診療科・部門案内

炎症性腸疾患(IBD)センター

手術について

当科における外科治療の特徴

当センターの手術件数は、年間80~100件となっており(潰瘍性大腸炎、クローン病、その他の腸の炎症性疾患)、横浜市内、神奈川県内でも有数の、炎症性腸疾患の手術に特化した外科として、歴史と経験を有しています。

2000年に当院が開設されてから2022年までの、潰瘍性大腸炎の累積手術数は608例、クローン病の累積手術数は871例となっています。

当センターの外科治療の特徴としては、炎症性腸疾患の病態理解を背景とした適切な術式の選択、緊急・準緊急手術への適切な対応、腹腔鏡手術の適応拡大、などが挙げられます。

潰瘍性大腸炎では、肛門機能温存と根治性のバランスを考慮した回腸嚢肛門管吻合術、難治例に対する一時的人工肛門を作成しない1期的手術の適応拡大、大腸癌合併例に対する、根治性と肛門機能を両立させる直腸粘膜抜去と回腸嚢肛門吻合術、クローン病では個々の病態に対する適切な術式(切除範囲、吻合法)の選択、腸管温存の工夫(狭窄形成術)、複雑痔瘻に対する、肛門機能を温存するseton(シートン)法などをおこなっています。

潰瘍性大腸炎の外科治療(手術)

潰瘍性大腸炎と診断されたかたのうち、5~25%は手術となっており、この病気では手術(外科治療)は決して特別な治療ではありません。
外科治療には、合併症や排便状態の変化が残るなどの心配点もないわけではありませんが、内科治療で得られない大きな改善や将来の長期間にわたる安定した状態が期待できます。

潰瘍性大腸炎の手術適応(手術すべき状態)

おもに、重症(ほおっておくと命に関わるような重篤な症状)、難治(内科治療を繰り返していても良い状態を保つことができない場合)、癌(大腸癌の合併、異形度の高い(=癌に近い)良性腫瘍(high grade dysplasia)の合併)、などが手術適応(手術すべき状態)です。

潰瘍性大腸炎の手術術式(方法)

潰瘍性大腸炎に対する手術は、大腸全摘術(大腸をすべて取る)、回腸嚢肛門(管)吻合術(小腸とおしりをつなぎなおす)、となります。これは、手術適応や、病変範囲の多少にかかわらず、共通です。ただし、手術を2回以上に分けておこなう(分割手術)場合があります。また、病状によっては、つなぎなおすことが好ましくない場合もあります。
現在は腹腔鏡手術を第一選択としています。ただし緊急手術や、全身状態、腸管の状態が良くない場合など、適応とならない場合もあります。

1 大腸全摘術

大腸は原則として全部とります。特に右側の大腸には一見病気がない場合があり、昔は大腸のいい部分は残して、悪い部分だけをとる手術をおこなっていました。
しかし、結局残した大腸がすぐに同じように悪くなることがわかってきたため、現在ははじめから全部とるのが標準的な方法です。

2 回腸嚢肛門(管)吻合術

大腸をとったあと、小腸と肛門をつなぎなおします。この時、端と端で直結すると、ためておく機能がないため、頻便や漏便が著しくなります。このため便をためる働きを期待して、小腸で袋を作り(小腸の終わりのほうを回腸といいますので、この袋を回腸嚢とよんでいます)、その袋と肛門をつなぎます。当科ではJの形をした袋を作っています(J型回腸嚢)。

術後しばらくは、つなぎめを保護するために肛門から回腸嚢の中へ管を入れておきます。
便はくだから袋にでていくよう になります。
おしりの穴と直腸(大腸の最後の部分)の間には、肛門括約筋で囲まれた、おしりを閉める働きをする部分が3~4cmくらいあり、ここを肛門管といいます。
厳密には大腸の組織はこの肛門管の真ん中あたりまでつながっています。
この肛門管を残すのが「肛門管吻合術」、肛門管の真ん中まで大腸の組織を全部取り除くのが「肛門吻合術」です。
当科では、重症例、難治例の再建方法は、主に「肛門管吻合術」を行っています。
一方、癌で手術する場合は、肛門管内の直腸粘膜を抜去し、「肛門吻合術」を行っています。

肛門管吻合術は、縫合不全(つなぎ目のもれ)が少ない、人工肛門を作らない1期手術の選択の幅がひろがる、肛門機能がよい(漏便が少ない)、のが特徴です。一方、厳密には肛門管の中に大腸の組織がわずかに残るため、 理論的にはその部分の炎症の再燃や発癌の危険性があります。多くのかたにとって、残った大腸の組織が問題となることはほとんどありません。ただし、大腸癌を合併したかたの場合は、癌の治療と予防を最優先としますので、肛門吻合術をおすすめしています。

