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循環器・腎臓・高血圧内科学教室 大学院生 塚本 俊一郎さん(医師)が、CVEM2023にてYIA 賞を受賞!

2023.11.21
  • TOPICS
  • 学生の活躍
  • 研究

免疫細胞ATRAPは食事誘発性肥満の発症・進展に関与する

横浜市立大学医学部 循環器・腎臓・高血圧内科学 塚本 俊一郎 医師(大学院医学研究科 病態制御内科学 博士課程4年)が、2023年10月11日および11月8日にオンラインにて開催されたCVEM2023(心血管内分泌代謝学会)において、YIA(Young Investigator’s Award)を受賞しました。

YIAは、CVEM2023の学術総会において優れた研究発表を行い、かつ過去の優れた論文を発表した若手研究者、満40歳未満の日本心血管内分泌代謝学会会員を対象とした研究奨励の賞です。

オンラインにて開催されたCVEM2023での研究発表の様子
受賞者
循環器・腎臓・高血圧内科
塚本つかもと 俊一郎 しゅんいちろう 医師/大学院生(医学研究科 博士課程4年)

指導教員
循環器・腎臓・高血圧内科学 
田村 功一 教授 涌井 広道 准教授

発表題目
免疫細胞ATRAPは食事誘発性肥満の発症・進展に関与する
—研究内容について塚本医師に解説していただきました。
肥満症の拡大は世界的に深刻な問題です。特に内臓脂肪型肥満には注意が必要であり、これは高血圧、糖尿病、虚血性心疾患などのリスクを高めると報告されています。内臓脂肪の増加には多くの免疫細胞が関与すると考えられていますが、これらの免疫細胞と内臓脂肪との相互作用については多くの部分が未解明な状況です。

これまでに、我々の研究グループは心臓、腎臓、脂肪組織などの各臓器におけるアンジオテンシンII受容体(AT1受容体)結合タンパク:ATRAP*1の発現異常が、高血圧や糖尿病、肥満症の発症や進行と関連することを報告してきました[1]。さらに最近の報告では、免疫細胞におけるATRAPの存在が、全身の炎症やマクロファージの極性に影響する可能性が示唆されています[2,3]。しかしながら、肥満の病態における免疫細胞ATRAPの具体的な機能はまだ解明されていませんでした。

そこで、本研究では肥満の病態における免疫細胞ATRAPの病態生理学的な意義について検討を行いました。まず、通常の野生型肥満マウスでは肥満の初期段階で白血球中のATRAP発現が増加することがわかりました。そこで次に、骨髄移植によって骨髄のATRAPを欠損させたマウス(骨髄ATRAP-KOキメラマウス)を作成し肥満にしたところ、骨髄野生型キメラマウスと比べて体重増加、内臓脂肪増加、インスリン抵抗性などが改善していることが明らかになりました。さらに、内臓脂肪を詳しく解析すると、骨髄ATRAP-KOキメラマウスでは、内臓脂肪に浸潤するマクロファージの極性変化が脂肪組織の肥大抑制に関与していることが明らかになりました。

本研究の結果は、内臓脂肪型肥満の発症・進展に免疫細胞ATRAPが重要な役割を果たしており、また、骨髄・免疫細胞中のATRAPの発現は、内臓脂肪型肥満のバイオマーカーや内臓脂肪蓄積のサロゲートマーカーとして応用できる可能性が期待されます。さらに、免疫細胞ATRAPの発現制御は内臓脂肪型肥満の新たな治療標的となる可能性もあり、将来的には新規の肥満症治療の開発につながることも期待されます。

参考文献など
[1] Tamura K, et al . ATRAP, a receptor interacting modulator of kidney physiology, as a novel player in blood pressure and beyond. Hypertens Res. 2022 Jan;45(1):32 39. doi: 10.1038/s41440 021 00776 1.
[2] Haruhara K, et al. Deficiency of the kidney tubular angiotensin II typ e1 receptor associated protein ATRAP exacerbates streptozotocin induced diabetic glomerular injury via reducing protective macrophage polarization. Kidney Int. 2022 May;101(5):912 928. doi: 10.1016/j.kint.2022.01.031.
[3] Haruhara K, et al. Angiotensin receptor binding molecule in leukocytes in association with the systemic and leukocyte inflammatory profile. Atherosclerosis. 2018 Feb;269:236 244. doi: 10.1016/j.atherosclerosis.2018.01.013.
 
本研究成果は、こちらにも詳しく掲載されています。
www.yokohama-cu.ac.jp/res-portal/news/2023/20231020tsukamotos.html
塚本医師のコメント
この度は、栄誉ある賞を受賞することができ、大変嬉しく思っております。また、レベルの高い発表を多く拝聴することができ、非常に刺激になりました。この経験を自分の研究に生かしていければと思っております。
本研究は、田村功一主任教授、涌井広道准教授、免疫学教室の田村智彦教授、奥田博史助教にご指導いただきました。また同研究室の大学院生の協力があって、成し遂げることができました。改めて皆様に感謝と御礼を申し上げます。

指導教員:田村功一教授からのコメント

少子高齢化が進行中の我が国において求められている健康長寿のさらなる向上にとっての大きな課題は、非感染性疾患(NCDs: Non-communicable diseases)である腎臓病、糖尿病・高血圧、脳心血管病に対する対策の強化です。これらの病態は、互いに密接に連関し共通の病態基盤を有し、同一患者に併存する場合も多いことが特徴です。したがって、これらの病態は、一体的に”心腎代謝連関病”として捉えるべきであり、各病態に対する個別的対応とともに、包括的対応による”心腎代謝連関病”の克服が重要と考えます。そのような中、私どもの循環器・腎臓・高血圧内科学教室では、1853年黒船来航の横浜・神奈川の歴史に根ざす「門戸開放」、サイエンス・アカデミアの高みをめざす「研究重視」、地域貢献重点の「患者第一」を理念としています。
 当教室では、”心腎代謝連関病”に対する革新的な診断法・治療法の開発のための基礎研究・トランスレーショナル研究や疫学研究、臨床介入研究を推進しています。そのための一つの手法として、私どもが単離同定に成功した受容体結合因子ATRAPを起点とした”心腎代謝連関病”の病態制御研究にも力を入れています。
 今回、共同研究者の先生方にもご指導いただきまして、塚本医師がCVEM2023のYIAを受賞させていただきましたことを励みとして、さらなるサイエンスの高みをめざしていきたいと考えます。
 なお、2年後の2025年9月26日(金)-27日(土)には、パシフィコ横浜ノースを会場として『心腎内分泌代謝連関:伝統と革新の、その先へ』をテーマとして第29回日本心血管内分泌代謝学会学術総会を当教室が主催いたしますので、こちらもご指導いただきたく、何卒宜しくお願い申し上げます。
 

 <用語説明>
*1 ATRAP
 生活習慣病増悪因子結合受容体(1 型アンジオテンシン受容体)に直接結合し、その機能を制御する低分子蛋白(AT1 receptor associated protein; ATRAP ATRAP)

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