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生命医科学研究科 創薬有機化学研究室の研究成果が、ACS Medicinal Chemistry Lettersに掲載

2025.04.15
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ClozapineのPROTAC化に成功

生命医科学研究科の博士前期課程を修了した髙野玲奈さんらの研究グループは、ClozapineのPROTAC化に成功し、その研究成果が「ACS Medicinal Chemistry Letters」に掲載されました。
髙野さんがデザインしたアイキャッチ画像が、カバーアートとして選ばれました。
論文著者
生命医科学研究科 博士前期課程2年(2024年3月修了)
創薬有機化学研究室
髙野 玲奈たかの れいなさん

指導教員:
生命医科学研究科
創薬有機化学研究室 出水 庸介大学院客員教授


論文タイトル 
「Clozapine as an E3 Ligand for PROTAC Technology」
(日本語訳:Clozapineを E3リガンドとして利用したPROTAC開発)

掲載雑誌
ACS Medicinal Chemistry Letters
https://doi.org/10.1021/acsmedchemlett.4c00500
今回の研究内容について髙野さんに解説していただきました。
タンパク質分解医薬の一つであるPROTAC(Proteolysis Targeting Chimera)は、体内で不要なタンパク質(病気に関わるタンパク質)を分解する「ハサミ」のような役割を果たします。具体的には、問題のあるタンパク質を特定して、体の中の分解システムに引き渡すことで、そのタンパク質を取り除きます(ユビキチン-プロテアソームシステム(UPS)*1と呼ばれています)。このように生体内で疾患の原因となるタンパク質などを分解することから、既存の医薬品では治療が困難な疾病に対する革新的な創薬戦略の一つとして期待されています。PROTACは、E3リガーゼ*2リガンド、そして2つのリガンドをつなぐリンカー、標的タンパク質リガンドの3要素から構成されるキメラ分子です。PROTACは、病気の原因となるタンパク質(標的タンパク質)と、そのタンパク質に「分解の目印(ユビキチン)」を付ける酵素(E3リガーゼ)を引き寄せることで、体の中の分解システム(UPS)にそのタンパク質を分解することができます。
生体内にE3リガーゼは600種類以上存在するにも関わらず、PROTAC開発において汎用されるE3リガーゼの数は少ない現状がありました。そのため、近年ではPROTACへの新たなE3リガーゼリガンドの開発が活発になっています。
本研究では、E3リガーゼのひとつでタンパク質のN末端を認識する機能を持つUBRタンパク質に結合することが報告されたClozapine*3をPROTACのE3リガンドとしたPROTAC開発を行いました。私たちは、モデル疾患原因タンパク質としてエストロゲン受容体α(ERα)を標的タンパク質としたPROTAC(Tamoxifen-PEG-Clozapine)を開発しました。設計・合成したPROTACについて、ERα分解活性を評価した結果、UPSを介してERαを分解できることが明らかとなりました。この結果から、Clozapineを利用したPROTAC化に成功しました。しかし、標的タンパク質を十分に効率よく分解する力(活性)がまだ弱く、改良の余地があるという課題も残されました。薬として実際に使えるレベルにするためには、こうした活性の向上が欠かせません。そこで今後は、Clozapineの分子構造を工夫したり、つなぎ目となるリンカーの長さを調整したりすることで、より強力で確実に働くPROTACを目指して研究を続けていきます。
図1 本研究で開発したPROTACの分子設計とPROTACによるERαの分解
(A)Tamoxifen-PEG-Clozapineは、ERαのリガンドである4-Hydroxy TamoxifenとE3リガンドのClozapineを、PEGリンカーを介して結合して得られたPROTAC。
(B)PROTACは、ユビキチン-プロテアソームシステムを介してERαを分解誘導する。
髙野 玲奈さんのコメント
本研究では、近年注目されている医薬品であるタンパク質分解誘導剤のPROTACに利用可能な新たなE3リガンドとしてClozapineを報告しました。このClozapineという分子に至るまで、さまざまな分子をPROTACのE3リガーゼリガンドとして利用できないかと検討しては失敗し、かなり苦しい時期が続きました。リガンドに利用できそうな分子がないか論文を読み漁り、自分で分子を設計、合成を続けた結果、Clozapineを用いたPROTACで活性を見いだすことができ、結果が出た瞬間はとても印象に残っています。その後も実験を重ね、論文投稿まで至り、論文がInside Front Coverに採択していただいたこと、とてもうれしく思います。
本研究の遂行にあたり、ご指導いただきました出水先生をはじめ、国立医薬品食品衛生研究所有機化学部の皆さま、共同研究者として多大なるご支援をいただきました国立医薬品食品衛生研究所 遺伝子医薬部の大岡先生の他、お世話になりました皆さまに心より感謝申し上げます。

指導教員 出水 庸介 大学院客員教授のコメント
髙野さん、論文アクセプトおめでとうございます!
今回の研究成果は、髙野さんの粘り強い探求心と努力の賜物です。学部3年生から研究室に配属され、研究活動を通じて大きく成長された髙野さんが、Clozapineを新しいE3リガンドとして活用するという発想を実現し、多くの試行錯誤を経て得られた結果には、研究者としての真摯な姿勢が反映されています。また、カバーアートに選ばれたデザインも素晴らしく、研究の意義を視覚的にも際立たせています。
この成果がPROTACのさらなる可能性を広げることを期待するとともに、春から社会人として新たなステージで活躍される髙野さんの今後のご活躍も楽しみにしています。
用語説明
*1 ユビキチン-プロテアソームシステム(UPS):タンパク質に付加されたポリユビキチン鎖をプロテアソームが認識し、ATP依存的にユビキチン化タンパク質を分解するシステム。
*2 E3リガーゼ:ユビキチンを特定のタンパク質に付加する役割を持つ酵素。
*3 Clozapine:統合失調症などを治療する際に使用される抗精神薬。
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