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連携NEWS「治療可能な男性不妊−精索静脈瘤」

2023年4月28日公開

生殖医療センター泌尿器科について

当院の生殖医療センターは県内で初めて「男性・女性一緒に治療可能(もちろん男性・女性それぞれ単独でも問題ありません)」な不妊治療施設として2012年4月に開設し、今春で11周年を迎えました。当センター泌尿器科は国内でも数少ない男性不妊領域の生殖医療専門医2人を含む、常勤4人体制で診療に当たっております。対象疾患は男性不妊症、性機能障害、がん治療前の妊孕性温存(精子凍結)、男性更年期障害を中心とし、特に男性不妊症・妊孕性温存は新患患者数・手術件数ともに国内でも有数の診療実績を誇っています。

男性不妊について

図1 不妊の原因内訳 Comhaire, et al.1996図1 不妊の原因内訳 Comhaire, et al.1996

まず、不妊症とは「妊娠を望む健康な男女が避妊をせず性交しているにもかかわらず、一定期間(一般的に1年間)妊娠しない状態」を指し、全カップルの約5組に1組がこれに当たると考えられています。不妊原因は女性に多いと考えられがちですが、実は約半数に男性因子が関与しています。2015年に行われた厚生労働省による男性不妊の実態調査によると、精液所見に何らかの異常を認める造精機能障害(82.4%)、勃起や射精にトラブルがある性機能障害(13.5%)、精路が何らかの理由で閉塞している精路通過障害(3.9%)が主な原因と考えられています。造精機能障害の大きな原因の一つに精巣静脈の拡張である精索静脈瘤があります。その中でも今回は特に精索静脈瘤につきまして取り上げていきたいと思います。

男性不妊の原因内訳

男性不妊の原因内訳
①造精機能障害 82.4%
  • 特発性
  • 精索静脈瘤
  • 染色体・遺伝子異常
    クラインフェルター症候群
    その他染色体異常
    AZF欠失
  • 薬剤性
  • 停留精巣
  • 低ゴナドトロピン性性腺機能低下症
②性機能障害 13.5%
  • 勃起障害(ED)
  • 射精障害(EjD)
③閉塞性精路障害 3.9%
  • 精巣上体炎後
  • 精管結紮後
  • 鼠径ヘルニア術後
  • 先天性精管欠損
  • 射精管・精囊の異常

精索静脈瘤

精索静脈瘤とは

精索静脈瘤は、一般男性の15%にみられる現象で、精巣静脈の逆流によりうっ血が起こることで精巣温度の上昇、酸素分圧の低下、酸化ストレスが生じ、精巣機能の低下が起こります。それに伴って
  • 精子濃度や運動率の低下
  • 精子のDNA損傷に伴う妊娠率低下や流産率の上昇
  • 陰嚢の痛み
などの症状が出現します。解剖学的に左側に発生することが多くあります。

精索静脈瘤の診断

精索静脈瘤の診断は、主に触診と超音波検査で行います。通常、立位での触診を行い、所見によって以下のように分類します。

グレード3 腹圧負荷なし視診で容易に診断可能
グレード2 腹圧負荷なし触診で触知可能
グレード1 腹圧負荷時に触診で触知可能

また、補助診断として陰嚢の超音波検査を行います。精巣の頭側に拡張・蛇行した静脈を認め、カラードプラー法で腹圧負荷による血流増加を認めます。触診で触知しないものの超音波のみで診断可能なものをサブクリニカル精索静脈瘤とよびます。手術による積極的な治療介入で精液所見の改善が期待できるのはおもにグレード2以上の静脈瘤になります。

図2 精索静脈瘤の超音波所見(カラードプラー法)

精索静脈瘤の治療

当院では全身麻酔または脊椎麻酔下に行う、顕微鏡下精索静脈瘤手術(顕微鏡下低位結紮術)を行っています。外鼠径輪の直上で2cmの横切開をおき、精索を把持し創外に引き出したのち、手術用顕微鏡下に拡張した精巣静脈を結紮・切断します。動脈・リンパ管・精管は確実に温存しています。当院では本術式を年間100〜130例程度施行しており、手術枠増加に伴い今後もさらに症例数が増えることが予測されます。現在まで大きな合併症はほぼ認めておりません。術後の精液所見改善率も良好な成績を収めております(81.4%)。

  • 図3 手術風景
  • 図4 術中所見(精巣静脈結紮切断後)

注意点・フォローの仕方

当センターでの精査の結果、手術・内服加療を要しない特発性の男性不妊症の患者さんや手術を希望されない患者さんに関しましては、当科で生活指導などを行ったのちに、適宜ステップアップなど女性側の治療を中心に進めていただくようお願いできれば幸いです。また、手術を行いました患者さんにつきましても、精液検査や痛みのフォローをお願いする場合がございます。その際も何かございましたらご遠慮なく当科までお問い合わせください。

患者さんを紹介する際の必要な情報や基準について

精索静脈瘤の有無にかかわらず精液所見の異常(WHO精液検査基準下限値を下回る)がある場合、お気軽にご紹介ください。特に無精子症に関しては、当院は精巣内精子採取術の指定医療機関となっており、染色体・遺伝子検査を施行の上、精巣内精子採取術を施行いたします。初診外来は毎週木曜午後を除く平日の午前・午後とも受け付けております。

診療科からのメッセージ

生殖医療センター(泌尿器科) 助教 竹島 徹平

生殖医療センター(泌尿器科) 助教 竹島 徹平の写真生殖医療センター(泌尿器科) 助教 竹島 徹平の写真

ご紹介いただきました患者さんは責任を持って当科で精査を行ったのち、治療が必要な患者さんは少しでも早く治療に移行できるよう努めております。精子は、精巣内の精細管で精粗細胞から3ヶ月かけて分化するため、精索静脈瘤をはじめとした治療効果がみられるまで3ヶ月程度要します。つまり男性因子も早めに治療を行うことが妊活成功の鍵となります。対象患者さんがいらっしゃいましたらお早めにご紹介いただければ幸いです。また、すでに人工授精や生殖補助医療に進まれているカップルにおきましても、男性側の治療を行うことで妊娠率の向上や妊娠までの期間の短縮が可能です。1組でも多くのカップルが赤ちゃんを授かることができるよう、日々全力で診療に当たっております。今後ともよろしくお願いいたします。

2005年 横浜市立大学医学部卒業
2005年 横浜南共済病院初期研修医
2007年 横浜市立大学附属市民総合医療センター 泌尿器・腎移植科
2008年 国立病院機構相模原病院 泌尿器科
2010年 横浜市立みなと赤十字病院 泌尿器科
2013年 国立病院機構相模原病院 泌尿器科
2015年 JCHO横浜保土ヶ谷中央病院 泌尿器科医長
2017年 横浜市立大学附属市民総合医療センター 生殖医療センター泌尿器科 助教
2020年 横浜市立大学 医学博士取得
2022年 横浜市立大学 ヘルスデータサイエンス修士取得

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