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大学院生 門井 辰夢さんが筆頭著者の論文がScientific Reportsに掲載!

2024.11.13
  • TOPICS
  • 学生の活躍
  • 研究
  • 理学部

横浜市立大学、東京大学、マリンオープンイノベーション機構(MaOI機構)、静岡県水産・海洋技術研究所、株式会社ウインディーネットワークとの産官学共同研究により、高周波超音波と深層学習を組み合わせたアサリの分布推定手法を開発

生命医科学研究科 博士前期課程2年(生命情報科学研究室所属)の門井 辰夢さんらの研究グループは、高周波超音波と深層学習を組み合わせたアサリの分布推定手法を開発しました。その研究成果が『Scientific Reports』に論文掲載されました。なお門井さんは、深層学習による甲状腺腫瘍の鑑別に関する論文*1を既に出版しており、2報目の筆頭著者論文になります。
筆頭著者
生命医科学研究科 博士前期課程2年
生命情報科学研究室

門井かどい 辰夢  ときむ さん

指導教員
生命医科学研究科
寺山 慧 准教授(生命情報科学)

論文タイトル
Development of a method for estimating asari clam distribution by combining three-dimensional acoustic coring system and deep neural network
(日本語訳:3次元音響コアリングシステムとディープニューラルネットワークを組み合わせたアサリの分布推定手法の開発)

掲載雑誌
Scientific Reports
DOI:10.1038/s41598-024-77893-7

今回の研究内容について門井さんに解説していただきました。
アサリは内湾の浅瀬に生息する二枚貝で、潮干狩りなどを通じて日本人にとって馴染み深い生き物です。しかし、アサリの日本における漁獲量は年々減少傾向にあり、1980年代には16万トンであったのに対し、2016年以降には1万トン以下と大幅に減少しています。その原因として、乱獲や食害・病虫害などさまざまな要因が考えられます。これらの要因に対処し、持続可能なアサリの資源管理を行うためにはアサリの個体数や分布を把握する必要があります。現在、アサリの分布調査には、アサリを実際に掘り起こして密度から個体数や分布を推定するサンプリング法が用いられていますが、この方法は時間と労力がかかり、環境に対して破壊的な影響を与えてしまいます。

本研究ではこのような課題に対応するために、非破壊的に効率よくアサリの個体数や分布を把握することを目的に、3次元音響コアリングシステムA-core-2000*2と深層学習手法の1つである3次元畳み込みニューラルネットワーク(3 Dimensional Convolutional Neural Network: 3DCNN)を組み合わせたシステムを開発しました。本研究は、1)深層学習モデル用の入力データの準備、2)深層学習モデルによる分類・評価の2つのパートから構成されています(図1)。前半パートでは、砂のみ(C)、アサリと砂(A)、巻貝と砂(M)、アサリと巻き貝と砂(AM)を入れた4種類のバケツを用意し、A-core-2000を使用して堆積物からの反射波形を計測しました(図1 (a))。その後、計測した波形データから3次元音響画像を構築し、構築した3次元音響画像をもとにデータの抽出および分割を行いました(図1(b), (c))。分割してできた局所領域データ内のアサリからの反射をもとに、アサリの有無に関するデータセット(データセット1)とアサリの個数に関するデータセット(データセット2)を作成しました(図1(c))。後半パートでは、得られたデータセットをもとに、アサリの有無を分類するモデルとアサリの個数を分類するモデルの2つの独立した3D-CNNモデルを構築し、それぞれの性能をROC-AUC*3などの分類性能を示す指標を用いて評価しました。

結果として、局所領域におけるアサリの有無をROC-AUCが約0.90と高性能なモデルの構築に成功しました(図2A)。また、分類において重要だと判断された領域を可視化する手法であるGrad-CAMを用いて解析した結果、予測モデルは比較的深い領域からのアサリと思われる反射に着目し、アサリの有無を予測していることが示唆されました(図2 B)。局所領域における個体数の分類モデルもマクロ平均ROC-AUCが0.80と一定の性能を示しましたが、巻貝など異なる生物を含む場合には精度が低下する傾向が見られました。

