医療関係者の方へ

連携NEWS「子宮筋腫に対する低侵襲手術」

2022年10月28日公開

診断・治療

診断について

子宮筋腫は子宮筋層由来の良性腫瘍であり、モノクローナルに増殖した平滑筋細胞と血管および間質により形成されています。発生原因の全ては解明されていませんが、一つ一つの筋腫は子宮筋層内の幹細胞に遺伝子異常が生じることで発生するとされています。頻度が最も高い遺伝子異常はMED12遺伝子の変異であり、このタイプの子宮筋腫は比較的小さく、多発しやすい傾向があります。一方、MED12遺伝子が野生型の筋腫は染色体再構成が原因になっており、MED12変異型と比較するとより増大しやすいと考えられています。 遺伝子異常のタイプにより子宮筋腫の発生原因、腫瘍増大機構、治療反応性に差があると考え、私たちの施設ではこれらを解明するための研究を進めています(図1)。現在の診療では診断、治療において子宮筋腫を遺伝子異常で分類しておりませんが、将来的には子宮筋腫をタイプ別に分類し、腫瘍の性格を判断し治療を検討することが可能になるかもしれません。

図1 子宮筋腫発生の分類と仮説に関するシェーマ

子宮筋腫は小さいものまで含めると30歳代で20%、40歳代では50%の女性に発生しています。診断には超音波検査が最も簡易的かつ有用ですが、多発筋腫の位置確認、卵巣腫瘍との鑑別、悪性所見の評価などはMRI検査の方が優れています。半数以上は無症状であり、これらに対しては定期的にサイズを観察することで十分です。
子宮筋腫の症状は位置、大きさにより様々です。主な症状として、月経量や不正出血とそれに伴う貧血、疼痛、圧迫症状があります。また不妊の原因になることや妊娠中や分娩時の合併症につながることもあり、潜在的な症状を含め治療方針に関して患者さんと十分に話し合うことが必要です。また、症状が無くても悪性腫瘍が否定できない場合、骨盤を占拠するほど巨大な場合は手術療法をおすすめします。

治療について

有症状の子宮筋腫では患者さんの治療希望を優先し、治療法を選択していきます(図2)。治療法は保存的治療、手術療法、またはそれらの組み合わせからなり、多岐にわたります。軽微な症状は鎮痛薬、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(OC/LEP)、ミレーナ(LNG-IUS)などの対症療法のみで症状をコントロールできることがあります。手術療法を選択する場合、子宮筋腫の部位や妊孕性温存の必要性に応じて治療法を選択していきます。子宮筋腫摘出、子宮摘出の他、子宮動脈塞栓(UAE)、集簇超音波療法(FUS)も当院で施行することができます。

図2 治療法の選択肢

当院で特に力を入れていることは、患者さんの希望に寄り添うことです。例えば、巨大なため他院で開腹手術を提案された方に対しても低侵襲手術を希望する場合はなるべく腹腔鏡手術ができるように工夫します(図3)。腹腔鏡手術は傷が小さく、術後癒着や腸閉塞などの合併症リスクが低く、社会復帰が早くできます。ただし、腹腔鏡手術には視野確保に限界があるため、どうしても対応できないこともあります。

図3 腹腔鏡下に子宮摘出した2㎏を超える巨大筋腫(MRI T2強調像)

また、当院ではda Vinci Xiシステムを使用したロボット支援下子宮摘出術も導入しています(図4)。ロボット支援下手術の特徴としてフルハイビジョンの3D視野、鉗子を手指の自然な動きで手ぶれなく操作できる、術者が座って手術を行う、などがあり、高度かつ繊細な手術を安全に施行することを可能にします。子宮鏡、腹腔鏡、ロボット支援下、開腹、腟式といった各々の術式に適応し、メリット、デメリットはありますが、患者さんに最も適した手術を安全に行えるように準備しています。

図4 ロボット支援下手術中の術者と術野の様子

注意点・フォローの仕方

新規に巨大な状態で発見されたものや急速増大が疑われるものは子宮肉腫を含めた子宮悪性腫瘍を鑑別する必要があるため、MRIや子宮内膜細胞診・組織診などの精査を推奨します。

患者さんを紹介する際の必要な情報や基準について

患者さんのご紹介の際には症状や治療歴の経過について、特に内分泌療法の効果の有無は今後の治療方針を検討するに当たり大変参考になります。
ご紹介いただく基準として、主に保存的治療が奏功しない方、手術希望の方をご紹介いただければと考えますが、治療方針を迷っている場合など様々な治療選択肢に関しての情報提供を希望している方にも対応しています。精査や診察を希望せず、情報提供のみの場合はセカンドオピニオン外来へご紹介いただくことも可能です。
また、巨大な場合、悪性を疑う場合も是非ご相談ください。

逆紹介後のフォローアップで気を付けて欲しいこと

子宮筋腫の精査目的に当院にご紹介された患者さんが、当初は腫瘍も小さく、当院での治療希望が無かったために再度クリニックの先生方に逆紹介させていただくことがあります。もしも時間を経て症状が増悪した場合や手術希望が出てきた際はいつでもご紹介いただければと存じます。

診療科からのメッセージ

婦人科 浅野 涼子 部長代理

婦人科 浅野 涼子 部長代理の写真婦人科 浅野 涼子 部長代理の写真

いつも患者さんをご紹介いただきありがとうございます。当院は近隣の先生方のおかげでたくさんの患者さんが紹介受診され、良性の手術待機期間が長くなってしまうことがありますが、他の病院では開腹手術しか提案されなかった症例など、困難症例もなるべく低侵襲手術を実現できるようしております。また、UAE、FUSなどの特殊な治療方法も対応できますので、このようなことの一つ一つが患者さんの満足度につながると信じて努力していきます。今後ともよろしくお願いいたします。
また、術前の内分泌療法や貧血治療にも丁寧にご対応いただきありがとうございます。

2006年 横浜市立大学医学部 卒業
2008年 横浜市立大学附属病院 産婦人科 後期研修医
2011年 横浜南共済病院 産婦人科 医師
2013年 横浜市立大学 医学研究科 入学
2017年 横浜市立大学 医学研究科 卒業・医学博士取得
2017年 横浜市立大学 生殖生育病態学 助教
2019年 横浜市立市民病院 産婦人科 副医長
2020年 横浜市立市民病院 産婦人科 医長
2021年 横浜市立大学附属市民総合医療センター 婦人科 助教
2022年 横浜市立大学附属市民総合医療センター 婦人科 講師・部長代理

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