3 人工肛門造設、分割手術

上記の手術を条件(難治例か全身状態の良い重症例、直腸肛門の病変が軽度、回腸嚢肛門管吻合術の場合)がそろえば1回で行います(1期手術)。 しかし上記条件が悪く、縫合不全(縫い目のもれ)の危険性が高い場合は、2回(もしくは3回)に分けておこないます(分割手術)。
分割手術では一時的に人工肛門が必要です。 人工肛門とは、腸をおなかに引っ張り出して縫い付けるもので、便がおなかから出てくることになります。
通常3~6ヶ月後に次の手術をおこない、原則として最終的に人工肛門は閉じることができます。 なお、1期手術で縫合不全となった場合も再手術で人工肛門をつくる必要があります。
癌に対する手術の場合は、回腸嚢肛門吻合術となりますので、全例分割手術(一時的人工肛門を要する)となります。

潰瘍性大腸炎の手術後の経過、入院期間

術後1週間は絶食です。その後肛門に入れた管から造影剤を入れてつなぎ目の状態を確認します。問題がなければ食事を開始します。流動食から、3分粥、5分粥、全粥と2日ごとに変更していき、全粥摂取が問題なければ退院です(退院後は通常の食事でかまいません)。腹部の管(ドレーン)、肛門の管はいずれも術後10日目ころに抜きます。順調にいくと術後約2週間で退院となります。 退院後は普通に日常生活をお送り下さい。職場復帰は業務内容によりますが、退院後2~4週間くらいの自宅療養ののち復帰されるかたが多いです。

術後の排便について、小腸の袋で代用はしていますが、大腸がないのでやはり頻便や漏便(しみ)が残ります。程度は、便の回数は平均6~7回、漏便(しみ)は数%です(術直後は便回数10回程度で瘻便ももっと多いです)。回数だけみると潰瘍性大腸炎が悪いときと変わらないと思われるかもしれませんが、術後は規則的になり、がまんもできますし、腹痛や出血も伴いませんので、ほとんどのかたは日常生活に差し支えない状態になります。
術後数ヶ月間少量の出血を伴うことがありますが、縫合部からのにじみですので心配ありません(自然に消失します)。

潰瘍性大腸炎の手術で病気は完治するのか?

潰瘍性大腸炎は、主に大腸に炎症をおこす疾患ですので、大腸を全摘してしまえば、概ね完治といってよい状態になることが期待されます。ただし厳密には、潰瘍性大腸炎の根本的な原因は解明されていない部分もあり、大腸以外の臓器にも類似の炎症を生じてくることがあります。炎症を生じる部位には、便を貯めるために作った回腸嚢、関節や皮膚、眼の組織などがあります。それぞれに対処法がありますので、困っている場合はご相談ください。

術後合併症

手術自体に問題がなくても一定の割合で合併症がおこります。下記が代表的なものですが、他の合併症もあります。
  1. 出血~輸血の可能性があります(数%)
  2. 感染症(創感染、腹腔内骨盤内感染、その他)
  3. 縫合不全(5%前後)~再手術、人工肛門造設
  4. 腸閉塞(7%前後)(術後腸管麻痺、癒着)
  5. 手術時周囲臓器損傷(小腸、尿管、神経、血管、女性では卵巣、卵管、膣など)
  6. 長期的な問題点~回腸嚢炎(要治療10%前後)、痔瘻(4%前後)、上部消化管病変(極めてまれ)

潰瘍性大腸炎の手術費用

特定疾患の受給者証をお持ちであれば、たとえ手術であっても、受給者証の上限までとなります。お持ちでない場合、現在当院でおこなっている潰瘍性大腸炎の手術はすべて保険適用となりますので、加入されている保険で指定されている負担割合となります。

クローン病の外科治療(手術)

クローン病の治療において中心となるものは、薬物療法、栄養療法などの内科治療ですが、年間30%程度のかたがなんらかの手術を必要としており、手術も常に考慮すべき重要な治療法のひとつです。最近では、クローン病の発症後、5年で10~20%のかたが手術を必要とするとされています。

クローン病の手術適応(手術すべき状態)

クローン病では、おなか(腹部)(腸管病変)と、おしり(肛門部)(肛門病変)に対して、手術が必要となります。

腸管病変

内科治療で改善の見込みが少ないものには手術が必要です。手術すべき病態として、狭窄(腸がせまくなり、詰まってしまう)、瘻孔(腸の病変が深くなり、隣の臓器に通り道をつくってしまう)、膿瘍(腸の病変が深くなり、感染をともなって膿がたまる)、出血、穿孔(腸に穴が開いて中身が漏れ出してしまう)、内科治療で改善しない活動性病変、癌、などが挙げられます。