本研究は、3次元音響コアリングシステムと深層学習の融合による超音波非侵襲性の新たな海底生物モニタリング手法の可能性を示すものです。今後、東大水野研究室で開発されている、より高速で広範囲を計測するためのアレイソナーの導入なども視野に入れています。
図1:本研究の概要図
本システムは、1)深層学習モデル用の入力データの準備、2)深層学習モデルによる分類・評価の2つのパートに分かれている。1)では、まずA-core-2000を用いて計測サンプルからの反射波を計測し(a)、アサリが存在する領域を抽出し(b)、深層学習モデルの学習と評価に用いるアサリの有無と個数のデータセットを作成した(c)。2)では、(c)で作成したデータセットを用いて、独立した2つの3D-CNN(3次元畳み込みニューラルネットワーク)モデルを学習させ(d)、最後に3D-CNNモデルを3つの評価指標を用いて評価した(e)。
図2:アサリの有無を分類するモデルの性能と分類においてモデルが重視している領域の可視化
A:ROC曲線。分類する閾値に基づいて、横軸に偽陽性率(False Positive Rate)、縦軸に真陽性率(True Positive Rate)をプロットした曲線。
B:分類においてモデルが重視している領域を可視化したもの。左が予測した元データの三次元画像、右がGrad-CAMを適用した三次元画像。
門井さんのコメント
このたび、本研究の成果を論文として発表できることを、大変うれしく思っております。本研究は、多くの方々が協力してくださり、苦労を重ねながらデータの収集を行い、実現に至ったものです。皆さまのご尽力により、この成果を論文としてまとめられたことに、心から喜びを感じております。日頃よりご指導いただいている寺山先生をはじめ、東京大学新領域創成科学研究科の水野勝紀先生、生命情報科学研究室の皆さまに深く感謝申し上げます。今後も深層学習などを活用し、さまざまな分野の発展に貢献できるよう努めていきたいと思います。

指導教員 寺山 慧 准教授のコメント
門井さん、論文掲載おめでとうございます! 本研究は、浜名湖で門井さん自身がデータ取得から行い、深層学習による予測モデルの構築および評価まで一貫して行った研究で、非常に良い経験になったのではないかと思います。昨年出版された、深層学習による甲状腺腫瘍鑑別の論文に続く2報目の論文となり、日々の努力が報われたのではないでしょうか。今後もこの経験を糧に、活躍されることを期待しています。
また、本研究は、東京大学の水野勝紀先生をはじめ、マリンオープンイノベーション機構、静岡県水産・海洋技術研究所、株式会社ウインディーネットワークの皆様と実施した産官学による共同研究の成果です。この場を借りて、共同研究を進めていただいた皆さまに感謝申し上げます。
用語説明
*1 深層学習による甲状腺腫瘍の鑑別に関する論文:深層学習による濾胞性甲状腺腫瘍の鑑別に関して、大阪大学大学院医学系研究科病態病理学 野島 聡准教授らと共同研究。
https://www.yokohama-cu.ac.jp/news/2023/20230831kadoi.html
Nojima, S., Kadoi, T., Suzuki, A. et al. Deep Learning-Based Differential Diagnosis of Follicular Thyroid Tumors Using Histopathological Images,
Modern Pathology 36(11), 100296 (2023).

*2 3次元音響コアリングシステムA-core-2000:東京大学の水野准教授が開発した海底調査ツールで、高周波の集束型超音波センサを用いることで海底下を高い解像度で3次元的に可視化できる手法。
参考文献:Mizuno, K., Nomaki, H., Chen, C. et al. Deep-sea infauna with calcified exoskeletons imaged in situ using a new 3D acoustic coring system (A-core-2000). Scientific Reports 12, 12101 (2022).

*3 ROC-AUC:ROC曲線下面積で0〜1の値をとり、1に近いほど分類性能が高いとされる評価指標
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