が聞かれました。

講師プロフィール:
日産自動車株式会社 総合研究所 モビリティ・サービス研究所
エキスパートリーダー 上田哲郎(うえだ・てつろう)氏

1990年九州大学総合理工学研究科情報システム学専攻修了。同年日産自動車株式会社 総合研究所に入社。クルマとITに関わる研究に従事。1999年筑波大学経営政策科学研究科企業科学専攻修了。博士(システムズ・マネジメント)。2008年〜2011年東京大学非常勤講師、筑波大学非常勤講師などを歴任。2010年マッシュアップアワード最優秀賞を受賞。

(2019/01/10)

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