肛門病変

クローン病は肛門病変を合併することが多いといわれています。
肛門内からその周囲に菌が入ることにより炎症反応(赤く腫れて熱を持って痛くなるような反応)をおこすことがあります。これが持続すると、やがて膿のたまりとなります(肛門周囲膿瘍)。さらにたまった膿が肛門周囲の皮膚や会陰部、膣などに破裂したり、切開排膿術をおこなったりしたあとに、通り道をつくってしまうと、 慢性的に膿が出続けるようになります(痔瘻)。

クローン病の手術術式(方法)

腸管病変に対する手術には以下のものがあります。術式や手術の範囲は個々の病態によって判断します。現在は腹腔鏡手術をおこなっています。ただし、病態によって適応とならない場合があります。開腹創を要する場合は、将来的に複数回の手術を要する場合もあり、その都度病変部位に近いところで開腹すると多数の創になったり人工肛門が必要となった場合の障害になったりするため、原則として正中切開(お腹のまんなかを縦に切る)となります。

  1. 腸管切除→切除した後、つなぎなおします(吻合)。吻合方法は、腸管の状態や残りの腸管の長さなどによって異なります。
  2. 狭窄形成術
  3. バイパス術
  4. 人工肛門造設術
  5. その他
肛門病変に対する手術には以下のものがあります。
  1. 肛門周囲膿瘍に対する切開排膿術
  2. 単純痔瘻(浅くてまっすぐな1本の痔瘻)に対する痔瘻根治術(クローン病では多発、複雑痔瘻となることが多く、この手術は適切でないことが多いです)
  3. シートン法(ドレナージ(膿を出すための処置)~痔瘻の開口部を開き、中を掃除して、ひもを留置しておく手術)(「シータ」は「剛毛」という意味で、剛毛をドレナージのひもとして利用したところから、この名称がつけられたようです) 現在当科では、幅2mmほどの薄いゴム紐を利用しており、術後はひもを入れたまま生活しますが、慣れると見た目の印象ほど違和感はなく、 生活への支障はほとんどありません。

クローン病の手術後の経過、入院期間

腸を縫った場合は術後5日~1週間は絶食です。その後問題がなければ食事を開始します。つなぎめの確認の検査をする場合もあります。流動食から、3分粥、5分粥とし、全粥で退院です。順調にいくと、術後約2週間で退院となります。
退院後は生活の制限はほとんどありません。普通に日常生活をお送り下さい。
食事は手術後としては、消化の悪いもの(海藻、こんにゃくなど)は控えたほうがいいようです。

シートン法では、翌日から食事を再開し、出血がなく、痛みがある程度落ち着けば術後3~4日で退院となります。
炎症が完全に落ち着いたら外来でひもを取ります。ひもを1ヵ所切るだけですので、一瞬で終了します。ただし、はやめに取ってしまうと再燃してしまうため、 数ヶ月間留置しておくことが多いです。

クローン病の手術で病気は完治するのか?

手術のよって、狭窄や瘻孔などの内科治療では改善しなかった病態が治癒します。しかし、残念ながらクローン病自体が根治するわけではありません。手術時に病変のなかった腸管に病変が出現することがありえます。このため、手術後も引き続き、クローン病の寛解維持療法(薬物療法、栄養療法など)が必要です。
いつからどの治療をおこなうかは、手術内容、術前の治療内容、術後の経過などによって判断します。

術後合併症

手術自体に問題がなくても一定の割合で合併症がおこります。下記が代表的なものですが、他の合併症もあります。
  1. 出血~輸血の可能性があります(数%)
  2. 感染症~創感染など
  3. 縫合不全~再手術、人工肛門造設が必要な場合もあります
  4. 腸閉塞
  5. 手術時周囲臓器損傷(小腸、尿管、神経、血管、女性では卵巣、卵管、膣など)
  6. その他(予測されない合併症については適宜説明を追加致します)
シートン法の合併症は、出血、疼痛、肛門機能障害(根治術よりはリスクは少ない)、 痔瘻増悪(肛門手術だけでは十分な改善がえられない場合があります)、などがあります。

クローン病の手術費用

クローン病も、潰瘍性大腸炎と同様で、特定疾患の受給者証をお持ちであれば、たとえ手術であっても、受給者証の上限までとなります。お持ちでない場合、現在当院でおこなっているクローン病の手術はすべて保険適用となりますので、加入されている保険で指定されている負担割合となります。