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循環器・腎臓・高血圧内科学教室の塚本俊一郎助教が、日本高血圧学会総会でYIA最優秀賞を受賞!

2024.11.19
  • TOPICS
  • 公開講座
  • 研究

免疫細胞ATRAPの発現制御は高血圧を悪化させることなく食事誘発性肥満病態を改善する

横浜市立大学医学部 循環器・腎臓・高血圧内科学の塚本 俊一郎助教が、2024年10月12~14日に福岡国際会議場で開催された第46回日本高血圧学会総会において、「免疫細胞ATRAPの発現制御が血圧と肥満病態に与える影響」について発表し、 Young Investigator’s Award(YIA)最優秀賞を受賞しました。
授賞式の様子
受賞者
循環器・腎臓・高血圧内科学 
塚本 俊一郎助教

共同研究者
循環器・腎臓・高血圧内科学
田村 功一主任教授(市民総合医療センター病院長)
涌井 広道准教授

受賞内容
第46回日本高血圧学会総会
Young Investigator’s Award(YIA)最優秀賞

発表題目
「免疫細胞ATRAPの発現制御は血圧に影響せずに肥満病態を改善する」

関連論文
Tsukamoto S, Suzuki T, Wakui H, et al. Angiotensin II type 1 receptor-associated protein in immune cells: a possible key factor in the pathogenesis of visceral obesity. Metabolism. 2023;149:155706.
DOI:10.1016/j.metabol.2023.155706
今回の発表内容について塚本助教に解説していただきました
我々の研究室では、「心腎代謝連関」の克服をテーマに多くの研究を行っております。今回、その研究テーマの1つであるアンジオテンシンII受容体(AT1受容体)結合タンパク(ATRAP*1)の免疫細胞における発現変化が肥満病態に与える影響について解明し、研究結果を第46回日本高血圧学会学術総会において発表しました。

これまでに、我々の研究グループは心臓、腎臓、脂肪組織などの各臓器におけるATRAPの発現異常が、高血圧や糖尿病、肥満症の発症や進行と関連することを報告してきました[1-3]。また、免疫細胞にもATRAPが多く発現しており、生活習慣病患者の炎症やマクロファージ*2の分化に影響する可能性が示唆されていました[3,4]。しかしながら、具体的な免疫細胞ATRAPの機能についてはこれまで解明されていませんでした。

本研究では、骨髄移植によって骨髄・免疫細胞ATRAPのみを欠損させたマウス(骨髄ATRAP-KOマウス)を作成し、検討を行いました。その結果、骨髄ATRAP-KOマウスでは内臓脂肪の増加やインスリン抵抗性などの代謝障害が対照マウスと比べて改善していることが明らかになりました。さらに、そのメカニズムに脂肪組織中のマクロファージ極性の変化が関与していることが明らかになりました。一方、以前の検討で全身性ATRAP-KOマウスでは肥満病態における高血圧症の増悪が報告されていましたが[2] 、本研究結果から骨髄・免疫細胞のみのATRAP欠損では肥満病態における高血圧の増悪を来さないことが明らかになりました。

本研究の結果は、内臓脂肪型肥満の発症・進展に免疫細胞ATRAPが重要な役割を果たしており、また、骨髄・免疫細胞中のATRAPの発現は、内臓脂肪型肥満のバイオマーカーや内臓脂肪蓄積のサロゲートマーカーとして応用できる可能性が期待されます。さらに、免疫細胞ATRAPの発現制御は高血圧を増悪させることなく内臓脂肪型肥満の新たな治療標的となる可能性もあり、将来的には新規の肥満症治療の開発につながることも期待されます。
図1 研究の概略図
骨髄・免疫細胞中のATRAPノックアウトは血圧上昇を来すことなく、マクロファージ極性の変化を介して肥満病態の改善をもたらした
塚本助教のコメント
このたびは、栄誉ある賞を受賞することができ、大変うれしく思っております。
本研究は、田村功一主任教授、涌井広道准教授、免疫学教室の田村智彦教授、奥田博史助教にご指導いただきました。また同研究室の大学院生の協力があって、成し遂げることができました。改めて皆さまに感謝と御礼を申し上げます。


用語説明
*1 ATRAP:生活習慣病増悪因子結合受容体(1 型アンジオテンシン受容体)に直接結合し、その機能を制御する低分子蛋白(AT1 receptor associated protein)。
*2 マクロファージ:全身に存在する白血球の一種で、主に細菌やウイルスなどの病原体や腫瘍などの異常細胞の排除を行っている。心臓疾患や動脈硬化、腎臓病、肥満における内臓脂肪の増加など、感染症以外にも多様な病態に関与しているとされる。

参考文献
[1] Wakui H, et al. Cardiac-specific activation of angiotensin II type 1 receptor-associated protein completely suppresses cardiac hypertrophy in chronic angiotensin II-infused mice. Hypertension. 2010;55(5):1157-1164.
[2] Maeda A, et al. Angiotensin receptor-binding protein ATRAP/Agtrap inhibits metabolic dysfunction with visceral obesity. J Am Heart Assoc. 2013;2(4):e000312.
[3] Haruhara K, Suzuki T, Wakui H, et al. Deficiency of the kidney tubular angiotensin II type1 receptor-associated protein ATRAP exacerbates streptozotocin-induced diabetic glomerular injury via reducing protective macrophage polarization. Kidney Int. 2022;101(5):912-928.
[4] Haruhara K, Wakui H, Azushima K, et al. Angiotensin receptor-binding molecule in leukocytes in association with the systemic and leukocyte inflammatory profile. Atherosclerosis. 2018;269:236-244.
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